ラップをしながら、「これは思い込みや刷り込みなんじゃないか」っていう自分のクエスチョンにひとつひとつ答えを出していった。(あっこゴリラ)
—あっこさんが以前に別のインタビューで「ラップをすることで自分の自尊心を取り戻すことができた」とお話しされているのを読んで、受け身ではなく発信することが自分の尊厳を回復する手立てになったという点が、先ほどのKIKIさんのお洋服のお話と重なるように思いました。
あっこ:そうかもしれないです。自分も言いたいことが言えなかった時期は、付き合ってる男の人に合わせたりしていましたからね。そのときの自分は、すごく死んだ顔をしていました。
一同:(笑)。
里子:前にライブのMCで「愛想笑いを止めた」ってお話ししてましたよね。自分がくだらないと思う自分を、ひとつずつ破壊していったって。
あっこ:私は小5で初めて女友達ができたんです。それまでの私はかけっこで1位なのが当たり前で、全員蹴落として当たり前くらいの気持ちでマイペースにやっていたんですけど、そこから空気を読むことを知って、「こういうルールがあるんだ」とか「このグループにはこういうヒエラルキーがあるからこういう発言は控えなきゃ」みたいなことを学んで。最初は何も知らなかったから「なるほどな」みたいな感覚だったんですけど。
—未知のことを吸収していったんですね。
あっこ:でも、それがいきすぎちゃったんですよね。具体的に言うと、自分は周りの人より生理になるのが遅かったんですよ。だから「あっこまだなの?」みたいにバカにされたことがすごく嫌だったんだけど、生理になったときに「おめでとう、うちらの仲間入りじゃん」みたいに言われたのも、めちゃくちゃ違和感があって。なんでそんなに簡単に性を受け入れられるの? って。だけど、周りの空気を読むのが当たり前とされてる空間のなかで、そういう思考は生きづらいだけで無駄だと思い、捨ててしまったんです。
でもその違和感を封印し続けるうちに、ダムが決壊するタイミングがきてしまった。それでラップをしながら、「これは思い込みや刷り込みなんじゃないか」っていう自分のクエスチョンにひとつひとつ答えを出していったら、それまでにたくさんの違和感や疑問をないがしろにしていたことがわかりました。ラップをすることで、一歩一歩、地に足をつける感覚を取り戻していった感じなんです。
—ラップという言語化する行為を通して、自分の違和感や疑問が明確になっていったのでしょうか?
あっこ:そうですね、考えを言葉にして大勢の人の前で発することで、どんどん変わっていきました。最初は、言いたいことを言うといっても、自分の言いたいことが何なのか言葉ではわからなくて。理由よりもまず衝動が勝ってたんですよね。でもとにかくやらざるを得ない状況に追い込んで、言葉にするってことを繰り返してきました。
MCバトルはいろんな面において転機だったし、自分の違和感に気づくきっかけだった。(あっこゴリラ)
里子:前に、あっこちゃんがMCバトルで、相手がけなす言葉のつもりで「レズ」って言ったときに「レズ? 大好き ゲイ? 大好き みんな大好き」って返していて。私やKIKIはたとえばジェンダーの問題などを発信するときに、まずは理論武装しなきゃと思って、つい固くなりがちなんです。もちろん思想や理論も大事だけど、あっこちゃんは理解したうえでロジックを飛び越えた人間愛のようなものをバコーン! と伝えていたから、ああ、これだなって。みんなこれを聴いてほしいって思いましたね。
あっこ:そこ拾ってくれるの嬉しすぎる‼ MCバトルはいろんな面において転機だったし、自分が違和感を抱えていたことに気づくきっかけだったんです。バンド(HAPPY BIRTHDAY)が解散して仕事もゼロだし、誰からも期待されてない状態で、MCバトルに誘われて。そのときはMCバトル自体、知らなかったんですけど、出ることにして。
それで当日行ってみたら、女は私しかいないし、普段は接点がないような人たちばかりで、「これはやばい」と。でもここで帰ったら、私は一生ラッパーって名乗っちゃいけないんじゃないかと思って、無理やり出てブチかましたら、それがきっかけになって、イベントの誘いが来るようになったの。だけどMCバトルをやってみて、驚くことがいっぱいあって。女性がほぼいないのもそうだし、私「ブス」って1000回は言われているんですよね。
里子:私もバトルを見てめっちゃイラっとしちゃったことあるもん。
あっこ:そこだけすくい取ると、まるで男vs女みたいな構造ですけど、やはりMCバトルはあくまでスタンスvsスタンスなので、個々でムキになるのでなくあえて乗っかって「ブスじゃねえ、中の上だよ」とアンサーするのが、当時の私のスタイルでした。でもその後ラップに向き合っていくうちに、「そもそも中の上とかそういうモノサシすらどうでもよくね?」と考えるようになり、『CINDERELLA MC BATTLE』で優勝をきっかけにバトルに出るのをやめました。
初代優勝を決めた『CINDERELLA MC BATTLE』(2017年)
あっこ:本当にそれは本心からの主張なのかと自分の内側との対峙を繰り返していくうちに、多様性を認め合ってハンドメイドのモノサシで誇りを持ってる自分のほうが大事なんだと気づいて。その考えを濃縮させた曲をつくること、ライブをすること、今はそういうやり方で戦っていますね。