気づけば運命だった。きくちゆみこが振り返る、人生の波とその先

気づけば運命だった。きくちゆみこが振り返る、人生の波とその先

運命を感じるのは、いつも過去になってから

2019年1月 特集:ハロー、運命
インタビュー・テキスト:飯嶋藍子 撮影:小島直子 編集:竹中万季
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いまここで生きていて、この声で、この表情で、この感情を持っていて、っていうセットは、この瞬間、この場所にしかない。

つらい気持ちを抱えて日本に帰国したきくちさん。「一から人生をやり直したい」と思っていたときに出会ったのが、パートナーの松樹さんです。

きくち:東京の友達とも連絡を取り合わなくなってしまっていたし、自分の趣味も変わっていたから、とにかく新しい人に出会いたくて。偶然、松樹の友達が私の友達とつながっていて、その子たちが「松樹っていうやつが新しく店をつくっていて、そこでいろんなことができそうだから遊びにおいでよ」って誘ってくれたんです。松樹も美容師として独り立ちする、ちょうど変化の時期で。

それがきっかけで出会ったんですけど、出会ってすぐに「この人は私が一番仲良い人になるだろうし、私もこの人と一番仲良くなれる」って確信があったんです。恋とかドキドキとか関係なく、とにかくこの人と一緒にいたほうが、自分にとっても彼にとってもいいんじゃないかと思いました。

幼い頃からの居場所のない感覚や、人間関係の大きな変化、そんな渦中にいるとき、きくちさんは体と心がちぐはぐに感じていたそう。

きくち:ずっと頭と心と魂だけで生きているって思っていました。体があることが本当に煩わしくて、自分がちゃんと立っていない感じがしていて。でも、松樹との出会いによって、「私はこの体とこの心とセットなんだ」ってすごく思うようになったんです。

いまここで生きていて、この声で、この表情で、この感情を持っていて、っていうセットは、この瞬間、この場所にしかない。いま、このセットで誰かと出会っていくんだって思うと、すごいですよね。だってみんな全然違うセットなんだから。いましかないセットを持った人たちが、どこかでつながって出会っていることが運命なんだって思うとおもしろくて。ぜんぶ一度きりだと思うから。すごくわくわくします。

体と心がバラバラに感じてしまったり、さまざまな問題の渦中にいるとき。それは運命が変わるときなのかもしれないけれど、きっとすごく逃げ出したくなるくらい怖いものでもあるでしょう。そんなとき、きくちさんは「書くことに本当に助けられたんです」と当時の自分を振り返ります。

きくち:書くことって自分を客観視できる一番のツールだと思うんです。27歳の頃はTumblrに、自分の気持ちをそのまま書くというより、もう少し詩みたいな文章を書いていました。書くことで自分を物語化していく感覚がすごく強いから、正直にものを書いていると思ったことはなくて。私が28歳の頃からつくり続けている『(unintended.)LIARS』というZINEのタイトルも、言葉にする瞬間にすべてがフィクションになっていくと思ったので「LIARS」にしたんです。自分が書いているのは全部嘘。でもその嘘は、自分にとってすごくいい嘘で、自分を支えてくれるものになったんです。

それに、その瞬間瞬間で言葉の意味は変わっていくから、言葉にした瞬間にそれが体のなかから出ていって、私のものじゃなくなる感じがしていて。でも、過去に言ったことを忘れちゃったとしても、それを誰かが覚えてくれていたりすることもある。出ていった言葉は空気に散って消えてしまうんじゃなくて、絶対どこかで誰かとつながっていると思います。そう考えると、書かれたものは、本当の意味で真実なのかもしれない。

詩・写真・短編などが載った超・私的文芸誌『(unintended.)LIARS』をはじめ、きくちさんがつくってきたさまざまなZINE

私がここにいることがなにかに確実に影響を与えている。

自分の発した言葉がきっとどこかで誰かとつながっている。そう思えるからこそ、娘のオンちゃんに対する愛を「私がいなくなっても大丈夫なこと」と言葉にするきくちさん。

きくち:オンがお腹のなかにきたときに「体がある」って実感して、それまで風船のようにふわふわしていた自分の体に重しがついたような感じがしたんです。それで体と心がつなぎとめられたし、バランスが取れたと思います。そして、オンが生まれて、ジェネレーションの変化を実感したんです。私って確実にいなくなるんだって感じたし、それで全然いいんだって思えた。私は、「思い出」とか「思い出す」っていう言葉がすごく好きで。なにかを忘れないとか覚えていることって、掴んで離さないというか、意固地になっちゃう時もある気がするんです。でも、忘れてもいいからたまに思い出すっていう感覚は、すごくクリエイティブなものだと思っていて。

みんながなにか新しいものを生み出すとき、本当はすでにあったことを思い出すことによってなにかをつくり出しているんじゃないかなって。でも、それはいましかいない「私」が思い出しているからものすごくクリエイティブなことだし、それによって常に新しいものが生まれていると思うんです。

詩・写真・短編などが載った超・私的文芸誌『(unintended.)LIARS』をはじめ、きくちさんがつくってきたさまざまなZINE

きくちさんは「そういう思い出が、ぜんぶ蜘蛛の巣みたいに全部つながって運命みたいになっていると思う」と続けます。

きくち:量子物理学に興味を持ち始めてから、すべてがつながっていくような感じがあって。量子物理学の世界では、遠隔でも、ある一つの粒子が、ものすごく離れたところにいる粒子に影響を及ぼすことがあるらしんです。それである意味、テレパシーが可能なんじゃないかって言われていたり。ものの本質って、すべてもとを突き詰めれば素粒子っていう本当に小さな粒子でできているんだけど、その素粒子の回転数とか振動数によって性質が変わったり、その組み合わせでものの固さや柔らかさや色が決まるんだそうで。

そういう本を読んで、私がここにいることがなにかに確実に影響を与えているんだなって感じました。運命も、私がここにいることで、派生的にじわーっとすべてのことがつながっていくことなんだなって思ったんです。

PROFILE

きくちゆみこ
きくちゆみこ

言葉を使った作品制作・展示をしたり、時おり翻訳もします。
「嘘つきたちのための」小さな文芸誌 (unintended.) L I A R S 発行人。

「わたし、現実なんていらない。わたしが欲しいのは魔法なの! そう、魔法よ。わたしがみんなにあげようとしてるのは魔法なのよ。わたしは物事をねじ曲げて伝えるわ。真実なんて語らない。わたしが語りたいのはね、真実であるべきことなのよ!」(テネシー・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』)が座右の銘。

INFORMATION

関連情報

新作ZINE『SMILE, WHEN OUR EYES MEET 目が合ったのなら、微笑んで欲しいよ』発売中。3月に銀座で開催される『Tokyo Art Book Fair Ginza Edition』にも友人たちと参加予定。

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