私は結婚って男女がつがいになるうえで、使うとそれなりにお得になるという、ただの制度だと思っているんです。(犬山)
ー作品内でも結婚について「できる」「できない」と能力のように語られる描写がありますが、一人ひとりが納得できる選択であれば、結婚していてもしていなくてもよいはずなのに、結婚している方がまるで成すべきことを成し遂げたかのような感覚が、まだ今の社会の中ではあるように思います。
大九:結婚している立場の人からすると、結婚がゴールじゃないなんてことは、秒でわかるんですよ(笑)。だから脚本をつくるときにも、そういう描き方はやめましょうと、じろうさんとも話しました。
結婚ってなんなんだろうっていうことに関してはいまだによくわからないんですよね。わからないまま撮っているから、映画もそういう終わり方になっているのかもしれないですが。
犬山:それがすごくリアルだと思います。
大九:なかには、今の社会で一般的とされている「結婚道」みたいなものを受容して全うしていくような人もきっといるのだと思うんですけど。結婚した方がいいという外圧を感じている人はきっとたくさんいて、そういう状況はかわいそうだなと思いますね。
犬山:私は結婚って男女がつがいになるうえで、使うとそれなりにお得になるという、ただの制度だと思っているんです。だけど、監督もおっしゃる通り、「結婚をした方がいい」という外圧がすごいので、その制度を使わないとだめなんじゃないかという気持ちになってしまう。
あとは、結婚しないと一生孤独かもしれないという不安を抱いてしまう状況もあると思うんです。私自身も20代までは結婚願望が全然なかったのに、30歳になった頃からタカコと同じく「結婚しないと孤独死するかも」みたいな思いがずっとついて回っていて。今考えると、結婚していてもしていなくても、死は孤独なんですけどね。
結婚相手がいなければ、なぜか孤独な人間だと思わされてしまう。(犬山)
犬山:私、タカコとケイコが喧嘩するシーンを見て、ひどいことを言い合ってるのに、羨ましくなったんです。あんな風に友達に甘えるのって、すごく難しいことだから。もしもそんな関係の友達がいたら、それって決して孤独じゃないですよね。だけど今の社会では、結婚相手がいなければ、なぜか孤独な人間だと思わされてしまう。だからこそ、例えばDVをするような相手とも離婚しづらくなってしまったりするとも思うし。
ー結婚が万能な関係だと思われすぎているかもしれないですよね。孤独を感じずに生きていくための関係性を築くのは、結婚相手じゃなくてもいいはずなのに。
大九:でも、友達とそういう関係性をつくることって、もしかしたら結婚より難しいかもしれないです。私、本当に友達がいないんですよ。ふと振り返ってみると、飲む相手もほとんど仕事の関係者で。子供の頃や学生時代からの友達も、いるといえばいるけど、年に1回集まるくらいだし、折に触れて会って話をするような関係の人はいない。だから、女同士に限らず、生涯かけてそういう関係性を紡いでいける知人友人がいることは、結婚よりも尊いなと思います。
人と付き合っていくって難しいことですよね。私自身、一人でいる方が楽だし、人間関係を煩わしいと思う人間だったのに、なぜか映画といういろんな人にやりたいことを伝えるところから始まる仕事を選んでしまって。でも、この仕事についたおかげで、ギリギリ人としての形をとっていられるなあと思うんです。
そもそも、自分のことが好きじゃないと、他人のことも受け入れられない。(犬山)
犬山:私も人間関係ではかなり傷つきながら生きてきたし、自分も人のことを傷つけてきたと思います。今はすごくあがいていて、友達が欲しいし、友達との関係を長く続けていくことを腰を据えてやろうとしているところなんです。
だけどそもそも、自分のことが好きじゃないと、他人のことも受け入れられないんですよね。カウンセラーの先生に聞いてみたら、まずは「毎日寝る前に1日の中で自分の偉かったところを褒めてみて」と言われて。それをやっていると、確かに「私、なかなかいいんじゃないか」と思えてきて、それにつれて友達のこともすごく尊く感じられるようになってきたんです。
例えば、シミとかシワみたいに、一般的にない方がいいとされているものも含めて、その人の全部が愛おしくなってくる。大げさな話に聞こえるかもしれないですけど、そうやって寄り添いあっていける関係がつくれたらいいなと思っているんです。