川上未映子が提示した、正解がない家族関係を結ぶときの大切な指針

川上未映子が提示した、正解がない家族関係を結ぶときの大切な指針

「家族」が誰かが犠牲になることで維持されてはいけない

インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:森山将人 ヘアメイク:吉岡未江子
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わたしたちはいびつな世界で育ってきていること、そのなかでなにを獲得してきたのか、知っておくことが大切。

―『夏物語』には、ひとことで「家族」と言っても、血が繋がっている人、いない人、さまざまな関係が登場します。そのなかで、「この人が家族だ」と最終的に本人たちが腑に落ちるのは、血縁の有無ではないですよね。相手を思いやって、関係をメンテナンスしあっている対象にその感情がわきあがる。

川上:家族というのは、過ごした時間とか、なにを交換したかじゃないですか。なのに、「家族だから」ということで、そこをないがしろにしても免罪される風潮があるから、それはよくないな、って思います。

たとえば「家族だから」という名の下に、家族内での虐待のような痛ましい事件が起きたりもする。個人は所有できるものではないのに、できると思わせてしまう家族というのは、危うい概念だとも感じます。

―男女にかぎりませんが、既得権益や力を持っている者と、持っていない者の「わかりあえなさ」は、存在するというのが事実ですよね。

川上:存在します。男性が男性であるだけで罪だなんてことはもちろんありませんが、やっぱりいまの時代においてもなにかしらの点で既得権益の側にいて、その構造のなかで生活しているのだから、自分がどういう立場にいるのかということは各々が把握しておけたらとは思いますね。

「女性」にしても、わたしは「ヘテロセクシャルのシスジェンダーの女性」として、ときに想像力にかけた言葉を発しそうになることもある。そのことに対して、常にセルフメンテナンスをすることが必要です。

―それは個人の問題というより、社会構造のなかで育まれてきた感性や考えがベースになっているから、その考えをインストールしていること自体は責められることではないんですよね。大事なのは、いかにそんな自分を知って、気づいて、変えようとすることができるかどうか。

川上:わたしは親で、自分の子どもからしたら、生存をにぎる圧倒的権力者ですよね。だから使う言葉にも細心の注意を払っています。親だから、とか、親にたいして、という言葉は一度も使ったことがありません。その意識は常に持っておかなきゃいけないと思っています。

東京医科大学の得点操作の事件もそうですが、そんな性差別はあってはならないでしょう。そういういびつな世界で育ってきていること、そのなかで、誰がなにを獲得してきたのか、知っておくことは大切です。

気をつけていたって、間違いをおかしているかもしれないし、他人のことは、わからないことばかり。それを忘れないことが、大事。

―それで言うと、「当事者」ということに対して、どういう態度で向き合うかということが気になります。未映子さんが小説を書かれるときにも感じていらっしゃることかもしれませんが、たとえば女性がフェミニズムを語ると男性の肩身が狭くなってしまったり、シスジェンダーの女性が「女性」を語ると、自分とは異なるセクシャリティの方への視点や想像力が十分でないことにもどかしい気持ちになったり……。でもだからと言って、なにも言わないという選択だけが適切なわけでもなくて。

川上:だから、わたしたちは、気をつけていたって、間違いをおかしているかもしれないし、他人のことは、わからないことばかりです。それをわたしたちが忘れないことが、大事なんじゃないでしょうか。

さまざまなニュースだって、災害だってそう。他人のほんとう痛みなんて、どうしたってわからない。でも想像することに意味があるし、それもリレーションシップだと思います。

そして「当事者」という言葉もある意味難しくて、当事者も、当事者ではない人も、「当事者が言っていることは間違いない」って思ってしまうんですよね。でも、それがほんとうかどうかも含めて、持ち帰って想像することはできる。

―そうですよね。『夏物語』で、遊佐が「一番タチが悪いのは、自分はわかってると思っている人だ」というようなことを言うシーンがあって、リアリティがありました(苦笑)。

その「わかりかた」ということに、とても悩むんです。たとえば自分の日常においても、自分が子どもを産めるか産めないかはさまざまな事情で未知だけれど、子どもを産むことが自然だとされているなかで、産めない人もいるのだから、自分も産まないことにしよう……みたいな思考の流れは、なんだか他者を表面的に搾取しているような気持ちにもさいなまれるし、思いやりの内容と、自分の行動の矛盾をどうしたらいいのだろう? って考えます。

川上:ああ、難しいよね。それを突きつめていくと、結婚おめでとうはもちろん、お誕生日おめでとう、も言えなくなる場合もあるよね。なにかに対して是を言うことに非があるとしてしまったら、わたしたちはなにも言えなくなってしまう。だから、どんなことものごとも言う権利はあるけど、義務はないわけだ。

「こういうときは、一律にこうしよう」って決めるのは違うと思うから、やっぱり個と個の関係性を踏まえての思いやりだとか、そういうものでお互いの溝は埋めていくものなんじゃないかな。

PROFILE

川上未映子
川上未映子

1976年8月29日、大阪府生まれ。 2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛び立つ』など著書多数。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『夏物語』

著者:川上未映子
2019年7月11日(木)発売
価格:1,944円(税込)
発行:文藝春秋
Amazon

イベント情報
『Girlfriends CLUB vol.1~「夏物語」を読んで川上未映子さんと話す、わたしたちの生・性・死のこと~』

2019年11月17日(日)
OPEN 12:30 / START 13:00(15:00 終了予定)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ MADO
詳しくはこちら

『川上未映子さんの新作小説「夏物語」の感想を、「#夏物語と私」で届けてください』
投稿方法:
SNS(Twitter・Instagram)で「#夏物語と私」をつけて、感想を投稿してください。
投稿期限:11月15日(金)
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