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川上未映子が提示した、正解がない家族関係を結ぶときの大切な指針

川上未映子が提示した、正解がない家族関係を結ぶときの大切な指針

「家族」が誰かが犠牲になることで維持されてはいけない

インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:森山将人 ヘアメイク:吉岡未江子
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子ども以上の関係を他者と結ぶことなんて、いくらでも可能なことだと思います。

―それと、『夏物語』の終盤で突然でてくる、地球上のさまざまな音や音楽、挨拶などが収録された「ボイジャーのゴールデンレコード」が宇宙を漂っているという話が印象的だったんです。

未映子さんの意図とは違うかもしれないけれど、わたしはあの場面を読んだとき、子どもを産む人も産まない人も、どんな選択をした人も、一回きりの生というものが、宇宙のどこかには記録されていて、どこかでは覚えてもらえているかもしれないという希望のようなものを感じました。なんだか綺麗事すぎるけど、ひとりひとりは宇宙規模では等しい価値をもっていて、どれを選んでもいいんだよ、と言ってくれているような。

川上:うん。ほんとうに、選べなかった人生は、わからないから。うちの子どもとも、どういう関係を結べるかはわからない。でも、いまのところは、究極的にはもう自分とはまったく赤の他人で、でもとっても好きな他人っていう感じで。

だからわたしは、関係のメンテナンスさえあれば、子ども以上の関係を他者と結ぶことなんて、いくらでも可能なことだと思いますよ。

『夏物語』に登場するボイジャーのゴールデンレコード。1977年に打ち上げられた2機の探査機に搭載され、地球の生命や文化を伝える音や画像がおさめられている。地球外知的生命体や未来の人類が見つけて解読してくれることを期待し、いまも宇宙を漂っている。

―インタビューのはじめに、「生と死」の話がありましたが、「生きて、死んでいくこのいっさい」を書き終えていま、死についてどう考えていますか?

川上:書き終えられたかどうかはわからないけれど(笑)、子どもの頃からずっと祖母が死ぬことをおそれてきたのですが、『夏物語』を書き終えた後、祖母が亡くなってしまったんです。からだをずっとさすり続けて、目の前で息を引き取って、冷たくなって、それを目の前で見ていたのに、それでもまだ信じられない。いちばん身近な人の死を経験したのに、ちょっとまだ、死というのがなんだかわからないんです。不思議ですよ、本当に。物みたいに消えてしまうんです。

―そういう側面もあるかもしれませんね。

川上:夏子が子どもに「会ってみたい」というのも、実の父に会ったことがない逢沢が子どもをつくろうとするのも、そうすることでしか、自分の親や祖父母に会えないからかもしれないですね。でも、生まれてきた子どもというのは、その人たちとはまったく関係ないんですよね。

だから、会いたいという気持ちに、もし自分が知っている誰かに会えるのではないかという期待があるとすれば、それはやっぱり幻想なのかもしれない。子どもは、まったく新しい他人。でも、自分たちと無関係ではない。

きっといまを生きている人たちに繋がる物語になるんじゃないかって、祈っています。

―逢沢さんといえば、逢沢さんのような男性が、わりと古典的に「僕の子どもを産んでほしい」と言った後に、「僕と子どもを……」と言い直したのが鋭いなと思いました。

川上:そうなんです。男性の身体性と社会性をもって生きてきた人だと、なかなか最初から「僕と」とは言えないかなと思って。でも、「僕の子ども」と言って夏子が黙ってるから、ハッと気づくという(笑)。

川上未映子『夏物語』(Amazonで見る

―この小説のなかでは、第一部と第二部で約10年の時が流れていて、ひとつひとつの凝り固まった言葉や言い回しを新しく言い換えていくことで、時代が進んでいる/進めている様子がすごく見てとれて、素敵だなと思いました。

川上:その指摘はうれしいですね。この小説に答えはないし、わたしはなにもジャッジはしないけれど、夏子という38歳の目線で生きている女の人の目からしっかり人や世界を見るってことをやれば、きっといまを生きている人たちに繋がる物語になるんじゃないかって、祈っています。

最後のページから顔をあげたとき、読んでくださった方は、何を感じてくれるでしょう。こんなふうに生まれてきて、生きて、死んでゆくこの世界のいっさいを、どんなふうに感じてくれるんだろう。風は? 光は? 思いだす誰かのこと。もう帰らない日々、いつでも思いだせる笑顔、すべて。もし叶うなら、わたしたちはひとりひとりと、そんな終わりのない話がしてみたい。小説を書くということは、もしかしたらその気落ちとつながっているのかもしれません。
『夏物語』が、どうかあなたの人生の大切などこかと結びついて、いつまでも響きあう物語でありますように。
(『夏物語』刊行によせて、川上未映子さんが寄せた結びの言葉)

【前編】川上未映子が話す。わたしたちはなぜ子どもを生むのか、生まないのか

PROFILE

川上未映子
川上未映子

1976年8月29日、大阪府生まれ。 2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛び立つ』など著書多数。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『夏物語』

著者:川上未映子
2019年7月11日(木)発売
価格:1,944円(税込)
発行:文藝春秋
Amazon

イベント情報
『Girlfriends CLUB vol.1~「夏物語」を読んで川上未映子さんと話す、わたしたちの生・性・死のこと~』

2019年11月17日(日)
OPEN 12:30 / START 13:00(15:00 終了予定)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ MADO
詳しくはこちら

『川上未映子さんの新作小説「夏物語」の感想を、「#夏物語と私」で届けてください』
投稿方法:
SNS(Twitter・Instagram)で「#夏物語と私」をつけて、感想を投稿してください。
投稿期限:11月15日(金)
投稿テキスト、写真の使用について:
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作品の感想から、小説を読んで思い出したご自身のエピソードまで、どうか心の声をお聞かせください。
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