「よそおう」という言葉には、服をまとうだけでなく、態度や振る舞いに関することなどさまざまな意味があります。2019年6月に、15年間在籍したアンジュルム及びハロー!プロジェクトを卒業した和田彩花さん。これまでのアイドルの「らしさ」にとらわれない自由な姿、大学院で学ぶ美術史や仏像のことになると饒舌になる姿、ブログやライブで「女性のあり方」について発する力強い姿。そのすべてが和田さんであり、誰かのためでなく、自分のための「よそおい」を持っているように見えます。
グループ卒業後、個人活動をスタートした日に、彼女はオフィシャルホームページでこんな言葉を記しました。
「私が女であろうが、なかろうが、私がアイドルであろうが、なかろうが、私の未来は私が決める こんなことを口にせずとも叶えたいものだが、口にしなければ未来を自分でつかむことは難しそうだ だから、私は口にする 私の未来は私が決める 私は女であり、アイドルだ、」
潔い表明に拍手が止まない人も、力強い言葉に一瞬ドキリとする人もいることでしょう。個性豊かなグループのメンバーからもらった気付き、変化し続ける彼女を支えるファンの心強さ、そのすべてをエネルギーに変え、自分が「いい」と思う選択を重ねてきた和田さんのよそおいの選択について、お話を伺いました。
多くの子が「女性やアイドルとして当たり前に求められる姿」が存在する世界で生きている。
─和田さんはアイドルグループ・アンジュルムを卒業した後も、変わらずに「アイドル」として活動を続けられています。グループから個人になり、より多くの視線を一手に受けるようになったかと思いますが、「よそおう」ことについてご自身の変化があれば聞かせていただけますか。
和田:以前からひとりの「私」ではあったけれども、みんなには「好きなことをして、好きなものを選び取った方がいいんだよ」って言っていたのに、自分が一番それをできていなかったんです。私が一番年上で一番年下の子とは10歳離れていたので、年下の子たちに私の思想を植え付けてしまう可能性もあるなと感じていて、グループの中にいたときはどこかメンバーの視線を気にして、配慮していました。
だから、女性やアイドルとして「こういう疑問がある」ということを断片的にはみんなと共有できていても、ほんとのほんとのところで共有していたかというと難しかったし、自分自身でいられる時間というのは、どうしても少なかったと思います。ただ、みんなといる時間は本当に楽しかったので、そのことを特に苦には思っていませんでした。
─自分を形成していくやわらかい時期の人に対しては特に、一方的に強い発言をすることははばかられますよね。
和田:小さい子はお姉さんの真似をすることが多いですもんね。直接私が「こうしなさい」「これはダメ」と決めつけることはもちろんいけないけれど、私が言っていたことを反復するような発言を聞いたときに、これは気をつけなきゃと思いました。
多くの子が「女性やアイドルとして当たり前に求められる姿」が存在する世界で生きているから、ちょっとした違和感を覚えたとしても、明確に「違う」と気づくのはなかなか難しい。私はリーダーだったから発言する機会が多かったわけですが、グループというのは自分のものではないし、自分の意見だけを押し通すべきではないので、個人としてはアイドルに対する疑問がたくさんあったけれど、その疑問をアンジュルムを通してぶつけてしまったら誰かを傷つけることになるかもしれないという不安がありました。
─個人としての和田さんと、グループのリーダーとしての和田さんの両方の立場で、思考を重ねていたんですね。
和田:そうですね。だけどこれから女性やアイドルとして時間を重ねていく上で、きっと疑問や壁にぶつかる子たちが出てくるはずだと思ったから、「誰かを傷つけたくない」という気持ちと「それでも言わなければいけない」という葛藤の間で、少しずつ、表現していたんです。それが今ひとりになって、自分自身でいられる時間が圧倒的に増えた……というか、もうその時間しかありません。発言にさらに責任を持たなきゃいけないと思っています。
どうして私は「自然」でなければいけないんだろう?
─アイドルに対する疑問や違和感というのは、具体的にはどのようなことだったのでしょうか?
和田:ひとつは、「アイドルだから清楚でなければいけない」「無垢でいなければいけない」と純粋な姿を求められることですね。言葉にして直接「純粋でいてね」とは言われないけれども、あるとき私がリップを濃く塗ったらそれを「不自然」と指摘されたんですよ。「その色は不自然だよ」「その濃さは不自然だよ」って。その、自然/不自然という概念が私にはわからなかったし、どうして私は「自然」でなければいけないんだろう? と疑問に思いました。
それに、メイクの色に制限があったんですよね。そこには「アイドルだから」「女だから」純粋な姿でいてほしいという思いがあったと思うんですよ。今の時代、そういった制限を感じることは普段の生活においては減ってきているとは思うけれど、すこし前までは女の人は純粋で、大きな声で話さず大人しくすべき、という考えがあったわけで、アイドルの世界にはまだそういう風潮が残っているんだなと思いました。
─そうした女性像にフィルターをかけることは、アイドルの世界に限らず会社や学校、様々な場面で生じていると思います。逆に自分自身も、知らぬ間に相手に「こうあってほしい」姿を重ねてしまっていることもあるかもしれません。
和田:きっと「女性だからこうしてほしい」と思って言っているわけではなくて、いつのまにか社会における男女の構図が植えつけられていて、口から出てきてしまう言葉なんだと思います。無意識だとしても、そこには深い意味があって、大事なのはその構図を見つめ直すことだと思います。
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