自尊心やエゴとの戦いもあるけど。(アウファ)
─前回のインタビューで、「伝承を学んでいると、大きな伝承の流れの一部にいることがすごく幸せに感じる瞬間がある」とお話されていたことにも通じる感覚ですね。
コムアイ:伝承を受け継ぐことも、大きな流れの一部になることだから、自分の「個」を気にしていたらできないし、面白がれないと思うんです。大きな木の一部でいるようなほっとする感覚があります。
─コムアイさんにとっては伝承を学ぶことが心地よさにつながっていたように、それぞれが安心できるような信じられる対象を見つけるためにはどうしたらよいと思いますか。
アウファ:私の宗教では神様という存在があるけれど、人間はどんな形にしろ、何かを崇拝したり信じたりしていて、それにすがって生きているんじゃないかと思うんです。それは人によって、お金や愛や仕事や名声だったりすると思うんですけど、そういうものって有限で。
私は婚約破棄や友人との別れを経験したときに、救いようのない不安に襲われたんです。その人たちに執着し依存していたことで、世界が見えなくなっていたことに気がついた。その瞬間から自分がいったい何者で、何のために生きているのか考えはじめて、ようやくそこで神様を見つけました。どんなに愛する人たちも、いつかは私の元を去ってしまう。人の愛情は有限で、だから愛する人たちにすがるべきではなく、私は愛そのものにすがるべきなんだと思えた。愛を与える存在である神様を崇拝していれば、限りあるものも正しく愛せるようになる。
どうしようもない心境のときにお兄ちゃんから「平和しかない世界だったら、神様なんていらないんだから。どんな状況においても、信仰を通して自分の心をいかに平穏に保つかを考えることが大事。葛藤や苦難、幸福や成功をすべて、人生の教材として意味のあるものに変えてくれるのが信仰なんだ」と教えてもらって。それが私にとっての救済だったんです。
コムアイ:信仰をもっていない人にとっては、応用するのはなかなか難しいかもしれないけど、そこから学ぶことはできそうだよね。
アウファ:人それぞれの苦難や逆境があるから、その人になってみないとどんな人生であるかは他人には本当にわからない。神様は、みんなに違った独特な人生を与えていて、その人生を歩む中でしかできない特別な経験をさせてくれる。私にも私だけに与えられた人生のコースがあって、その中には自尊心やエゴとの戦いもあるけど、私は私なりの神様との向き合い方を見つけられるはずだと思っています。いまは「Aufa Tokyo」の活動を通して。
コムアイ:そういう「個」の見つけ方もあるんだね。イスラム教だけじゃなく、あらゆる宗教に祈りや瞑想の時間があるじゃないですか。礼拝ってその時間にいったん落ち着くことで、自分に立ち戻れる機能があるように思っていて。神様を持っていなくても、そういう時間をつくることはできるんじゃないかなと思いました。
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