季節や社会が揺れ動くなかで身も心も戸惑うとき、大丈夫でいられる日を少しでも増やすため、自分を救い、癒すものをどのように見つけていけばよいでしょうか。
She isに寄せたエッセイ『信仰をさまようわたしたち』でイスラムの教えを信じる友人の兄妹との出会いをきっかけに感じたことを綴っていた水曜日のカンパネラのコムアイさん。前回のインタビュー(「コムアイと話す、決まった信仰をもたない自分たちは何を信じる?」)では「宗教」や「信仰」に関する話題を中心に、5・6月の特集に関連し「ここで生きる」ときの眼差しを広げるためのお話を伺いましたが、今回はコムアイさんのエッセイに登場した兄妹の妹で、ファッションで表現するプロジェクト「Aufa Tokyo」を行うアウファ・ヤジッドさんとともにお話いただきました。
出会ってから一年ほど経つというお二人。信じるものを見つける過程、自尊心とのつきあい方、誰しもにいつか訪れる死についてなど、生きてゆくうえで直面するさまざまな普遍的なテーマについて、信仰を持つ/持たないそれぞれの視点から対話を重ねてゆきました。
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初めて会ったときはヒジャブのかぶり方を教えてもらって。それぞれの顔の形に似合うように涙の形とかひし形とかいろんな被り方があって、こだわりがいがあるなと思った。(コムアイ)
─コムアイさんとアウファさんはどのように出会われたのですか?
コムアイ:「BLOOMING EAST」というプロジェクトのリサーチで、アイデンティティやナショナリティが日本以外の国にありながら、さまざまなバックグラウンドを持って東東京に住んでいる人たちを訪ねたことがあるんです。そのなかで、綾瀬にあるアウファのお家にも取材に行かせてもらって、初めて会いました(コムアイが再び開拓する東東京。摩擦がある東京だからできること/CINRA.NET)。1日に何軒か取材して回るんですけど、アウファのお家は一番最後で。着いたのが夜の8時くらいだったので、ご飯をいただきました。アウファのお母さん、すごいんです。
アウファ:綾瀬の母と呼ばれていて。
─綾瀬の母……!
アウファ:綾瀬周辺にインドネシアにゆかりを持つ人たちのコミュニティがあるんですけど、留学生の子たちから頼られるお母さん的な存在になっているんです。
コムアイ:物件を探してあげたりしているの?
アウファ:それはお姉ちゃんがやっているんだ。
コムアイ:ファミリーみんなでやっているんだね!
アウファ:いろいろな人たちの手助けをしているうちに、「困ったら綾瀬のギナさんのところに行けばいいよ」ってだんだんとクチコミが広がっていって。ラマダン(ムスリムが日の出から日没までの間、断食を行うひと月)のような大きなイベントがあるとみんながうちに集まるんです。
コムアイ:初めて会ったときはヒジャブ(ムスリムの女性が頭を覆う布)のかぶり方も教えてもらったね。それぞれの顔の形に似合うように涙の形とかひし形とかいろんな被り方があって、こだわりがいがあるなと思った。もともとスカーフを頭に被るのが好きだから、ぴったりしていて安心感もあるし。インナーヒジャブっていうものもあるんですよ。
アウファ:インドネシアでは「ニンジャ」って呼ばれていて。
コムアイ:へええ。
アウファ:日本でもユニクロやイオンで売っているんです。私が今日被っているのもユニクロ。最近はコロナの影響で、マスク替わりに巻くために、完売しているところもあるらしいです。そういう使い方もあるんだなと思いました。
コムアイ:生き抜くためのヒジャブ術があるんだね。
「ヤングムスリム倶楽部」というムスリムの若者が集うコミュニティがあって、その集まりでも生きることについてみんなで語りあっていて。(アウファ)
─コロナの影響ということでいうと、今年はラマダンの時期と新型コロナウイルスの感染拡大が重なっていましたね。
アウファ:そうなんです。4月上旬に緊急事態宣言が出て、4月23日からラマダンが始まって。ラマダンはムスリム(イスラム教の信者。アラビア語で「(神)に帰依した者」という意味)にとっていつも特別だけど、今年はより一層特別な期間になりました。いつもだったら週末に人がわんさか集まって、イフタールという断食明けの食事や、礼拝を集団でやるんですけど、今年はそれができなくて。近所の人と家族だけで集まってイフタールと礼拝を毎日やっていたんですけど、すごく違和感がありました。
コロナの期間は家族と過ごす時間がかなり増えて、人生についての話をたくさんしていましたね。この状況に置かれた私たちが何を最優先すべきなのか、熱心に考えて再認識しあっていたと思う。
コムアイ:アウファの家に行くと、いつもそういう話をしているよね。
アウファ:うん、日頃からムスリムの人たちと会うと、よく将来や死後の世界のことが話題になる。「ヤングムスリム倶楽部」というムスリムの若者が集うコミュニティがあって、その集まりでも生きることについてみんなで語りあっていて。
ヤングムスリム倶楽部のInstagramより。この日はモザイクタイルアートの制作をおこなったそう
アウファ:緊急事態宣言の期間中は直接会えないからZoomで話してた。いまの世の中はすごく忙しいから、コロナの件がなかったら人生について考え直すきっかけがなかったと思う。この世界がいかに情報過多で、自分がいろいろな価値観に支配されていたかを実感できた期間だったな。
ヤングムスリム倶楽部のInstagramより。写真を使って、クルアーンにある言葉と向き合うワークショップ
ヤングムスリム倶楽部のInstagramより。イスラム教にまつわるお題で、芸人顔負けの大喜利を繰り広げる自称ヤングムスリムたち
コムアイ:私もそんな風に思った。私は明らかに情報過多な環境にいるけど、アウファにも変化があったんだね。
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