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ジェーン・スー・高橋芳朗・渡辺志保はなぜアリシア・キーズを追う?

ジェーン・スー・高橋芳朗・渡辺志保はなぜアリシア・キーズを追う?

エンパワメントのために武装するのではなく、武装解除する

SPONSORED:アリシア・キーズ『ALICIA』
インタビュー・テキスト:渡辺志保 撮影:山本佳代子 リード文テキスト・編集:竹中万季
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音楽界で最も権威のある賞『グラミー賞』。2020年はビリー・アイリッシュが主要4部門を独占したことでも話題になりましたが、そのビリーからも慕われ、2019年に続き2年連続で司会を務めたアリシア・キーズは、アーティストでもありながら、アクティビストとしても知られています。

自らの楽曲を通じてコロナ禍で苦境の中にある人にエールを送ったり、Black Lives Matterの動きと連動する発信を行うほか、自分に正直に生きるためにノー・メイクアップ・ムーブメントを立ち上げ、音楽業界で女性も公平に活躍できるための活動「She is The Music」を立ち上げるなど、数え切れないほどのアクションを行っている彼女。今回She isでは、今年10月7日に約4年ぶり7作目のニュー・アルバム『ALICIA』を発表したタイミングで、変化を恐れず、一歩先を歩きながら、軽やかに導いていく力強さを持つアリシアの活動を知るための鼎談をおこないました。

鼎談に参加したのは、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」の洋楽コラムコーナーでもアリシアの活動に度々触れてきたジェーン・スーさんと高橋芳朗さん。自身のラジオ番組でアリシアについても触れ、She isの記事「FENTY BEAUTY、#NoMakeup。美の基準を更新する黒人女性アーティスト」でもアリシアのノー・メイクアップ・ムーブメントについて執筆していただいた渡辺志保さんが聞き手となり、アリシアを愛する三人でさまざまな角度から彼女の魅力を解体していきます。

アリシア・キーズはどんな人物? 2001年のデビュー時の印象を三人が振り返る。「存在自体がオリジナルな新しい個性的なアーティスト」

渡辺:まず、2001年のデビュー当時のアリシアはどんなイメージでしたか?

スー:最初に出てきたとき、あまりにも(他のR&B女性アーティストと)違っていて、驚いたのを覚えてる。少なくとも私が知っている限りでは、ピアノを弾くアフリカン・アメリカンのポップ・アーティストがドーンと出てきたのは初めてだったし。それに、ファッションもかなり個性的だった。当時は日本の宣伝でも、コロンビア大学に入学したっていう触れ込みがフィーチャーされてて、ほかとの「違い」を強調されていたように思います。

渡辺:才女! みたいな。

スー:そうそう。曲はもちろん素晴らしいし、歌唱力も素晴らしい。それに加えて、存在自体がオリジナルな新しい個性的なアーティストなんだなって。

左から、渡辺志保さん、ジェーン・スーさん、高橋芳朗さん

高橋:アリシアの最初のレコーディングは1996年。ジャーメイン・デュプリ(アメリカの音楽プロデューサー)が手掛けたクリスマス・アルバム『12 Soulful Nights of Christmas』収録の“Little Drummer Girl”だった。そのあと1997年公開の映画『メン・イン・ブラック』のサウンドトラックに“Dah Dee Dah”を提供しているけど、初めてアリシアをちゃんと意識して聴いたのは2001年にJ・レコーズからラジオ向けのプロモーション用シングルとして出回った“Girlfriend”。この曲がオール・ダーティ・バスタード(アメリカのヒップホップアーティスト)の“Brooklyn Zoo”をもろに引用した作りだったからいわゆるヒップホップR&B的な音楽性のアーティストかと思っていたんだけど、いざデビュー・アルバム『Songs In A Minor』が届いたらピアノが似合うシンガー・ソングライター然としたたたずまいで思いきり意表を突かれた記憶がある。

しかも、『Songs In A Minor』の一曲目のタイトルが“Piano & I”。おそらくこれはニーナ・シモンの1969年リリースの名盤『Nina Simone & Piano』のオマージュだと思うんだけど、実際アリシアは音楽的にも思想的にもニーナからめちゃくちゃ影響を受けていて、2006年に組まれた彼女のプロテスト・ソングを集めたコンピレーション『Forever Young, Gifted & Black』ではみずからライナーノーツを執筆しているほど。さらにそのニーナからの影響を基盤にしながらキャロル・キングやローラ・ニーロといった同じニューヨーク出身の「ピアノ・ウーマン」の系譜を感じさせるようなところもあって、当時のR&Bシーンでは明らかに異質な存在だったよね。

渡辺:私も、当時のアリシアのシグニチャー・スタイルでもある、ブレイズ・ヘアでピアノを弾いている姿にヤラれましたね。しかも、デビュー・シングルの“Fallin’”もブルージーなスタイルの曲で、同世代の若い女性シンガーとは真逆のスタイルでびっくりした。高橋さんがおっしゃっていたように、ヒップホップの要素もとてもバランス良く取り入れてきて。個人的にはブルックリン出身のノトーリアス・B.I.G.の代表曲、“Juicy”のサンプリング・ネタとしてもお馴染みのMtume“Juicy Fruit”をアリシア流にリメイクした”Juiciest”も、確信犯的で大好きでした。そのあたりのセンスは、ニューヨーク生まれの彼女が自然と身につけてきたものなんだろうな。

アリシア・キーズのデビューシングル “Fallin'” (2009年)(YouTubeで見る

スー:最初、コロンビアと契約していたけど全然うまくいかなくて、音楽界の重鎮であるクライヴ・デイヴィスがアリシアをシンガーソングライターであるっていうことを全面に押し出して、改めてデビューさせた。ビジュアルも、当時のヒップホップテイストのカジュアルなファッションではなくて。

高橋:初期のトレードマークになっていたつばの大きなハットはインパクトあったな。

スー:あと、デザイン性の強いデニムをよく着ていたイメージがあるな。メイクも、最初は太いアイラインを引いたフォックス・アイだったし、彼女のマルチ・カルチュラルなところがスタイリングやメイクにも全て出ていて、それまでの“型”がないところに出てきた人だったよね。一方で、音楽は誰にでも親しみやすく、メロディアスで非常に分かりやすかった。のちのちまで残るであろうハイクオリティな楽曲を、ド頭から出せる実力に圧倒されたわ。

高橋:アルバム・デビュー後の第44回グラミー賞ではいきなり主要2部門を含む5部門制覇。この年の最多受賞だったからね。

渡辺:最優秀新人アーティスト賞から最優秀年間楽曲賞まで総ナメでしたね。デビュー以降のキャリアの築き方に関しても、見事でした。

アリシア・キーズ

スー:実は、ここまで社会にコンシャスな人だとは、私は思ってなかったの。デビューは20歳くらいでしょう? 当時は自分の意見を強く押し出せない環境にあったんだろうけど、今回、色々彼女のインタビューを読み返してみたら、割と早い段階で「ウォーク(Woke=目覚めた状態、意識が高まる様子などを指す)」したセレブリティの一人としてアメリカでは認識されていることに気づいたの。突然アリシアが成長しちゃったように私には見えていたけど、本人としてはずっと、物申していたんだなって。

渡辺:ここ数年、その意志が彼女の作品の中に帰結している感じはあります。

スー:特に2016年の『Here』からだよね。

スッピンでいる「ノー・メイクアップ・ムーブメント」を提唱。エンパワメントのために武装するのではなく、武装解除する姿勢

渡辺:あのアルバムは、いろんな受け取り方があるアルバムだなと思ったんです。彼女の素の姿やルーツを感じることができる内容ですし、怒りの感情や、楽曲の仕上げ方にも、飾らないラフな雰囲気を感じることができる。実験的でもあったから、それまでのアルバムで思いっきりポップスの方向に舵を切っていたアリシアの姿と対極的な感じもあって、私はちょっとビックリしました。

アリシア・キーズ『Here』(2016年)

スー:それまでのアリシアといえば、失恋含むラブソングの女王だったしね。もちろん、女性を励ます歌もあってガールズ・エンパワメントの人ではあったけど、世間から押し付けられることに対してNOと言う意志が明確になったのが『Here』だったと思う。

高橋:アリシアは2009年リリースの4枚目のアルバム『The Element of Freedom』収録の“Put it in a Love Song”でビヨンセとデュエットしていたよね。アリシアとビヨンセは同じ1981年生まれ。そんなこともあって当時はR&Bシーンのガールパワー二枚看板として志を共にしていたような印象だったけど、このコラボを契機にしてお互い独自の道を模索していくことになる。そしてアリシアは『Here』で、一方のビヨンセは『Lemonade』で、それぞれ奇遇にも2016年に出したアルバムで確固たるポジションを築き上げたのが興味深い。

スー:化粧も辞めたし。

渡辺:当時のアリシアは「ノー・メイクアップ・ムーブメント」を始めてスッピンでいることを提唱していましたよね。私は正直、「共感できないな」って思ってしまって。アリシアほど才能にも恵まれていて、キャリアも十分、資産もたっぷりあるだろうし、スウィズ・ビーツという有名音楽プロデューサーが配偶者で、息子にも恵まれている……そりゃメイクしなくても自信あるだろうよ! って思っちゃったんです。私にとっては、メイクアップって自分にないものを補完する、パワーをもらうものでもあったので、そこで“メイクは必要ない”っていう彼女のスタイルに少し面食らってしまって。

『Here』に収録されている “In Common” (2016年)(YouTubeで見る

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#nomakeup を提唱した頃の2016年のアリシア・キーズ。レナ・ダナムらによるオンラインメディア「Lenny」に掲載したコラム「Time to Uncover」で包み隠すことを止めると誓った。

スー:彼女はナチュラルでいることにこだわったわけだけど、ノー・メイクアップに関しては、女性の中でも意見が分かれたよね。それこそ、メイクって自分をエンパワーするものでもあるから、“それを否定された”みたいな意見もあって。本人はちゃんと“アンチ・メイクアップではない”とは言っているんだけどね。アリシアの態度は、もう誰かのために自分の魂や心もメイクアップで隠すのが全部嫌になった、ということなので。

高橋:『Here』に収録されていた“Girl Can't Be Herself”はまさにその「ノー・メイクアップ・ムーブメント」のアンセム的なナンバー。アリシアのスッピンに対する考えは基本的にここで述べられている。

スー:エンパワメントのために武装する、というよりは、武装解除の方向に行ったんだなと思ったの。この辺りの動きが、時代より若干早いんだろうな。

PROFILE

ジェーン・スー

コラムニスト/ラジオ・パーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~木 11:00~)のパーソナリティを担当。2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)では第31回講談社エッセイ賞を受賞。毎日新聞やAERAなどで数多くの連載を持つ。最新著書『女のお悩み動物園』(小学館)が発売中。

高橋芳朗

音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティ/選曲家。東京都港区出身。音楽雑誌の編集者を経てフリーに転身。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『金曜ボイスログ』などに出演するほか、国内外のアーティストのオフィシャル取材やライナーノーツも手掛ける。近著は『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』。連載は『クロワッサン』『ENGLISH JOURNAL』など。

渡辺志保

音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタヴュー経験も。block.fm「INSIDE OUT」を始め、ラジオMCとしても活躍中。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』などがある。

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
『アリシア』

2020年10月7日発売
価格:2,640円(税込)

1. トゥルース・ウィズアウト・ラヴ
2. タイム・マシーン
3. オーサーズ・オブ・フォーエヴァー
4. ウェイステッド・エナジー feat. ダイアモンド・プラトナムズ
5. アンダードッグ
6. アワー・ドライヴ feat. サンファ
7. ミー × 7 feat. ティエラ・ワック
8. ショウ・ミー・ラヴ feat. ミゲル
9. ソー・ダン feat. カリード
10. グラマシー・パーク
11. ラヴ・ルックス・ベター
12. ユー・セイヴ・ミー feat. スノー・アレグラ
13. ジル・スコット feat. ジル・スコット
14. パーフェクト・ウェイ・トゥ・ダイ
15. グッド・ジョブ
16. ショウ・ミー・ラヴ feat. 21 サヴェージ&ミゲル ※国内盤ボーナス・トラック

アリシア | アリシア・キーズ | ソニーミュージックオフィシャルサイト

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