近所に畑をやっているおじさんがいる。江戸時代からこのあたりの地主であるN家のおじさんだ。あるとき、ふと見ると畑の中に猫がいた。広大なトイレとして使用中だった。私は大抵生き物が何かしているときは、娘の乗った自転車を止めて観察するので、猫がささといなくなるまで畑のわきに立っていた。おじさんが近寄ってきて
「あいつら、苗もなんも掘り返して、しっしっ」と言った。
何も言わないでいる猫好きの私におじさんは続けた。
「えさやる人がいるんだよ。女の人で、しょっちゅう来て、かわいそうだのなんだの言って。主人と別れたかなんだって寂しいんだか知らないけど。あなたみたいなきちんとしたお母さんしてる人はそんなことないだろうけど。今時はすぐ別れるからね」
私は、まさに夫のところから実家に逃げてきて、離婚調停中の身だったので、ふふふと可笑しくなった。同時にこのおじさんとは仲良くなれそうにないな、と思った。どうして目の前の人が「きちんとした」人間ってわかるのかしら。よりによって、未婚で三人の娘を産み、父親も同じではなく、奇妙な結婚を経て離婚せんと奮闘している女を、「きちんとした」女と見間違えるとは!
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