遠くまで愛す/寺尾紗穂

「なにして生きる?」より「どうやって生きていく?」

2018年10月 特集:なにして生きる?
テキスト:寺尾紗穂 編集:野村由芽
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近所に畑をやっているおじさんがいる。江戸時代からこのあたりの地主であるN家のおじさんだ。あるとき、ふと見ると畑の中に猫がいた。広大なトイレとして使用中だった。私は大抵生き物が何かしているときは、娘の乗った自転車を止めて観察するので、猫がささといなくなるまで畑のわきに立っていた。おじさんが近寄ってきて
「あいつら、苗もなんも掘り返して、しっしっ」と言った。
何も言わないでいる猫好きの私におじさんは続けた。
「えさやる人がいるんだよ。女の人で、しょっちゅう来て、かわいそうだのなんだの言って。主人と別れたかなんだって寂しいんだか知らないけど。あなたみたいなきちんとしたお母さんしてる人はそんなことないだろうけど。今時はすぐ別れるからね」
私は、まさに夫のところから実家に逃げてきて、離婚調停中の身だったので、ふふふと可笑しくなった。同時にこのおじさんとは仲良くなれそうにないな、と思った。どうして目の前の人が「きちんとした」人間ってわかるのかしら。よりによって、未婚で三人の娘を産み、父親も同じではなく、奇妙な結婚を経て離婚せんと奮闘している女を、「きちんとした」女と見間違えるとは!

PROFILE

寺尾紗穂
寺尾紗穂

音楽家。文筆家。1981年11月7日東京生まれ。2007年ピアノ弾き語りによるアルバム『御身』が各方面で話題になり、坂本龍一や大貫妙子らから賛辞が寄せられる。以降、アルバム『御身onmi』『風はびゅうびゅう』『愛の秘密』『残照』『青い夜のさよなら』『楕円の夢』『私の好きなわらべうた』『たよりないもののために』をリリース。並行して伊賀航、あだち麗三郎と結成したバンド「冬にわかれて」の始動、坂口恭平バンドにも参加。活動は、映画の主題歌提供、CM音楽制作(ドコモ、森永など多数)やナレーション、エッセイやルポなど多岐にわたる。新聞、ウェブなどで連載を持ち、朝日新聞書評委員も務める。著書に『評伝 川島芳子』『愛し、日々』『原発労働者』『南洋と私』『あのころのパラオをさがして 日本統治下の南洋を生きた人々』、編著書に『音楽のまわり』がある。

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
冬にわかれて
『なんにもいらない』(CD)

2018年10月17日(水)発売
価格:3,024円(税込)
PCD-28041

1. 君の街
2. 耳をすまして
3. 白い丘
4. おかしなラストプレイ
5. 月夜の晩に
6. 冬にわかれて
7. 甘露日
8. なんにもいらない
9. 優しさの毛布でわたしは眠る
10. 君が誰でも
Amazon

書籍情報
書籍情報
『彗星の孤独』
著者:寺尾紗穂

2018年10月17日(水)発売
価格:2,052円(税込)
発行:スタンド・ブックス
Amazon

『音楽のまわり』
編著:寺尾紗穂

著者:
寺尾紗穂
伊賀航
植野隆司(テニスコーツ)
あだち麗三郎
ユザーン
折坂悠太
知久寿焼(たま)
エマーソン北村、
マヒトゥ・ザ・ピーポー
浜田真理子
2018年7月発売
価格:1,944円(税込)

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