夢と夢の間/吉澤嘉代子

おやすみの夢と憧れの夢、私の夢と誰かの夢を繋ぐもの

2019年3・4月 特集:夢の時間
テキスト:吉澤嘉代子 編集:野村由芽
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子供の頃に魔女にさらわれる夢をみた。古い屋敷、黒いドレス、大粒の宝石、それらの主である老婆が、妙に生々しく焼きついた。あのまま帰らなければ私も魔女になれたのかもしれない。そんな考えが生まれて、いつからか恐れは憧れに変わった。ふたたび迎えが来る日まで、魔女修行と称して実家の工場の屋上で独り遊びを始めたのだ。当時の私は学校に馴染めない不登校児で、どこにも行く場所を見いだせなかった。生きるための術として、もうひとつの世界やもうひとりの私の存在を信じたかったのだと思う。とはいえ空を飛ぶことも飼い犬と喋るまでもなく、工場解体とともに私の魔女修行は終わった。あの頃の記憶も、あまり人に語りたくない過去として息をひそめた。

子供の頃の私をやっと受けいれられるようになったのは、歌をつくるようになってから。いつも救われてきた物語というかたちが、私の音楽のかたちになった。主人公その人になり泣きながら曲を書くとき、あやつる私とあやつられる私が抱擁を交わし、幸福の渦に飛び落ちてゆく。私には私がいるので大丈夫と、その時間だけは本気で思えるのだ。大人になった体の中に、少女の頃の何かが残っていることを感じた。すべてを引き連れていると思った。
少しずつ音楽で暮らしていけるようになって、会いたかった人に会わせてもらったりもした。嬉しくて楽しくて辛くて苦しくて、すべてをひっくるめて幸せなのだと思う。だけど、夢は夢でなくなった。現実になったのだ。いつかこの環境を失ったとしても、恵まれているよなと自分自身に問いかけてみる。

今の私の夢は何だろう。歌の中で主人公を演じ続けているので、現実で何者かになりたいという思いは薄れてしまった。名前を賭けた博打のような仕事であるので、せめて日常では穏やかに暮らしたいと願うようになった。なんだか、なんだかな。それでいいのだけど。

夢のさきへ進んだ私のもとへ手紙が届く。家で学校で会社で病室で戦う人たちからの手紙だ。現実は鬼よりも手強く、いっそ地獄であればと祈るほどに容赦ない。そんな最中こそ、どうか物語がもうひとつの世界やもうひとりの貴方を見せてくれますように。子供の頃に親愛なる作者たちから受けとったように、私のいつかの夢が、今誰かの夢を繋いでいるのかもしれない。

PROFILE

吉澤嘉代子
吉澤嘉代子

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場育ち。
ヤマハ主催「Music Revolution」でのグランプリ・オーディエンス賞のダブル受賞をきっかけに2014年メジャーデビュー。
バカリズム作ドラマ「架空OL日記」の主題歌として「月曜日戦争」を書き下ろす。2ndシングル「残ってる」がロングヒットする中、2018年11月7日に4thアルバム『女優姉妹』をリリース。

INFORMATION

リリース情報
リリース情報
吉澤嘉代子
『女優姉妹』(CD)

2018年11月7日(水)発売
価格:3,024円(税込)

1. 鏡
2. 月曜日戦争
3. 怪盗メタモルフォーゼ
4. 女優
5. ミューズ
6. 洋梨
7. 恥ずかしい(新録)
8. よるの向日葵
9. 残ってる
10. 最終回

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