6月2日/植本一子

夫でラッパーのECDが亡くなった後、娘の誕生日の一日

2019年5・6月 特集:ぞくぞく家族
テキスト:植本一子 編集:野村由芽
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下の娘の9歳の誕生日。上の娘を含めれば、娘たちとはすでに10年以上一緒にいることになる。私は18歳で実家を出たので、自分の家族と一緒に暮らしたのは18年だったが、娘たちだってそれくらいになれば私の元から離れていくことになるだろう。そう考えると、一緒にいるのはほんの少しの間なのだな、と急に寂しくなる。去年の初めに夫が亡くなり、私たちは3人になったが、今はミツという人間も一緒に暮らしている。

誕生日が特別なのは間違いない。しかし今日しか都合のつく日がなく、私はこんな日の夜にトークショーの仕事を入れてしまった。それを下の娘に伝えた時には予想外なことに拗ねてしまい驚いた。何と言ってもまだ9歳なのだ。今日になってしまえば「トークショー入れるなんて信じられない!」と文句を言ってくれるから安心したが、激しく反省もした。なんとかフォローをしようと思い、朝から買い物に出かけたミツにケーキを買ってきてもらって、昼間の早いうちに4人でささやかなお祝いをした。私のプレゼントは、娘がリクエストしていたダウンロード版のゲームソフトをクレジットカードで買っただけだったが、ミツと上の娘は誕生日プレゼントをしっかり用意していて、立つ瀬がないとはこういうことかと思った。

娘の機嫌が心配だったものの、後のことはミツに頼んで、夕方には家を出た。私の新刊の刊行記念のトークショーだったこともあり、歴代の担当編集さんや友達がたくさん集まってくれて、トークショーから打ち上げまで、気のおけない人たちに囲まれて楽しい時間だった。そして「今日はえんちゃんの誕生日ですよね?」と、いろんな人からたくさんのプレゼントを受け取った。帰りの電車は腕が重いほどで、自分は何もしてないのに、手柄をとったようにプレゼントを大事に抱えて歩いた。

23時前に家に着くと、ミツが本を読んで起きていた。家のことありがとね、と声をかけると、今日はいっぱい家事したよ~! と誇らしそうにしている。通販で買った、簡単なおかずキットを夕飯に作るよう伝えてあったのだが、それ以外にもいろいろ買ってきたらしく、3人で娘の誕生日パーティーをしたのだとか。レシートを見ると、マクドナルドと駅前のスーパーで買い物をしたのがわかる。フライドポテトとナゲット、20パーセントオフになったお惣菜のローストビーフに、2リットルの三ツ矢サイダー。母が不在でも、娘たちは嬉しかっただろう。私がいたとしても、ここまではしなかったと思う。ミツのフォローがありがたかった。

最近は「家族」という言葉が、自分にとってどう受け止めればいいのかわからないものになりつつある。私には、血縁や制度に限られるものだとは思えないのだ。それくらい、ゆるやかで大きなイメージの広がりを含んでいる。今日会ったのは、その中に入る、大事な人たちだ。私は決して1人で子育てをしているわけではない。たくさんの人に助けられながら、娘たちを見守ってもらっている。こんなに心強いことはない。

誰とも結婚してないし、家族でもない。
それでも私たちは今、紛れもなく一緒に生きている。

PROFILE

植本一子
植本一子

1984年、広島県生まれ。2003年、キヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞し写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活動中。13年より下北沢に自然光を使った写真館「天然スタジオ」を立ち上げ、一般家庭の記念撮影をライフワークとしている。著書に『働けECD わたしの育児混沌記』『かなわない』『家族最後の日』、共著に『ホームシック 生活(2〜3人分)』(ECDとの共著)がある。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『台風一過』
著者:植本一子

2019年5月25日(土)発売
価格:1,988円(税込)
発行:河出書房新社
Amazon

6月2日/植本一子

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