恋人をよそおう罪/みくりや佐代子

同情じゃなくて愛情だったらよかったのに

2019年9・10月 特集:よそおうわたし
テキスト:みくりや佐代子
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She isでは、毎月の特集テーマをもとに「VOICE」を書いていただける方を公募で募集。2019年9・10月の特集「よそおうわたし」の公募に寄せていただいた、みくりや佐代子さんのVOICEをご紹介します。

忘れるだとか、忘れないだとか。あの夜のスーパーの駐車場だとか。

「ありがとう」は薄いピンクで角が丸くて、あたたかい。でもあの日の「ありがとう」は、青みがかって温度がなかった。あの日というのがいつの季節だったか、長袖だったか半袖だったか、迎えに来てくれた車の車種さえ、私はもう忘れてしまった。ただ、きつね顔で細身のその人が、私にくれた「ありがとう」だけをまだ覚えている。

「バイトが終わった」というメールに「寝れないから迎えに行く」と返事が来たとき、私はまだ20歳だった。相手も20歳だった。迎えに来た車に乗り込み、少し喋ろうと言って、スーパーの駐車場でいつも一時間話した。
彼の名前はまーぼ。同じ大学だったけれど、彼は学校に行かなかった。どれだけ言っても朝起きようとしなかった。面倒くさいが口癖だった。ガソリンスタンドのバイトが忙しいと言った。その割に、パチンコは時間つぶしだと言った。

私たちは恋人同士じゃなかった。

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PROFILE

みくりや佐代子

1988年生まれのライター・エッセイスト。微炭酸な文章を広島から発信。2020年4月にインプレスクイックブックス社より著書「あの子は『かわいい』をむしゃむしゃ食べる」が刊行予定。好きな食べものは汁なし担々麺。

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