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頼まれずともめちゃくちゃ働いてしまう私たちの休み方/生物群

休んでいるような休んでいないような、下ごしらえの時間

2019年7・8月 特集:やすみやすみ、やろう
テキスト:生物群 編集:野村由芽
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私たちは誰に頼まれるでもなくめちゃくちゃ働いてしまう。
最近休むというのがよくわからなくなってしまった。

先日、生まれて初めて帯状疱疹になったのですが、そのとき3日は職場(病棟)に行っていなかった。つまり通常の病院勤務を休んでいたあとのことでした。夜もしっかり寝たし、入浴もしていた。水も飲んでいた。食事も多すぎも少なすぎもせず食べていた。お酒は多少飲んでいたが多くはなかった。友人と会って食事して近況を話す余裕もあった。多忙のピークなんかでは全然なかった。それなのになぜ……。服に触れるだけでうずくように痛み、腫れる患部の皮膚をのばしながら鏡で見て、うらめしくそんなことを考えてしまいました。
しかし、そのあと振り返ると、確かに病棟には行っていなかったのですが、その3日間は学会の準備をして学会に行っていたので、実際には休んでいなかった。自分では病院で何かしている間が働いている時間で、それ以外は休んでいるような気がしていたが、そうじゃなかった。そうなんですよね。通勤している間も働いてるわけじゃないけど、別に休んでいない。

私たちが休むには、本当は、何も考えず、何もしない、ふだんの時間から切り離された自由な時間と場所が必要なのだと思います。だから、海辺で寝そべるためにわざわざ飛行機に乗って夏休み、海外に行ったりもするのです。でも、そんなに頻繁には休むために遠くへは行けないことも多いですね。

4月くらいから料理を作ることにこれまでよりいっそう没入感のような快感を覚えるようになってしまい、仕事が終わって家に帰ってくるとコンタクトレンズも外さずまずはすぐに湯を沸かしたり食材に塩をしたり浸水したりと下ごしらえを始めるような生活を送っています。途中で食事を食べたり浴槽に浸かったりしながら寝る前まで料理して明日作りたいものをメモに書きとめてテーブルの上に置き、横になります。なぜか早朝に起きて豆を煮たりしながら朝食をとり弁当を作り病院に行きます。流れるように常に料理するようになって思ったのですがこういうある程度時間が必要な料理、時短料理でない下ごしらえの必要な料理をするときって時間の感じ方が何もしていないときと違う。

3分で湯を沸かす。
まぐろのさくに塩をまぶしておく15分。
湯気のたつせいろにごろんとビーツをころがして待つ40分。
バターを常温に戻す1時間。
ヨーグルトをコーヒーのドリッパーにセットして水切りをする5時間。
乾燥豆を浸水しておく一晩。
豚ばら肉に1%の塩とレモンとローズマリーを合わせて冷蔵庫で3日間。
青唐辛子を細かく小口切りにし、同量の麹と醤油に浸して1週間。

そのあいだ(そう、水が沸騰するまでの時間でさえも)、私はそこから離れ、気持ちだけ少し残して他のことを少しだけするのですが、休んでいるような休んでいないようなそういうちょっとオートマチックな時間で、けっこう好きです。何も100%でずっとその場でがんばらなくていい、いろんなことに手を出していろんなことをそのとき楽しめばいい、置いておいたものもあとでちょっと面白くなってくる。この没頭しているものがある時間が休んでいるのか、そうでないのかはよくわかりません。でも、自分を騙しながらある意味休んでいるのではないかと思っているのですが……。

保存食、鰯のレモンとコリアンダーのビネガー漬け

普段、仕事で患者さんと話しているときに、ときどき「どれくらいがんばればいいか」という話になります。今入院しているけど、退院に向けて外出をしてみたい。リハビリをして体の機能を取り戻したい。私の診ている方は体力の消耗の激しい病態の人も多いので、だいたい「60%でやってください」と話します。自分の100%のパフォーマンスのその半分、より少しはみ出してもよいくらいをイメージしてくださいと言います。そしてそのあと2日間は疲れが戻ってくると思ってしっかり休むこと、疲れで体調が悪くても「疲れるのは当然のこと」と大きく構えてくださいねと話します。これは病気をもたない人にも応用できる考え方で、疲れているときや本調子じゃないとき、100%の力でやらずに60%でやること、60%でやったあとに疲れることをわかった上で休むこと。この繰り返しで倒れずに乗り切れるということがあると思います。

ほんとうは遠くへ出かけて休みたい。でもそうできないときに下ごしらえのいる料理に没頭すること、60%でいる自分を許し、大きく構えること、今はそんなふうに毎日過ごしています。

PROFILE

生物群
生物群

ジャンルにとらわれず目が届く範囲の様々な食べものを食べるインターネットユーザー。あくまで自身の信念である「今晩自宅に無事帰宅する」ことを貫きながらも、積極的にアルコールも飲んでいくスタイルが特徴。近年はカレーに並々ならぬ情熱を注いでいる。本職は心優しい内科医。

INFORMATION

書籍情報
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文化誌『庭 vol.3.0』

ーわたしたちの庭へようこそ。「庭」は多人数でつくる文化誌です。ここは自由で、制約はありませんー
友人のowaruchannelが編集した文化誌『庭 vol.3.0』を出版します。今回のテーマは《生きている人が死について考える》。私も文章を寄稿します。リリースしましたら、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。
また、8月末ごろまで『庭 vol.3.0』に掲載するアンケートの回答を広く募集しています。写真家 志賀理江子さんの問いをレファレンスした「もしもこの世に宗教もお葬式も、あらゆる形式の弔いがなかったとしたら、大切な人が亡くなった時に、あなたはどのように弔いますか」という質問にお答えください。庭にはみなさんも参加できます。

庭 - 庭vol.3.0 アンケートのおねがい

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