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映画の登場人物みたいによそおって/かとうさおり

『ラマン』のソフト帽、『汚れた血』の赤いカーディガン

2019年9・10月 特集:よそおうわたし
テキスト:かとうさおり 編集:竹中万季
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『20センチュリー・ウーマン』のトニー・アルヴァのTシャツ

男の子たちのワードローブもわたしの守備範囲。とりわけ、Tシャツ。

彼らのTシャツの着方は、いつもとても参考になる。とにかく、真っ直ぐに着るのだ。その1枚のTシャツが、そのまま彼らの正装になる。

Tシャツに載せられたお気に入りのバンドやスケートチームのプリントが、自身のアイデンティティの鏡となることはしばしば起こりうる。話しかけてみたい人が最高のTシャツを着ていたら、すぐに意気投合できそうな気がするよね。

その時代を代弁しているようなTシャツの場合には、その時代のダイナミズムからもパワーをもらえる気がして。

『20センチュリー・ウーマン』のジェイミーが着ていたアメリカのスケートボーダー、トニー・アルヴァの黄色いTシャツはとにかく目を引いた。

この映画の舞台は、1979年のサンタ・バーバラ。監督のマイク・ミルズが、76年ごろに生まれたパンク・ムーブメントがアメリカの田舎のティーンエイジャーに届くようになったのが79年ごろだった、と語っているインタビューを目にしたことがある。その当時のアメリカに思いを馳せてみるのも、なんだか楽しい。

トニ―・アルヴァのTシャツに心惹かれたのは、実は2回目。アメリカ西海岸の伝説のスケートチーム、Z-BOYSを率いていた彼はスケートボード界の神的存在。『DOGTOWN & Z-BOYS』を観た時に勢いあまって、Tシャツを手に入れた。『20センチュリー・ウーマン』を観てその時のものをクローゼットから引っ張り出してきた。彼のことを知らなくても、ALVA SKATEBOARDSのシグネチャーロゴは見たことあるっていう人、多いんじゃないかな。

もし女の子が自分のワードローブに取り入れるなら、少し袖をロールアップしたらいい感じに着れると思うよ。

私のアイデンティティ・Tシャツたち

『パロアルト・ストーリー』のエイプリルのネックレス

この映画の主人公、エイプリルはとても内気な女の子。
引っ込み思案でシャイな笑顔が印象に残る。

大人しくて無口だということと、自分の意見がないっていうのは、全く別のことだと思うんだけど、どうかな。

わたしの周りにもエイプリルみたいな女の子が思いつく限り、結構たくさんいる。そのわたしの友達の一人一人を合わせたのがエイプリルなんだって思えた。

わたしも含めて。

自分の中に、たくさんの人と会って賑やかに過ごしたい気分の自分と正反対に、家でずっと本を読んで誰にも会わず、一人で過ごしたい気分の時の自分がいる。
最近は、このムードの時が多いかもしれない。どちらもわたしだ。

エイプリルを見ていると、部屋の隅っこで一人、本を読んでいる時のわたしの姿が重なって見える。

この映画を観るまでは、いつも元気で賑やかじゃないといけないのか。そんなわたしって暗い人間なのか。変わり者なのかもしれないと思うこともあった。

内気でありながらも人に流されないタイプの彼女を見てからは、そういう自分もいることを人に話せることができるようになった。

無理しなくて全然いいよね。

エイプリルの胸元に光るワンスターのネックレスは、控えめに光る強い意志の象徴。

わたしもその星を持ちたいと心底願った。似たものが見つからなかったので、パーツを探して自分でつくった。

もし同じような気持ちの女の子がいたら、一緒に光ってほしいと願って、縁あって企画させてもらった『パロアルト・ストーリー』の上映関連イベントでは、参加してくれた女の子たちに同じものを配った。

胸に光る星ひとつ。

忘れないでいたい。

実際にイベントで参加者に配布したノベルティのネックレス

『ムーンライズ・キングダム』のスージーのアイシャドウ

さて、色々書いてきたこの手紙もこれでおしまいにするつもり。

ウェス・アンダーソンの作品には、実に魅力的なヒロインたちが登場するよね。

その中でもファッション・アイコンとしても不動の人気なのは、おそらく『ロイヤル・テネンバウムス』のマーゴ。
わたしもマーゴは大好きなんだけど、今回おすすめしたいのが『ムーンライズ・キングダム』のスージー・ビショップ。そして、話したいことは、あのターコイズブルーのアイシャドウ一点のみ。

彼女を見た瞬間、「わたしもあのアイシャドウを瞼に載せるべきだ」って思った。

今までの話を全部読んでもらうと、いかにわたしが自分自身のパワーになり得るものだけを映画の登場人物のよそおいから選択してきたかっていうのは、わかってもらえたんじゃないかなと思う。

スージーは今までの話に出てきた例にもれず、強い。プラス、行動的。

自分の好きなものを知っていて、またそれを自分で否定しない。

本編が始まってすぐくらいのシーンで、彼女は望遠鏡でものを見るのが好きな理由を端的に説明する。好きな本を教えてくれる時も同様で、その選択には全く迷いがない。力強い目。

あれがスージー・ビショップだ。

自分の好きなもの、大切にしていることを肯定していく強さを持つには、あのスージーの強い目、つまりあのターコイズブルーのアイシャドウが必要だ。

鮮やかな色を持つアイシャドウは、見たままに発色するものを見つけるのが本当に難しい。肌に載せてみると、薄すぎたり微妙に色合いが違ったり、思っているイメージと違うことが多い。
そんなわけで、スージーのターコイズブルーの色を間違いなく出すことができるアイシャドウを見つけるには、かなり時間がかかってしまった。どれだけのアイシャドウを試したか。気の遠くなるような時間の後、ついにわたしはそれを手に入れた。

今でも、大切にしてきたことを忘れてしまいそうな時、自分を見失ってしまいそうな時は、あのアイシャドウをそっと瞼に載せてみる。

スージーのアイシャドウに辿り着くまでの道のりは果てしなく、最終的には左端のボディ・ショップのものが完璧にスージーだった。

さあ、なんだかいっぱい書いてしまったけど、これでもう終わるね。

また、手紙を書くよ。

SAORI

PROFILE

かとうさおり
かとうさおり

色彩、記憶、物語をテーマに2014年にNINE STORIESとしてものづくりの活動を衝動的にスタートする。
活動名の由来は、たくさんの物語を作っていきたいという思いを込めて。
百貨店催事や個展を中心に大阪にて活動中。
自主企画として映画上映やトークイベントの企画に携わるほか、
映画館、配給とのコラボレーション企画も行っている。
読書好きが高じて、読書の楽しみを広める活動として古本市への出展、企画にも携わる。

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