「ルール」を考えるため田中祐理子さんにお話を聞いてみる/日比楽那

「これからのルール」を考えるべく身近な人にインタビュー

2020年1・2月 特集:これからのルール
テキスト・撮影:日比楽那 編集:野村由芽
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She is1・2月のテーマ「これからのルール」。私がこのテーマを考えたいと思ったとき、2019年秋に舞台で共演し、その後一緒に創作活動をしている田中祐理子さんが真っ先に思い浮かびました。そこで、田中さんに「お話聞かせてもらえませんか?」とお願いしてインタビューを決行。行きつけの中華屋さんとその近くの公園で撮り下ろした写真と共にお送りします!

インタビューする人:
日比楽那(ひび らな)

インタビューされる人:
田中祐理子(たなか ゆりこ)

日比:まず自己紹介をお願いします!

田中:田中祐理子です。31歳です(取材時の2020年1月現在)。役者やってます。映画が好きで、特に黒沢清監督の『アカルイミライ』という作品が一番好きですが、そのDVDを誰かに借りパクされています。

日比:ははは! そうなんですか! 最近は映像制作も始めたり?

田中:始めたり、始められなかったりしています。

田中祐理子さん

日比:田中さんがルールに縛られてないなって思うことの1つが洋服とか髪型とかのスタイルなんですが、まず洋服はどんなものが好きですか? 好みの変遷なども知りたいなと。

田中:好きなのは古着だよね。人と被らないからいいなって思って古着を買い始めたのが高校生のとき。

でも大学1年とかのときは、女の子がよく買うお店というか、ローリーズファームとかアース ミュージック&エコロジーとか、そういうところで買ったりしてた。

日比:それは大学生になってそういう好みになったわけでなく、そうしたほうがいいんだろうなと思ってやってたんですか?

田中:そうしたほうがいいんだろうなと思ってやってたんだけど、もう違和感がすごくて。「やりたくねーな」「こういう格好したくねーな」と思って、大学2年のときには自分の好きな格好しようって、ちょっとずつパンツスタイルが多い感じになっていって。

大学卒業して会社員になってからはスーツ着ることが多くなったけど休みの日に着るためだけに私服を沢山買ったりして、ストレス発散してた。で、役者になって2015~2016年からいまの感じに落ち着いた感じ。いろんな歴史あったけどずっと変わらないのは古着を買ってることかな。

日比:なるほど。買う古着はメンズのものが多いんですか?

田中:メンズだね、ほぼ。いまは全てかな。

日比:ファッションにおいて、影響を受けた人とか作品とかはどんなものがありますか?

田中:あー……海外の映画はやっぱり憧れる!

日比:それは自分のスタイルにも影響を及ぼしてる?

田中:うん。高価な洋服でもそのまんまだらしなく着てるのがすごい好きで。古い洋画でいいなって思うのが多い。イエジー・スコリモフスキの『早春』っていう映画の、主役の男の子の服装とかすごい好き。洋服をあんまかしこまって着たくないんだよね。適当に着てかっこよくなるようにしたい、私は。日本の映画だと『ジョゼと虎と魚たち』の恒夫だったり、『人のセックスを笑うな』のみるめくんだったり、っていう。

日比:「ラフに着てかっこいい」っていうのはまさに田中さんのスタイルですよね! 髪型とかアクセサリーに関しても好きなスタイルってあるんですか? 例えば髪型は、昔の写真とか見せてもらっても田中さんはショートが多いと思うんですけど。

田中:ショートが多い。『パラノイドパーク』の男の子の髪型がすごい好きで、ずっとああいう感じを目指してる。

アクセサリーは……ピアスは、あるとき左耳のピアスがこぼれ落ちて、そっから右だけ。ずっと右1個で、それは『回路』っていう映画の加藤晴彦に憧れて、おんなじピアスしてた。

指輪は大学生くらいから、太いのが好きだったけど付き合う人ができてからは細いのかな。基本シルバー。メイクはー、必要って言われなければしない。あんまり好きじゃない。

日比:こういうのが好きとかこういう映画みたいのが好きとか、そういう好みがあって、田中さんのスタイルがつくられていったんですね。でも私も思うことがあるんですよ。リュックが好きだけど大学生になったらバッグ持つようにしたほうがいいのかなとか。そういう風に、「大学生はこうしなきゃいけない」とか、「社会人は……」って思うことって田中さんもありました?

田中:あったよー。大学生のときに「女っぽくしねーといけねーのかな」と思ってやってたけど、つまんねーんだよ。洋服着てても楽しくない。時間が経って説明もできるようになったことだけど、自分のやりたいこと、趣味とか、ファッションとかを我慢せずにやると気持ちがすごい楽。

自分の憧れてるものに影響受けるとかはいいと思うんだよね。自分の好きなものを真似するのはいいと思うけど、社会の真似すんのは、興味がないのに社会の真似してやるっていうのは、そりゃきついよ。

例えば高校生のときも、人に合わせて女の子っぽくキャッキャしてた部分があったから。(「いわゆる」)女の子ってこうなんでしょ? って。高校って、いまはそんなこともないけど女子の制服はスカート、男子の制服はズボンっていうのがあって。

日比:確かに。記号としても分かりやすいですよね。トイレのマークとかもそうだけど。

田中:そうそうあのマークもねえ……。

日比:それで言うと、役者も分かりやすく、女の人役、男の人役って分かれてますよね。最近は少ないけど女の人の台詞は女性言葉で書かれてるっていうこともあって。

田中:「~だわ」みたいなね。

日比:そうそう。『野外劇 吾輩は猫である』(*1)の台本も、妻役の台詞は女性言葉で書かれてたじゃないですか? でも田中さんはそれを女性言葉で演じてなかったのがすごく印象的で。
(*1……田中と日比が共演した舞台)

田中:そうだっけ?

日比:そうでした! 「~だわ」って日本語、2種類イントネーションあるじゃないですか。

田中:あるある。「そうだ↓わ」と「そうだ↑わ」ね。

日比:そう。私も女性言葉ってしっくりこなくて日常生活での言い方だったら「そうだ↓わ」だけど、台本にあったら「そうだ↑わ」でやっちゃう。でもそれを田中さんはそのままでやってたから印象的でした!

田中:そうだったんだー。

日比:それは意識的にやってたわけじゃなくて無意識で?

田中:そのときは無意識に近かったけど前はもっと意識的にやってたよ。意識的に自分の言葉にしようとしてた。最初は自分の言葉じゃなく女性言葉でやったりもしてたけど自分のものにできないなと思って。だったら自分の言葉でって。

一つの言葉でもいろんな言い方ができるじゃん? 演出家に「自由にどうぞ」って言われてるときはイントネーションも決められてないし。

日比:うん。でもそこで、「自由にどうぞ」って言われててもなんとなく女性言葉にしてしまう人が多いなかでそうしない田中さんはいったん立ち止まって自分に近い表現を考える、自分のスタイルでできないか考えてみる、みたいな作業に慣れてるんじゃないかと思って。

普段から「こうしなきゃいけない」「こうするのが普通」っていうのに囚われないでいるからそれが自然にできるのかなって思いました。
田中:そうかもね。

日比:それで、『野外劇 吾輩は猫である』の稽古中、田中さんは最初妻役だったじゃないですか。それが演出のノゾエ征爾さんから打診があって、多々良ちゃん役(*2)を演じることになって、っていう話も聞きたいなと。いつ頃でしたっけ?
(*2……『野外劇 吾輩は猫である』の登場人物である多々良三平を女性が演じているという設定の役)

田中:配役が決まって、妻役でやってた頃。ノゾエさんに「田中さんすごく個性的な人だから妻役でもいろんな妻がいていいと思うんだけど、田中さんを活かすんだったら多々良がいいと思うんだよね」って言われて、それで。

日比:どう思いましたか? 言われたとき。

田中:言われたときは単純に嬉しかったけど、もうその役でがんばるしかないっていう。あとは他の多々良役の3人(*3)に自分が入り込めたらいいなっていう。
(*3……『野外劇 吾輩は猫である』は1つの役を複数名で演じていた)

日比:唯一の当て書き(*4)というか、原作にない役を書いてもらったっていうことじゃないですか。だから役者はみんな羨ましいだろうなって、でも田中さんから多々良ちゃん役が生まれたというのはみんな納得だろうなって思いました。
(*4……役者に合わせて役や台本を書くこと)

田中:オーディション受かったときに私ができそうな役がないから多分男役として主人の役とかをやるんだろうなって思ってたんだけど、「ああ妻役なんだ。私が妻役ってことは自由にやっていいってことなんだろうな。いろんな妻がいていいんだろうな」ってやってたら、って感じ。

日比:自由にやった先でそういうことがあったっていうことですね。

日比:いままでは男性役をやることもあったんですか?

田中:1回本当に男の人の役があったね。

日比:ボーイッシュっていう風に言われることが多い?

田中:うん。男性と間違えられたりね。

日比:でも男性になりたいわけではないと。

田中:うん。私の場合は自分らしくいたいから、男になりたい女になりたいっていうのはないかな。身体的な部分で自分の性別に違和感を抱いたこともない。

でも私は、身体を変えたい、男性になりたいって悩んだことはなかったけど、「女性らしさ」とか、「女性だから、男性だから、こうしなきゃいけない」とかっていうのに悩んできて、そういうことで人から何か言われて傷ついて、時間が経って少し薄まってでもまた誰かから何か言われて傷ついて、っていうのを繰り返してきた。言われることには慣れちゃったけど、悲しみとか痛みには慣れないよね。

だから人から言われないようにしなきゃっていう気持ちと、固定概念とか「~らしさ」から飛び出したいっていう気持ちがずっとあって。時代の変化でいろんな人がいるっていうのが広がってきたし、自分と同じような人と出会えて対話して、自分でも何年もトライアンドエラーを重ねてきたことで自信のようなものもついてきたから前よりは息がしやすくなってきたとは思うけどね。

日比:なるほど。こういう自分を表現したい、だとか、そのためにはこういう方法があるな、とか、それが社会に受け入れられるかなって悩んだり、受け入れられなくて傷ついたり、っていうのは、すごく苦しい道のりだったと思うんですけど、トライアンドエラーを重ねて、いま前より息がしやすいというのはいいことですよね。

でも苦しまないと得られなかったっていうのはほんとは良くないなとも思います。もっともっといろんな価値観があって当たり前だっていう社会だったら苦しまなくて済んだと思うので。

私自身もマイノリティの要素を持っていて悩むことがあるんですけど、どうしたらストレスフリーの状況が作れるかって考えると、すごくたくさんがんばらないといけない。

きっと噂話とかされるんだろうなって思いながら、理解してもらうために説明をたくさんしたり、理解してもらえなそうだなって思って隠し事をしたり。だからそういう社会を変えていきたいなって改めて思いました。ジェンダーについてはいま伺ったんですけど、セクシュアリティについても伺ってもいいですか?

田中:恋愛対象は人間だったら。そこを「ルール」に縛られたくないよね。

日比:ずっとそうだったんですか?

田中:ううん、男の人としか付き合ってないときもあったよ。だけど会社員やってたときに飲み会とかで「田中さんって女子校出身ぽいよねー」「女の子にモテそうだよねー」って毎回毎回そういう話になって。「いやないですー」とか言ってたんだけど、周りがそういう風に思ってるんだったらできるんだ、と思って、いってみた。会社の1人の女性に。

日比:そのお相手も別に女性が好きっていう人ではなかった?

田中:うん。っていうのがあって1年半くらい付き合ったり。だから、私がこうなったのは周りの人がきっかけではあったよね。でも周りの人のせいにしてるわけじゃなくて、そういう見られ方を素直に受け入れて、そうなっても私は私だから、どうなっても自分自身を自分が愛せればいいなって思った。

日比:「どんな選択をしても自分自身を自分が愛せればいい」というのは本当にそうですよね。決して簡単なことではないですけど、みんながそう思える世の中になるように、もっといろいろな価値観が広まっていけばいいなと改めて思いました。お話、ありがとうございました。

今回の田中さんとの対話のなかで、「ルール」に縛られずに生きている(ように私には見えていた)田中さんも、いまに行き着くまでに様々な苦悩や葛藤があったことをより深く知ることができました。

また、田中さん自身の経験や考えについてのお話のなかで、「私の場合は」という前置きが多かったのが印象的でした。

それは田中さん自身が時に世間の風潮や他人からの押しつけに抗いながら単一の価値観に囚われたくないという信念を持ってきたからだと感じます。
私自身、自分の生き方や振る舞いに悩むことも多いなかで、それでも自分を受け入れながら、生きやすい形を探っていきたいと思えたインタビュー企画でした。

PROFILE

日比楽那
日比楽那

2000年生まれ、20歳。
演劇や映像に出演したり、文章を書いたり、写真や映像を撮ったり、映画をつくったり、ギターを弾きながら歌ったり、します。

出演作は、ままごと「わたしの星」、小川紗良監督「最期の星」、濱田真和監督「Tsumugu」、東京芸術祭「吾輩は猫である」など。

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