「まりこちゃんのInstagramにいたあの子が、うちのブランドのモデルに決まったんだよ」って言われるのがうれしい
SNSで築いた独自のネットワークを武器に写真家として活躍するほか、魅力的な女の子を見つける力を買われ、モデルのキャスティングもこなす小林真梨子。自らもクリエイターでありながら、周りのクリエイターのサポートも行うユニークな立ち位置を獲得している彼女だが、もとから人に興味があったわけではなかったという。
小林:大学で写真学科に入ったんですけど、最初は人に興味があるわけではなかったから、風景ばかり撮っていたんです。人を撮るようになったのは課題でポートレートを撮ることになってから。それからは毎日のように学校の友達を撮って、それだけじゃ足りなくなって、学外の友達も撮るようになって。人に接すれば接するほど、いろんな人がいることがわかって楽しくなりました。同じ映画を観ても感想が違って、一人ひとり変化があるのがおもしろいなって。そのうちに、友達経由でモデルとか表舞台に出る子たちと会う機会が増えていって、こういう子たちが周りにいるんだったら、自分がサポートをして、その子たちが有名になってくれたらうれしいなと思うようになりました。
今はInstagramで撮りたい女の子を探している彼女が初めて友達以外を撮ったのは、大学2年生の終わり頃。Twitter経由で知り合った女の子の写真を撮ったことがきっかけだ。
小林:今みたいに友達以外の子を撮るようになったのは、Twitter経由で知らない女の子から『私のことを撮ってください』って言われたのがきっかけです。撮って喜ばれるのがうれしくて、続けるようになって。ちょうどその頃、ネットでアルバムみたいなものを作れるサイトがあって、それを使ってZINEを作ってみたいなと思ったんです。そのときはZINEという言葉も知らなかったから、その子の写真集を個人的に作ろうという感じでした。せっかく写真を撮ってるから、紙にして渡してあげたいなって。今も続けているので、もう100冊弱くらい作ったんじゃないかな。
会っていきなり撮るのではなく、被写体とじっくり話をして、内面を知ったうえで撮影に移るのも小林のスタイルだ。彼女の写真に映る被写体たちが普段見せない表情をしているのも、距離が縮まったからこそなのだろう。
小林:自分のなかで飽きがくる前に、SNSで連絡したらすぐに会うようにしています。初めて会うときは朝に撮影するのが好きなのもあって、朝ごはんを食べながら2時間くらい話をした後に、数枚撮らせてもらって別れることが多いです。
私、自分が1位になれる気はしないんです。1位の人って、1回1位をとったらそれを維持し続けないといけないけれど、私にはそれは無理だなって思うから。それなら、今1位の人をパワーアップさせたり、1位になれる可能性がある人をサポートしたい。「やっぱりあの子、有名になったな」というところで満足感を得るのが好きなんです。だから、「まりこちゃんのInstagramにいたあの子が、うちのブランドのモデルに決まったんだよ」とか言われるとうれしい。モデルを探している人には「私のInstagramのなかで起用したい子がいたら教えて」って提案したり、一人でタレント名鑑みたいなことをしてます(笑)。
周りにいる魅力的な子たちは、本業はありつつ個性を出すために2つ以上のことを並行してやっている
そんな小林が今回「未来からきた女性」として選んだのは、アクセサリーブランド「mi na mi」を主宰しながらコンテンポラリーダンスを学ぶ大学生、minami saitoだ。伊勢丹新宿店でも取り扱いのある彼女のアクセサリーは同世代の女性を中心に人気を集め、Instagramの投稿にも多くのコメントが寄せられている。
二人は今年の春頃から交流はあったものの、撮影をするのはこの日がはじめてだという。次々と魅力的な女性に出会う小林は、今回なぜminamiを選んだのだろうか?
小林:私、Instagramのフォロワーから撮りたい子を探すんです。フォロワーなら私の写真を知ってくれていて、撮りたいっていう連絡もしやすいから。minamiちゃんのこともフォロワーから見つけて、アップしてる写真に統一性があるのが好きだったし、アクセサリーを作ってることを知って興味がわいて、フォローを返したんです。それからDMでやりとりして、「ちょっと会ってみない?」って。
minami saitoのinstagram(@iii.iiiiiii.iii)
小林:GEL-MOVIMENTUMの軽さや耐久性を表現するのに、砂浜で踊る女の子が撮りたかった。そのときに、ずっと撮ってみたかった彼女が浮かんで。ガーリーなロングヘアも、スポーティなシューズのイメージにぴったりでした。実際に踊ってもらって、軽やかなスニーカーが生きたと感じています。
あと、minamiちゃんはアクセサリー作りとダンスの両方をやっていて、そこも「未来からきた女性」というテーマに合ってるなと。私の周りにいる魅力的な子たちって、どのジャンルの子たちも本業はありつつ、個性を出すために2つ以上のことを並行してやっている子が多くて。minamiちゃんもそのなかの一人だから。
小林いわく、何かと何かを同時並行でしている人にも2種類のタイプがあるそうだ。
小林:「自分がいつか消えてしまうかも」っていう不安から必死にいろんなことをやっている子と、私みたいにいろんな職業をやりたかったわけではなくて、結果としてそうなっている子の2タイプいると思っています。私の場合、写真以外にもいろいろとやっているほうが、飽きがこなくていいってことがわかって。今は、写真とキャスティングの仕事のほかに、デザインスタジオHYOTAの代表の中村俵太さんの手伝いもしているんですけど、中村さんに言われていいなと思った言葉が、「自分がやっている仕事のことを仕事と思っていないから辛くないし、遊びの延長にあるから毎日楽しいよ」って。
「私は写真家になりたいわけじゃない」。自分に目標がないからこそ、誰かの魅力を伝えられる
小林:今日もminamiちゃんを撮りたいと思っていたら仕事になったし、中村さんと同じようなスタンスで仕事をしていると、たしかに仕事と遊びの境界がなくなってくるんです。もちろん、それが不安になる瞬間もある。大学時代の友達は会社で朝から夜まで働いているのに、私は毎日遊んでるみたいな気持ちでいいのかなって。でも、引き受ける仕事に対して「やりたくない」と思ったことはないから、不安にならなくていいんじゃないかなって自分では思っています。
駐車場での撮影時に撮ったムービー
「私のことを撮ってほしい」。小林のフォロワーの中に、被写体になりたいと願っている人は決して少なくないはずだ。しかし、彼女にとって写真を撮るという行為はあくまで手段に過ぎないし、カメラは一方通行を生み出す道具でもない。自分にとって魅力的な人間をひとりでも多くの人に知ってもらえるように、今日もシャッターを切る。
小林:私は写真家になりたいわけじゃないから。夢や目標がないから、それがある人のことがうらやましい。自分に目標がないぶん、目標がある人の後ろについて達成させたいって思うんです。だから、写真を撮っていても特にテーマは考えないんですよね。その子の魅力を伝えたいというのが大きいから。「この子、素敵だね」って思ってもらえるように撮るのが自分にとってのテーマになっていて、それがきちんと伝わったときがうれしい。だから、今の活動を現状維持し続けることが、ある意味私の目標です。
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