わたしたちは、日々よそおいながら生きています。季節にあわせて、気分にあわせて、ときには役割や職業にあわせて。人間はまとうものを着脱できて、なりたいものになれるし、やり直すことができる。すきなものを身につけて、その瞬間の自分の存在を証明しよう、わたしがわたしでいることを、心ゆくまで謳歌しよう。
今回は「よそおい」にまつわる絵を描くイラストレーターと、その作品をご紹介します。どんな理由から、どれを選んで着てもいい。社会と個人のあわいにある「よそおう」という行為について、それぞれの思考や実践、表現を見ながら共に考えてみましょう。
自身の絵を切り貼りしてつくるコラージュを主な手法とし、カネコアヤノさんのツアーグッズや挿画なども手掛けるイラストレーター、安藤晶子さん。
彼女の描く人物の多くは、様々な色や質感の絵の切り貼りによって生み出された、きらびやかな洋服を纏っています。何通りものパターンから丹念に選び抜かれたアイテムを纏い、それらがピタリとはまっている様子は、圧巻の神々しさを放っています。
彼女のInstagramの写真投稿には、自身の日々の装いに関するものもいくつか。
水の底にゆれる光の模様を踏む、その足のペディキュアの赤をみるだけでうれしい。そういううれしさのために描いてたことを忘れるたびに思い出したい
かれこれ10年くらい着てるワンピース、裏地がボロボロになっちゃって、穴もあいてて、でもまだ着たいのでお直し屋さんにお願いに。着物のハギレを裏地に使っていただく。たのしみ。
これらの投稿を目にしたとき、決してルーチンワークの一部ではなく、営みや育みの軸としてよそおうことを愛しているのだという印象を受けました。毎日の習慣だからこそ尊重して慈しむ、その人柄と作風が合致した結晶のような作品群に、更に改めて惹かれます。
「装うことの醍醐味とは何か」という質問を安藤晶子さんにしたところ、こんなお返事をいただきました。
人生の時間をかけてひとつひとつ集めたパーツを繋いで完成させた一点ものの首飾りみたいな、その人だけの変えのきかないよそおいに惹かれます。だれにどんなジャッジをされても自身の価値は下がらないので、自分が感じる「好き」や「うれしい」にどんどん素直になって思いきり楽しむのが一番だと思います。
人生の中の確かな積み重ねで構築された感覚やよそおいは、誰にもおびやかされることのないオリジナルの財産です。そしてそれを完成させていくための方法は、決して難しい話ではなく、自分の惹かれるものに対して真っ直ぐであること。素直になることが簡単じゃない日々や場面があったとしても、トライアンドエラーの数々は、いつかあなたに味方して魅力の一部として備わっていくものだと思います。