わたしたちは、日々よそおいながら生きています。季節にあわせて、気分にあわせて、ときには役割や職業にあわせて。人間はまとうものを着脱できて、なりたいものになれるし、やり直すことができる。すきなものを身につけて、その瞬間の自分の存在を証明しよう、わたしがわたしでいることを、心ゆくまで謳歌しよう。
今回は「よそおい」にまつわる絵を描くイラストレーターと、その作品をご紹介します。どんな理由から、どれを選んで着てもいい。社会と個人のあわいにある「よそおう」という行為について、それぞれの思考や実践、表現を見ながら共に考えてみましょう。
武蔵野美術大学卒業後、ファッションイラストレーターとして活動している、くらちなつきさん。スポーツファッションブランド『オニツカタイガー』のInstagramのイラストレーションほか、広告や雑誌、webなどで幅広く活躍しています。
彼女が描くスタイルは、エレガンスなものから、カジュアルやスポーティーなど様々。それぞれの系統の魅力を的確に親しみやすく描き出しています。その洗練された作品群を眺めていると、普段は自分とは関係がないと思いがちなジャンルの服装にも、次第に興味が湧いてくるから不思議です。ファッション誌だけでなく、イラスト作品を見ることも、クローゼットにあたらしい色を取り入れる良いきっかけとなるかもしれません。
そんなくらちさんに「思わず描き留めたくなるよそおいとはどういうものか、そして装うことの醍醐味とは何か」という質問を投げかけてみたところ、こんな返答をいただきました。
意志を持った装いは自分の内面や生き方も良い方向へ変えていく力があると考えています。なのでこだわりのある個性の強い服を描くことで、絵の中に登場する女性の芯の強さを表せたらと思っています。描く服のデザインは、常に流行をチェックしつつ、新品、古着を問わず様々なお店に巡りながら構想を練っています。フォルムに癖のあるものや、ヴィンテージ感のある服やアクセサリーは思わず描き留めたくなります。
脳と体を使ってくまなく探求し、その成果として得た感覚の産物だからこそ、彼女の作品はまばゆい光を放っているのかもしれません。こだわって選んだものや大切に思っているものを身につけていると、自分自身の外側と内側が呼応して、ポジティブなパワーが増幅していく感覚を得られることが稀にあります。より良い自分になるための力強い友人として、服と付き合っていけたら素敵ですね。