どんどん面倒な人になっていけばいい。
野村:例えば未映子さんの小説だと、夫婦間で男性と女性の序列が生まれてしまうような「旦那」や「嫁」という言葉に対しても細心の注意が払われていますよね。息子さんの、いわゆるママ友みたいなコミュニティではどうされているんですか?
川上:オール主人です、オールご主人(笑)。
野村:(笑)。みなさま「主人」とおっしゃっているということですね。今日ここに来られている方の中にも、例えばそういう言葉の使い方も含め、日常会話で違和感を感じた時にどうしたらいいか悩んでる方もいると思います。
川上:そうですね。でも私は、やっぱり気になったことは、そのつど言います(笑)。以前、私が朝日新聞で「もう主人という言葉を使うのははやめよう」と言っていたのを読んでくれた人がいて、ランチ会のときに他の人が「主人、主人」って言っていたら、その人が「大丈夫ですか、いけますか」みたいな感じで私の顔を見て、すごく気を使ってくれて(笑)。でもはっきり言うよ、「主人」なんて言葉を配偶者に使うのは良くないと思っていると。
野村:いろいろな考えを持っている、あるいはまだ考えたことがなかった方も含めて、みなさんの前ではっきりおっしゃったんですね。
川上:もちろんだよ。それ以外にもたまにママたち同士でお酒とか飲むときがあるじゃん、たとえば女の子をモノ扱いしてる表象がいかに愚劣か、みたいなことも言うわけ。そうすると「でも、男の子がいやらしくなければ人類が続いていかなくない?」とか「男の子はそれくらい元気がないと困る」みたいに言われて、その瞬間から2時間くらい白目だよね。そんな認識に加担できるわけないから、私はぜったいに流さない。「いや、それまったく違うから」って根気よくやってたんだけど、気づいたらまわりから人がいなくなっていた(笑)。作家ってすごく面倒な人間なんだと思われて、私の第一期ママ友はほぼいなくなったよ。
野村:ある気づきを口に出したことが「めんどくさい」という反応を呼んでしまうことに対して、その溝とどう接したらいいのか、という悩みはありますよね……。
川上:その人の性格にもよるし、ストレスにもなるよね。でも、そんな価値観に合わせて、白目むきながらニコニコしてるほうがヤバいでしょ。どんどん面倒な人になっていけばいい。べつにこっちが正しくて、言い負かそうって話じゃない。自分の頭で考えてみたら、って話をしているだけ。あれもこれも古い世代でまかり通ってたことに、わたしたちはもう黙らないって話ですよ。あらゆる差別を許さないってだけのことです。