どこに住んで、なにをして暮らすのか? じつはさまざまな選択肢が広がっているはずのこの問いですが、目の前にかかえている仕事や家族などのことを考えると、いますぐに行動に移すことはなかなか難しい状況もあるかもしれません。
外に出るのが難しい時期ですが、どんな場所で暮らしてみたいか思いを馳せることならできそうです。She is編集部が飛騨地域に足をのばし、2泊3日ゆっくりと過ごすなかで出会ったお店や人たちは、飛騨という土地の風景や歴史に溶け込み、そこにしかない佇まいを放っていました。
岐阜県北部の飛騨市、高山市、下呂市、白川村の3市1村からなる飛騨地域。店主とお話ししてみると、UターンやIターンの方が多いことも印象的だったこの地域は、豊かな森がもたらすのどかな風景と、こころ落ち着く伝統的な町並みが広がり、自分の本来のリズムを取り戻すことのできる場所でした。落ち着いて日常を過ごせる日々を手繰り寄せる手がかりになることを願って。
※本取材は2020年2月下旬に行いました。
<もくじ>
p1.「飛騨高山、飛騨古川で暮らすこと」に思いを馳せるお店たち。「やわい屋」「8画」「オータム吉日」「FabCafe Hida」「ひだ森のめぐみ」
p2.飛騨高山の「おいしい」を堪能する。「CENTER4 HAMBURGERS」「ヴェル クラール」「バグパイプ」
p3.伝統的な町並みで休息を。こころがととのう宿泊所「HOTEL WOOD 高山」「下呂温泉 湯之島館」
p4.懐かしさに包まれながら飛騨の町並みを散策。「宮川朝市」「原田酒造場」「飛騨高山レトロミュージアム」
飛騨生まれの店主がUターンして開店。同世代がつくった生活の道具を扱う「やわい屋」
飛騨高山と飛騨古川の間の山道を車で走っていると見えてきた一軒家。まわりに建物ひとつなく、緑に囲まれた場所にそっとたたずんでいるのが「やわい屋」です。
このお店で扱っているのは、民藝の器を中心とした生活の道具たち。日本中の蔵元をまわり、同年代でご縁のあった作家の作品を長く扱っているそう。あくまで道具であることを逸脱せず、暮らしに馴染むものを選んでいます。「一人の作家がつくったものであっても作品は変化していくものなので、都会のお店のように次々とあたらしい作家のものを扱わなくていいと思うんです」と店主は話します。
飛騨で生まれ育った店主は、もともとは愛知県で暮らし、ストリートミュージシャンをしていた時期もあるそうですが、東日本大震災が起きた2011年に結婚し、暮らす場所について考え始めます。もともと飛騨地域は親が自営業をしている人が多く、同世代が街の中に入って盛り上げていく雰囲気があったものの、未だ地元の良さそのものになりきれていない感覚を感じ、地域との関わり方を考えていきたいという気持ちから、Uターンしてお店「やわい屋」を始めたのだそうです。
この古民家は、もともとこの場所にあったのではなく、高山市荘川町にあった築150年の古民家を移築再生して建てたもの。階段を登ると現れるひっそりとした屋根裏にある本棚も地元の公民館の階段を切ってつくったものとのことで、地域で育てられてきた伝統を継承しながら店がつくられている様子が随所に感じられます。
「宿やカフェなどが求められるのはわかるけれど、『これやったらいいのに』と言われるようなものはやらないようにしています。それよりも、『どうしたらやらずに済むか』をいつも考えている。自分たちが楽に生きていけるということを念頭に、地に足をつけながら生きていきたくて。浮き足立ちたい人が多いと思うから、そういう人がいてもいいと思うんです」と店主は話します。
地域とつながりながら、無理なく、自分が心地よく自由でいられる生き方を模索している店主と話していると、都会での暮らしでしばしばとらわれてしまいがちな「速ければ速いほどいい、大きければ大きいほどいい」という考えを忘れ、時間がかかることを怖れずに小さくいることも選択肢に加えてみたくなるはずです。
やわい屋
〒509-4121 岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
営業時間:13:00~17:00(平日)、11:00~17:00(土・日・祝)
定休日:木・金
電話番号:0577-77-9574
やわい屋
やわい屋(@yawaiya_asakura) • Instagram写真と動画
日業着、日用品、文房具、古道具などを扱う「8画」。ここにあるのは移動しながら暮らしてきた店主の愛用品
日業着、日用品、文房具、古道具などを扱うお店、「8画」。ここで扱っている商品は、店主が個人的に愛用しているものだといいます。販売元に直接連絡をして取り扱いをはじめ、台東区鳥越で素材にこだわってつくられる「yohaku」や遠州織物を使用した「HUIS」の服のほか、岐阜県郡上市の自然から生まれた化粧品をつくる「アトリエキク」さんとつくったオリジナルのハンドクリーム、オリジナルのグラノーラなど、コラボレーションしながらつくったオリジナルの商品も増えてきたそう。近頃では古道具なども扱っているそうです。
店主の千田さんは15歳から住み込みで仕事をしながらいろいろな土地で暮らしてきて、これまで寝る場所が変わる引っ越しを信州を中心に20回以上してきたそう。「どこの場所がいいとか選べる状況ではない背景があった。いまもここで定住するつもりはなく、たまたま飛騨高山にいるだけなんです」と千田さんは話します。
お店をはじめるまでは旅館で働いてきた千田さん。子供が生まれ、「熱を出して休みます」という電話をすることがしんどくなり、「自分で仕事をする以外に選択肢がない。すぐにはじめられることはなんだろう?」と考え、思い立ってから3か月でお店をはじめたそう。もともと住んでいた古民家の1階の土間を利用し、壁と天井を塗ってお店を開きました。お店のすぐ横では、和惣菜や懐石弁当、オードブルなどを扱う「はちかくのお菜」も運営しています。
千田さんは街をたびたび移り住んできたことで、なんとなく相性がいい土地とそうじゃない土地がわかるようになったそうです。飛騨は街の人があたたかく、観光地だからかどこの人かわからなくても受け入れてくれる環境があり、楽に感じるとのこと。自分にとって相性がいい土地は、もしかすると今暮らしている場所に限らないのかもしれない。そんな可能性に気づかせてくれるお店です。
8画
〒506-0831 岐阜県高山市吹屋町79
営業時間:11:00~18:00
電話番号:0577-54-1241
8画
8画(@8kaku_senda) • Instagram写真と動画
大阪で仕事を辞めて飛騨高山の木工の学校に通い直した店主。ビール、珈琲、スパイスカレーが楽しめる古道具屋「オータム吉日」。
もともとは大阪のカフェで働いていたという店主。家具を直せたらいいなという思いから、6年前に飛騨に移り住み、飛騨高山にある木工の学校に通いはじめたそう。木工会社への就職を経て、古いものが好きだったことからこの街でお店を開こうと思い、高山市が提供している起業補助金制度を活用して「オータム吉日」をはじめました。
ビール、珈琲、スパイスカレーが楽しめる古道具屋として昼からビールをたのしむお客さんもちらほら。古道具はアメリカ・ペンシルバニア州やポルトガルで買い付けたものがほとんどだそうですが、インドで買い付けたベル、ペンシルバニアで買い付けてきた栓抜き、ウズベキスタンの古びたもの、チャイニーズベストなど世界を旅している気分になる品揃えは、店主の目利きが光っています。
「やわい屋」の店主に教えてもらった「オータム吉日」。取材に伺う前に8画に訪れたところ、「オータム吉日さんは、前からうちのお客さんだったんです」と教えてくれました。ずっと暮らしている人、一度は離れていたけれど戻ってきた人、ゆかりはないけれど移り住んだ人が、その街にあるものを大切にしながらゆるやかにつながり、混ざり合ってあらたな場所を生んでいく。そうした風通しのよさがこの街にはあるような気がします。
オータム吉日
〒506-0842 岐阜県高山市下二之町59-2
営業時間:12:00~18:00
定休日:火
電話番号:090-3277-4661
飛騨高山 | コーヒー、ビール、カレー、古道具、オータム吉日
※2020年3月23日(月)現在、店主が産休のため休業中。
飛騨の木を使ったデジタルものづくりをしてみる。森と人が共に生きていくことに思いを馳せる「FabCafe Hida」
東京、京都にもある、3Dプリンターやレーザーカッターが使えるデジタルものづくりカフェ「FabCafe」。このカフェを運営する企業ロフトワークは、森の中から新たな価値を創造することで森と人との持続的な関わりを再構築することに挑戦すべく、飛騨の広葉樹を活用したまちづくりを推進する飛騨市と、日本各地で森林のプロデュースを行うトビムシとの三者で2015年に「飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」という企業を立ち上げました。「FabCafe Hida」はその活動拠点になっています。
ヒダクマでは、地域の大工さんや木工職人さんとのネットワークや、デジタルの力を使いながら、広葉樹の特性を生かした家具や空間づくりを行うほか、飛騨古川の町中に滞在宿泊しながら森や組木などの伝統的な木工技術を体験するプログラムを提供する交流事業を行っています。
お店はカフェとして食事をたのしめるほか、飛騨の木を生かしたデジタルものづくりができる体験スペースがあるのが特徴。木をレーザーカッターで加工したカトラリーキットを使い、サンドペーパーで形を削って、近所にある牛乳屋さん「牧成舎」のアイスクリームを食べるスプーンをつくったり、多種多様な樹種のなかから自分の好きな木を選び、木工道具のカンナを使ってお箸をつくったり、さまざまな体験を提供しています。
築100年の古民家は2階がゲストハウスになっていて、宿泊も可能。国内外の建築家やデザイナーが滞在制作するほか、企業が研修で訪れる機会も増えているそうで、その際にはFabCafe Hidaを拠点に森に行く活動をしているそうです。
木材住宅の需要が減るのに比例して飛騨の製材所や大工も減り続け、それに伴い豊かな森や木の知恵を知っている人がいなくなっていること。高く売れるいい木をつくるためには森の手入れをしなくてはいけなく、放置されると森はどんどん荒れてしまうこと。そして、齢をとった木は呼吸が少なくなり、CO2の吸収率が減ることから温暖化にも繋がるということ。木を使うことは森を守ることに繋がり、それが未来の暮らしに繋がっていく。そうスタッフの方は話します。
気候変動問題について関心を持ち行動していくことが避けられない現状のなか、日本で暮らすわたしたちのそばに存在しているけれど遠く感じられる森にもっと目を向けるべきなのかもしれません。そんな森の存在がぐんと近く感じられるFabCafe Hidaは、これからの未来をどう生きていくか考えるきっかけを与えてくれる場所でした。
FabCafe Hida
〒509-4235 岐阜県飛騨市古川町弐之町6-17
営業時間:10:00~17:00
定休日:水(祝日は除く)
電話番号:0577-57-7686
FabCafe Hida | 3DプリンターやレーザーカッターなどのFabマシンと木工房があるカフェ&ワークスペースと宿泊施設
食べる、飲む、入浴剤にする。気軽に薬草をとりいれたくなる体験施設「ひだ森のめぐみ」
漢方やハーブには親しんでいたとしても、「薬草って?」と感じる人も多いかもしれません。森林が面積の9割以上を占める飛騨市は日本でも有数の薬草の宝庫で、なんと250種類以上もの薬草が自生しているとのこと。自然の恵みを身体に取り入れながら暮らしてきた文化を現代に繋げていくべく、薬草研究の第一人者である故・村上光太郎先生らの師事を受け、現在は街をあげて薬草事業に力を入れています。
「ひだ森のめぐみ」はそんな薬草の魅力を体験できる施設。1階ではさまざまな薬草を販売しているほか、ワークショップスペースもあり、マイ野草茶づくりや、夜のお付き合いには欠かせないという葛の花玉づくりなどの薬草ワークショップを毎日開催。2階は展示スペースとして、薬草や生薬の標本展示や薬草ハーバリウムなどが展示されています。
血流のお掃除屋さんとよばれるメナモミ、元気な体やいきいきした肌作りを助けてくれるドクダミ、女性の身体のバランスを整えてくれるというタンポポなど、さまざまな薬草の特徴のほか、飲みやすい方法もスタッフの方が教えてくれるので大丈夫。たとえば、ドクダミやメナモミはそのまま飲むと苦味やえぐみがあるので、はちみつと混ぜて飲んだり、ミルクも加えてラテにするのもよいそう。
もともとフランスで花を飾る仕事をしていたというスタッフのあやさんは、「体の中から植物の力で元気になれたら」と考えていたときにはじめて飛騨で薬草料理に出会って薬草の魅力に惹かれ、それから飛騨市の地域おこし協力隊として飛騨の薬草を広めるお仕事に携わっているそうです。「自然に生えているものを、わたしたちの身体に活かすことができる。もっと気軽に薬草を取り入れてもらえたらと思います」。
食べる、飲む、入浴剤にするほか、香りをかぐだけでもリラックスができる薬草。山々のなかで自然と関わり合い、それを自らの身体にもとりいれながら生活していく。自然と共生しながら自らを労る生活を、薬草からとりいれてみては。
薬草体験施設「ひだ森のめぐみ」
〒509-4235 岐阜県飛騨市古川町弐之町6-7
営業時間:10:00~16:00
定休日:年末年始
電話番号:0577-73-3400
薬草体験施設「ひだ森のめぐみ」|観光・体験|飛騨市公式観光サイト「飛騨の旅」
薬草体験施設「ひだ森のめぐみ」について - 飛騨市薬草ビレッジ構想推進プロジェクト
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