韓国、台湾、ニュージーランド、ドイツ。パンデミック対応のお手本とされている国々の新型コロナウイルスへの向き合い方
パンデミックが猛威を振るうなか、世界各国の新型コロナウイルスへの向かい方は様々ですが、市民の苦しみに応え、パンデミック対応のお手本とされている国には韓国、台湾、ニュージーランド、ドイツが挙げられます。
・どの国よりもはるかに多い30万回以上の検査を実施。早い段階で主な感染源を把握した韓国
日本で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない一方、先に危機を迎えた韓国では今、終息の兆しが見え始めています。韓国は大規模なアウトブレイクが発生しながらも封鎖政策を行わずに、感染者数の増加曲線を抑えることができた国の一つです。その背景には、1月下旬に同国初の感染症例の診断が下ってからわずか1週間後に韓国の当局はコロナウイルス用検査キットの開発に直ちに着手し、2週間以内に何千もの検査キットを発送したこと、また早い段階で主な感染源がわかっていたということがあります。
また、韓国は感染の可能性があるすべての市民を検査するという戦略により、他のどの国よりもはるかに多い30万回以上の検査を実施し、その検査体制は現在感染爆発を起こしているアメリカのニューヨーク州の目標にもなっています。韓国政府はドライブスルー検査やウォーキングスルー検査など次から次へとPCR検査を行い、感染者と濃厚接触者の治療、感染経路の解明、情報公開を徹底することにより早期発見と拡大を抑制しました。ウイルス感染が判明した患者を早く治療することに繋がったことが「非常に低い死亡率のカギである」と韓国の外務相カン・ギョンファはBBCに述べています。
さらに、大きな役割を果たのは感染者の動向調査です。統合官制センターは感染者が区内をどのように移動したかを、位置情報データを駆使し接触追跡をすることで感染の拡大防止に効果をあげています。アメリカ食品医薬品局(FDA)元長官のスコット・ゴットリーブは、ツイッターで「韓国は賢く精力的な公衆衛生によってCOVID-19が克服できることを示している」と述べています。
South Korea, with aggressive #COVID19 screening and early mitigation measures, is turning the corner on their epidemic. They still have weeks to go, but the 110 new cases they report tonight are lowest number of daily cases since 2/22. This virus can be defeated with good policy.
— Scott Gottlieb, MD (@ScottGottliebMD) March 13, 2020
韓国も日本と同様に感染者の急増に伴い、病床の確保が喫緊の課題となりましたが、韓国政府は病院やクリニックがキャパオーバーにならないよう、可能な限り多くの人々を早く検査できるように設計された検査センターを600カ所開設しました。3月2日、同政府は病院とは別の隔離施設である「生活治療センター」での軽症者の受け入れを開始し、公共施設を突貫工事してからわずか1か月で1万人ぶんの収容施設を整えました。センターの整備に向けた民間企業の動きも早く、政府の呼びかけに応じる形で大手財閥のサムスンや現代自動車が大規模な社員施設を提供しています。また、医療崩壊を防ぐために、軽症者は医師や看護師が常駐する施設もしくは自宅での隔離とし、経過観察を義務付けられていますが、自宅隔離を義務付けた5万人以上に対して自治体が食品やマスクなどを無料で配布し、支援金も支給しており、その手厚い配慮は市民にも好評です。
パンデミック対応の「優等生」とされる韓国ですが、韓国政府がスピード感を持ち広範囲に検査を実施している背景には、2015年5月に中東呼吸器症候群(MERS)の感染拡大を許し、186人が感染しそのうち38人が亡くなったという苦い経験があリます。当時、韓国政府の対応の遅れは韓国政府の危機管理能力に対する国民の不信感を高め、朴槿恵前大統領の弾劾や政権交代の一因にもなりました。朴槿恵政権や与党に対する不満が爆発した機会に政権交代に成功した文在寅政権の支持率は、今回のパンデミックへの対応が評価され、一年ぶりに60%台に上昇しています。押さえ込みの成功には、前政権の失敗を繰り返さないために早期対策を要求する国民の声を受け入れ、政権の長期化を維持するため、より積極的な検査を実施せざるを得なかったという背景があるのでしょう。制度の枠組みの外での民衆の懸念の表明は強い力を持つ、という現れでもあります。
・医療・感染症に詳しい人材が政権に複数入り、デジタルを駆使して管理する台湾
台湾は中国と地理的に近く経済的結びつきが深いにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染者が4月27日時点でわずか429人、死者が6人にとどまっています。また、市民への積極的な情報公開、中小企業やアーティストの支援策など、新型コロナウイルスへの対応の速さでは世界的に評価を受け、特にヨーロッパのメディアから模範例として取り上げられています。
その成功の背景には、2003年の「SARS」流行時に危機対応にあたったメンバーや、医療・感染症に詳しい人材が現在の政権に多数入っていた強力布陣の存在があります。そして、経済効果よりもウイルス感染の蔓延の方がはるかに失うものが大きいという判断が早急に行われたことも理由の一つでしょう。蔡英文政権は、事態の悪化に先んじて中国との窓口を閉じることでしかウイルスの侵入を押さえ込む方法はないと判断し、次々に中国へのマスク輸出禁止や厳しい渡航制限などの厳格な防疫態勢を打ち出しました。
日本でも1月後半からマスクの在庫不足が問題になっていますが、SARS禍を経験し、官民ともにマスク着用が感染予防に役立つという確信を当初から持っていた台湾は、具体的な施策に早くから踏み切りました。昨年まで台湾はマスクの多くを中国からの輸入に頼っていたものの、中台間の往来を制限し手から即座に国内の在庫や生産分を政府の管理下に置き、限られた数のマスクを公平に配分し、高値での転売などを防ぐため、マスクは政府指定の薬局でのみ販売するものとしました。
そんな“神対応”を連発する蔡政権のなかで、特に注目されているのは台湾の人々が「彼女の存在は私たちの希望」と慕う、IQ180の天才として名高い、デジタル担当政務委員のオードリー・タン(唐鳳)氏です。世界的に有名なプログラマーでトランスジェンダーの女性であるタン氏は、マスクの在庫不足を解決するために輸出や転売を禁止し、2月2日にはマスクの購入を実名制にして7日間で2枚しか買えないようにしました。
🇹🇼 #Taiwan is combating #Coronavirus & managing the #COVID19 pandemic.
💡 Digital Social Innovation is key!
🚀 It’s fast, open, fair & fun.
🙌 Most importantly, it needs #AllHandsOnDeck.
🕔 Take 5 with me & get up to speed.
💻 Visit https://t.co/5D68ia7PcI & learn much more. pic.twitter.com/M5ecPnSPLF
— Audrey Tang 唐鳳 (@audreyt) April 21, 2020
また、台湾全島の指定薬局にそれぞれ何枚のマスクが在庫としてあるかを瞬時にスマホで見ることができるシステムを急遽導入し、在庫状況がひと目でわかるアプリの開発と無償配布も行われました。緊急時に発生するデマ情報の拡散を防ぐためにLINEなどの通信アプリを通じて、間違った情報を信じないよう注意するメールを配信し、新型コロナウイルスに感染しやすいタクシー運転手やバス運転手にマスクが優先的に届くように求める情報を発信したところ、Facebook上では「本当に必要な人にマスクを譲ろう」という声があふれたそうです。
日本では大臣の過半数を国会議員から選ぶことが憲法で定められているため、パソコンをまともに使えない人物がIT担当相に就任するなど、専門性を度外視した人選が行われることも至って普通とされています。対照的に、台湾は民間での活動で能力が認められ、台湾の内閣は行政府に引き上げられた専門家揃いです。台湾の政府系シンクタンクで長年顧問を勤めていた藤重太氏は、「日本は論功行賞などで素人でも大臣になってしまうが、台湾はその分野のプロでなければ大臣にはならない。この政治システムが最大の理由だ」と指摘しています。
・毅然とした態度で脅威に対峙。観光大国にも関わらず「鎖国状態」の決断を早く下したニュージーランド
感染拡大抑制の成功例として、ニュージーランドとジャシンダ・アーダーン首相のリーダーシップに世界中から注目が集まっています。今年3月、ニュージーランドはモスク銃撃事件から1周年を迎え、同月13日に追悼式典が予定されていましたが、11日の世界保健機関(WHO)のパンデミック(世界的大流行)宣言により、アーダーン氏は早急に追悼式典を中止しました。それだけではなく全世界からの入国者に対して入国後14日間の自主隔離を実施すると発表し、他国が段階的に手を打つなか、海外からの観光客数が年間で390万人に達する観光大国にも関わらず、その真逆の「鎖国状態」に入るという決断を世界でも最も早期に下しました。
厳格な自主隔離措置を取った同首相は、2月3日の時点で外国籍の人全員を対象に中国からのフライトでの入国を禁止しました。入国者には14日間の自主隔離が求められ、2月28日に同国初の感染者が確認された直後には入国禁止対象国が拡大されました。その結果、ニュージーランドは4月27日時点で感染者数1472人、死者数19人と被害者数を抑え、ウイルスを抑え込むことに成功しています。また、同国の政府は感染予防策による経済的打撃への対抗策として、ニュージーランドGDPの4%に相当する121億NZドル(8000億円弱)規模の経済対策を打ち出し、12週分の給与保証もしています。
また、アーダーン首相はロックダウンの詳細や今後の感染者数の見通しについて市民に伝える際に優しさという面にも焦点を当てきたことも、世界的に大きく称賛されている要因の一つです。首相の公の場での発言のほとんどは、「強く、そしてお互いに優しく」というメッセージで締めくくられています。首相はカジュアルな服装で定期的にフェイスブックに登場し、常に笑顔で私生活の一部を共有する一方で、市民からの質問に答える際には決して事態を過小評価しません。
アーダーン首相がFacebookに掲載している動画
「優しいだけでなく、きっぱりと決断する。おかげで私たちは、何をしてよくて、何がだめないのか、はっきり分かる」と、オークランドを拠点に活動する保険監督官のトマス・ウェストン氏はBBCに述べています。これに対してアーダーン首相は、医療関係者の働きや、市民がロックダウンを支持してくれたことが成功に結びついたと称賛しています。「ニュージーランド人は自分たちの力を証明してくれた。最も素晴らしい方法で」
今、経済への影響を恐れて行動制限を遅らせたほかの国は現在困難な時期に突入していますが、ニュージーランド政府が明確に市民の健康を最優先してきたことが、感染拡大抑制成功の鍵だったことは間違いありません。
・感染の深刻な国では最低の死亡率。大量の検査で感染者を早期発見、巨額の経済対策も取りまとめているドイツ
新型コロナウイルスの第2の震源地であるヨーロッパでは、今なお感染拡大が止まる勢いを見せません。イタリアでは総人口が少ないにもかかわらず、4月27日時点で合計2万6900人以上の死者が出ており、死亡率は13.5%にも上ります。そうした中で、ドイツの感染者数は約15万8700人以上(4月27日時点)と欧州で3番目に多いにも関わらず、死者が6100人程度で死亡率は3.9%と、ヨーロッパ圏では死亡率を圧倒的に抑え込むことに成功しています。
その背景には、同国の「パンデミック迎撃態勢」が他国に比べて整っていたことが挙げられます。例として、ドイツには今年3月初めの時点で人工呼吸器付きの集中治療室(ICU)が2万5000床すでにありました。ドイツは2011年の福島原発事故直後に、メルケル政権が全ての原子力発電所を廃止する決定を行ないましたが、今回のパンデミック対策からも、ドイツ政府の常に最悪の事態を想定し、災害が現実化した時のリスクや被害を最小限にするため多額のコストを賭けて、努力を行うという姿勢が垣間見られます。
また、ドイツでは当初から1日5~6万件のPCR検査を行う態勢を持っており、検査数を増やすことによって感染者と濃厚接触者を迅速に隔離するという日本とは異なる戦略を取っています。英オックスフォード大学が運営する統計ウェブサイト「データで見る我々の世界(OWID)」によると、ドイツのPCR検査の累積数は4月12日時点で約173万件と欧州で最も多いものとなります。ドイツの死亡率の低さについて、現地の専門家は「大量の検査で感染者を早期に発見している」こと、また「週50万件の検査による感染者の早期発見があるから」との見方を示しています。
ドイツ政府は、総額7,500億ユーロ(約90兆円)にも達する巨額の経済対策を取りまとめており、その中には中小零細事業の事業オーナーや従業員、自営業者を救済するための500億ユーロ(約6兆円)の支援策も含まれています。4月23日には、新型コロナウイルスの影響を受けている事業者や労働者への支援策として、100億ユーロ(約1兆1,600億円)の追加経済対策を発表し、労働者向け給付金の拡充や、飲食業界向けの減税措置なども盛り込んでいます。新型コロナの感染拡大について「制御下にある」と宣言し、1か月ぶりに一部店舗が営業を再開するなど経済活動の平常化へ向けて動き出しています。