No but ではなく、Yes and で話す練習を
あんな:ちょっと話が戻っちゃうんですけど。窓を広げていろいろな意見に触れるのは素敵なことだと思うのですが、こと政治テーマとなると意見の違う人から急な攻撃をされるのが怖くて。私は普段、美容やインタビューの記事を書くことが多いんですけど、「ファンデーションはこれがオススメ」とか「人気モデルがこう言っていた」みたいなツイートするぶんには、平和なんです。
でも、「この政策はどうかと思う」「あの政治家がこう言ってた」なんてつぶやこうものなら、意見のちがう人からいきなり暴言吐かれる可能性がある。政治ネタって、見ず知らずの人が「同じ意見じゃないとけしからん!」と潰しにくるようなところありません?
かん:それが辛くて、政治の話を見ないようにしている人も多いと思う。昔バイト先で、お客さんの前で「政治と宗教と野球の話はするな」と教えられたんですが、世の中には「政治的なことは発言しないのが無難」という風潮がある気がする。
あんな:前に政治家のパーティってどんな感じだろうと興味本位で行って、そのレポートをnote(*3)にしたためたんですよ。わりと勉強しているテーマについて政治家の人がいい加減なことを言っていた件について、ほんのちょっと書いただけで、コメント欄に「そんなことも知らないのか、もっと勉強するべきだ」って、トンデモ系のリンクを貼りつつ罵倒されて。それが嫌すぎて、noteの記事を全部閲覧不可にしたんです。いきなり暴言吐く人に自分の存在を知られたくない……。
*3=アカウントを登録すれば誰でも文章、写真、イラスト、音楽、映像などの作品を投稿できるウェブサービス。
しもむら:まともな反論はいいんだけど、「こんなこともわからないんですか?」とか、最後にわざわざ余計な罵詈雑言が入っていたりして。僕は、個人的にはあまり気にしないようにしてますね。胸の悪くなる部分は、ただのドットの列と思えばいい。
かん:ドット列(笑)。
しもむら:でも、ただ馬鹿にしたいだけ・優越感を持ちたいだけの人は無視していいと思うんですが、反論している人の意見を見ると参考になることもいっぱいありますからね。慣れてくると、していい無視と、してはいけない無視の判断もついてきますよ。メーカーだってクレーマーが最高の先生っていうでしょ。
あんな:強い心! でも、私は具合が悪くなっちゃうタイプだからなぁ……。素性の明らかな人と面と向かってならまだしも、聞く耳も話し合う準備もできていない匿名の人と向き合うのはリスクが高いし、消耗してしまう。暴言耐性がない人も、安心して自分の意見を発信できるようになったらいいのに。ちなみに先生は、お仕事を通してその境地に至ったんですか?
しもむら:僕はもともと、自分を含めて、そんな完璧な人間がいるとはどうしても思えないんです。だから反論してくる相手も否定しないってのが基本なんですよね。我以外、皆我が師。そして我以外、皆我が反面教師。25年くらい取材をしてきて、いろんな考えの人を本当にたくさん見てきたので。なんでこの人はこの情報を信じているんだろう、ってことにすごく興味があります。
かん:反論してくる人にとっても、その情報を強く信じたり、反対意見の人を攻撃するまでになった経緯があるはずですよね。俄然興味がわいてきた。ミステリー小説みたい。
しもむら:それに、自分を守るために、実は誤りだと薄々気づいた主張を頑固に繰り返すうち、自分の意見に洗脳されていって、本当にそれが正しいんだという錯覚に陥る人っているんです。その人にとっては、ちがう考えを受け入れてしまうと、それまでの自分を壊してしまうことになるから議論ができなくなる。
かん:なんでも断定的に言う人ってそういう状態になってしまってるのかもなー。前に親がネトウヨだったという記事(デイリー新潮/亡き父は晩年なぜ「ネット右翼」になってしまったのか)が話題になってたけど、全然他人事じゃないなと感じました。身近な人が偏向報道や差別思想に染まったとき、どうすればいいんでしょう?
しもむら:「立場をカエル」で言ったように、「A or B」の対立と考えないで、「A and B」で考えること。反対説や違う意見を述べる時に、No but(ちがうよ、しかし) じゃなくて、Yes and(そうだね、それと)と言ってつなげれば、その人の見ている景色を否定することなく、窓を広げられるんじゃないかな。
例えば、飲み会なんかで、「あいつ絶対仕事サボってるよね」という話が出てきたときに、「それはちがうでしょ」と真っ向から否定せず、「だよね~。それか、まだ言えない大きいプロジェクトでも仕込んでるのかな」とか、「うん……。もしや、ご家族が具合悪かったりとか?」と付け足してみる。日常会話の中でつぶやいていくことが、相手の人のフィルターバブルを破る手助けになるかもしれませんよ。
あんな:無理に相手を変えようとせず、でも諦めなくてもいいよということですね。「こんな見方もあるらしいよ」と、気楽に言ってみよう。
<ポイント>
Q.「政治的発信をすると攻撃されそうで怖い」(あんな)
A.「議論する時は、No butではなくYes andで話す。」(しもむら)
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