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政治1年生のためのメディアリテラシー。長田杏奈&かん(劇団雌猫)がジャーナリストに取材

政治1年生のためのメディアリテラシー。長田杏奈&かん(劇団雌猫)がジャーナリストに取材

情報が溢れる時代の、メディアとの付き合い方

インタビュー・テキスト:かん 撮影:飯本貴子 イラスト:鈴木衣津子(かん似顔絵) 編集:守屋佳奈子、野村由芽 
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右の窓と左の窓がつながる

あんな:みんながメディアリテラシーを身に付けたら、世界はどんな風に変わるんだろう。

しもむら:僕はかなり違う景色になると思いますよ。まず前提として、悪意を持ったフェイクニュースを流す人は完全には消えません。でも、それを信じたり拡散する人は減っていくはずです。拡散されないのであれば、フェイクニュースを流す旨味も面白味もないですよね。

かん煽り耐性をつけるってことか!

しもむら:そうすると、世論の揺れ幅が小さくなるので、より安定した社会になります

かん:答えが明確にあるものについてはそうだとして、答えが明確にないものに関してはどうなっていくんでしょうか。

しもむら:いまは、答えが明確でないものに対して、みんなが、無理やり黒か白にしたがっているけど、メディアリテラシーが普及した社会では、明確でないものが明確でないままで受け入れられるようになっていく。本来、この世界はカラフルな総天然色で、名前のついていない色の方が多いんですから。不明確なもの、答えの出せない問題に対してもそういうものとして受け入れていけると良いですよね。

あんな:そういえば、北欧語の翻訳者さんに「日本ではすぐ結論や正解を求めたり白黒つけたがる傾向があるけれど、北欧には答えの出ない問題を考え続ける文化がある」と教えてもらったことがあって。情報番組ひとつとっても、日本だったら専門家が1人呼ばれてその人が一身に解説を担うという感じじゃないですか? 北欧だと、同じ分野の専門家が2、3人呼ばれて、ああでもないこうでもないと議論を始めるそうなんです。番組が終わるまでに明確な結論は出ないけれど、簡単に答えが出ない問題なんだということがわかるし、視聴者にとっては答えのない問題を考えるきっかけになるそう。

しもむら:そっちの方が成熟した情報社会の姿ですよね。学校のテストじゃあるまいし、現実は○×で決まっているわけではないから。

ただ、何でも「北欧はすばらしい、それに比べて日本はトホホ」という枠組みにハメちゃうのも、やっぱり決めつけに陥らないよう要注意ですけどね。

あんな:たしかに。北欧好きなので、つい肩入れしちゃいますね。ただ、最初に出てきた青年会議所のTwitterの話なんかは、日本のトホホ案件だと思います。

しもむら:それは、おっしゃる通り。実は最近、その団体に限らず、メディアリテラシーの意味を誤用する人が出て来ていて、その人たちは「あんな間違った思想の人たちの主張に惑わされないために、メディアリテラシーを学びましょう」と言うんです。

かん:ん、それは言葉の使い方が逆ですね。

しもむら:決めつけや思い込みをやめるのがメディアリテラシーなのに、自分の決めつけや思い込みを押し通す大義名分としてメディアリテラシーという言葉を使おうとしてる。

メディアリテラシーとは、上の窓や下の窓、右の窓や左の窓から見える別々の小さな景色も、窓枠の上下左右を広げていったら、やがて広々とした景色の中で1つの視界に収まるということなんです。たとえ賛成はできなくても、そういう景色があることは認めなければ。

あんな:相手の言い分を聞いて「なるほど、そういう考え方もあるのか」と認識することと、賛成して意見を変えることは別ですもんね。

しもむら:そう。それがNO butではなく、YES andということです。そうやって常に足し算をしていくと、窓を広げることができる。自分の考えをアップデートしていくためには、とにかく窓枠(=視野)を広げること。反対意見や、初めての意見に出会った時、ガラガラとシャッターを閉じてしまうのではなく、まずは目を向け、耳を傾け、頭で考えることです。 

あんな:バランスのいい物の見方は素敵だと思うけれど、窓を広げることを意識するあまり差別的な人にマイクを向けたり、トンデモ理論を同じ土俵に載せちゃうメディアには不信感を持ってしまいます。例えば、差別されてきた人たちがようやく声を上げ始めたときに、「フラット」をお題目に、力や数で勝る「差別する側」を同じテーブルにつかせたら、せっかく上がった声の足を引っ張ってしまう気がするし。

しもむら:うん、それは「フラット」ではないですよね。大きい人と小さい人をシーソーの両端に乗せた時、支点を普通に両者の真ん中に置いたら、シーソーは当然大きい人の方に傾いちゃって、フラット(水平)になりません。この場合、両者の主張がフラットに並ぶようにするには、シーソーの支点をずらさないと。これは恣意的でも何でもなくて、自然の理です。

あんな:じゃ、例えば地球の自転を前提に話す人と、地球が亀と象と蛇に支えられていると信じて疑わない人の場合は? 今度は後者の方が力や数では小さいけど、両者をフラットに扱って「中立」と言われたら変なの~ってなります。

しもむら:そのケースは、今まで長年みんなで広げてきた窓を「無かったこと」にしちゃってるから、「変なの~」と感じるんですよね。そういう時は、なんでこの人は「無かった」と思っているんだろう? と好奇心を持って、こういう資料もありますよ? 根拠は? と、攻撃的にならずに、問いを詰めていけばいい。

あんな:でも最近は、ファクトを裏付けするはずの資料や証拠も廃棄とか隠蔽とか改ざんされちゃったりしますよね。ジャーナリズム史を見渡すと、ペンダゴンペーパーズ(*5)とかパナマ文書(*6)とか、文書の存在が大きいじゃないですか。ペーパーを処分されたら不正を暴けないし、多角的な見方の前提まで失われてしまう。

*5=ベトナム戦争に関するアメリカ国防総省の機密文書のこと。内部告発により、1971年にニューヨーク・タイムズ紙でその内容が報じられ、ベトナム反戦運動を後押しともなる。2011年6月13日からアメリカ国立公文書館(NARA)等により全文が公開されている。
*6=パナマの法律事務所モサック・フォンセカから流出した金融取引文書のこと。課税逃れに使われるタックスヘイブン(租税回避地)の利用者などを記した1100万件を超える文書が、内部告発により2016年に公開された。文書には各国首脳を含む多数の政治家・企業幹部・著名人も多く含まれた。

しもむら:そうなんですよ! だから史料をいじることは、地面の底が抜けるぐらい危機的な、民主主義の土台を壊す大罪なんです。そもそも日本の戦後民主主義は、GHQの占領軍に見つかる前に証拠隠滅のために資料を焼いた焚き火の煙と共に始まってしまったから。

かん:いい加減悪習を断ち切らねば……。

しもむら:考える材料を捨ててしまったら、将来問題に直面した時に似たような過ちを冒すリスクが高まってしまうのにね。

あんな:ファクトあってのリテラシー。次世代への情報遺産、目先の事情で処分せずに保存してほしいですね。

しもむら:そうですね。とにかく生きている限り、窓を広げて自分のツマミをチューニングし続けて行きましょう。

<ポイント>
Q.「みんながメディアリテラシーを身に付けるとどんな世界になる?」(あんな)
A.「フェイクニュースを拡散する人が減って、世論がより安定する」(しもむら)

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PROFILE

長田杏奈
長田杏奈

1977年、神奈川県生まれ。ライター。テロップや口調で煽るテレビが苦手で、ニュースはネットやラジオでチェック。新聞は電子版派。センセーショナルな見出しやコメント欄、ニュースの並び順がワイドショーっぽいサイトは避けて通る派。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)、『あなたは美しい。その証拠を今からぼくたちが見せよう。』(大和書房/6月発売)。『エトセトラ VOL.3 特集: 私の 私による 私のための身体』(エトセトラブックス/5月18日発売)責任編集。

かん

1989年、兵庫県生まれ。書籍『浪費図鑑』等を制作するオタク女子4人組「劇団雌猫」メンバー。何が正しい情報か分からないときは、一回スマホを閉じて、みんなの議論が活性化するのを待つ。新刊はコミック『だから私はメイクする』(祥伝社)。K-POPアイドルSEVENTEENのジョシュアと宝塚歌劇団の芹香斗亜を応援中。

下村健一

1960年、東京都生まれ。令和メディア研究所主宰。東京大学法学部卒業後、TBS入社。報道アナウンサー、現場リポーター、企画ディレクターとして活躍。2000年以降、フリーとして取材キャスターを続ける一方、市民グループや学生、子どもたちのメディア制作を支援する「市民メディア・アドバイザー」として活動。2010年秋から約2年半、内閣広報室の中枢で首相官邸(民主党政権も自民党政権も)の情報発信を担当。東京大学客員助教授、慶應義塾大学特別招聘教授などを経て、現在は白鴎大学特任教授。小学教科書(国語5年/光村図書)の執筆から経営者研修まで、幅広い年代のメディア・情報教育に携わる。ネットメディアの創造性&信頼確立を目指して40団体以上が加盟する「インターネットメディア協会」(JIMA)に、設立理事として参画し、メディアリテラシー部門を担う。著書に『窓をひろげて考えよう』(かもがわ出版)、『10代からの情報キャッチボール入門――使えるメディア・リテラシー』(岩波書店)、『マスコミは何を伝えないか』(岩波書店)ほか。

INFORMATION

書籍情報
『窓をひろげて考えよう』
著者:下村健一

2017年7月20日(木)発売
価格:3,080円(税込)
発行:かもがわ出版
Amazon
※Amazonが在庫切れの場合、各出版社や書店系サイトからお申込みください。

『10代からの情報キャッチボール入門――使えるメディア・リテラシー』
著者:下村健一

2015年4月25日(土)発売
価格:1,760円(税込)
発行:岩波書店
Amazon
※Amazonが在庫切れの場合、各出版社や書店系サイトからお申込みください。

『マスコミは何を伝えないか――メディア社会の賢い生き方』
著者:下村健一

2010年9月23日(木)発売
価格:2,090円(税込)
発行:岩波書店
Amazon
※Amazonが在庫切れの場合、各出版社や書店系サイトからお申込みください。

『想像力のスイッチを入れよう』
著者:下村健一

2017年1月31日(火)発売
価格:1,320円(税込)
発行:講談社
Amazon
※Amazonが在庫切れの場合、各出版社や書店系サイトからお申込みください。

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