She isの更新は停止しました。新たにリニューアルしたメディア「CINRA」をよろしくお願いいたします。 ※この画面を閉じることで、過去コンテンツは引き続きご覧いただけます。

林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年8月)

植本一子さんとのオンライン読書会、一日中Spotifyで音楽を聴いた日

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
テキスト・撮影:林央子、エレン・フライス 翻訳:林央子 編集:竹中万季
  • SHARE

ここと、あそこ。hereとthere。エレン・フライスと私の交流は、彼女がパリに住んで『Purple』を編集し、私が東京に住んで『花椿』の編集部にいたころからいつも、距離を前提としていた。年2回、私はその距離を飛び越えてパリに出張に行っていた。90年代のパリ・コレクションのシーズンだ。

距離を飛び越えたところに、友達がいるというのはワクワクすることだと、はっきり自覚するようになったのは『流行通信』で「エレンの日記」の翻訳連載を始めた2000年の始めごろだっただろうか。そして私は『here and there』という不定期刊行の雑誌をつくり始めた。題名の名付け親は、エレンだった。

Parallel Diariesの題名はエレンの提案により、Tumblrをつかって始めた二人のblogプロジェクトであった。二人とも気ままにポストをしたけれど、いつしか立ち消えてしまった。その時エレンは南西仏の村の一軒家に娘と住み、私は東京の谷中に住んでいた。いま、私は息子とロンドンに住み、エレンは変わらずその一軒家に住んでいる。

コロナウイルスによるロックダウンの生活が始まって、エレンの正直な声を聞きたくなって執筆に誘うと、エレンは「一緒に書きましょう」と言った。二人の間をメールで行き来した並行日記は、その日の気分の上澄をすくいとり、私たちのすごした季節の感情を映した。

2020年8月7日(金)

ナカコ 8月7日(金) 8:00 Tokyo

今週のはじめ、息子が17才になった。彼の誕生日に私は、「自分の魂の目的を知る」ためのワークショップに参加していた。占星術師のファシリテーターに、家族の夢を調べてくるように言われ、父や母、祖父母の叶わなかった夢や、家族の歴史を調べていた。同時にこの一年間、私たち家族に訪れた変化についても考えていた。息子と私がロンドンに住み、夫は日本で二人を支えることになったのだ。一年前、息子の誕生日に私はとても悩んでいて、一年後にどうなっているかはまったく想像ができていなかった。すべては昨年の8月下旬からバタバタと起こったことだった。

いろいろ調べると、父は母と結婚するために学業をあきらめたことがわかった。私は人生上の急変によって、ロンドンの大学院で学ぶことになった。これは父の果たせなかった夢に関係があるのかもしれない。

エレン 8月7日(金) 16:00 Saint-Antonin-Noble-Val

外は38度。外出の予定はないので、外に出ないことにする。今朝、書斎に大きな棚をつくるために大工が家にやってきた。9月には、2008年にパリを離れたころからまだそこにあった文学、アートや写真の本を受け取ることになる。そのために準備をしなければいけないが、書斎には空きがなかった。できたばかりの棚はまだ空なので、変な感じがする。

昨日は家の近くの小さな村にある書店に行った。とても感じのよい古本屋だ。その店を営むミッシェルは、友達の友達だ。彼はマスクをしていなかった。800ユーロの罰金を取られるかもしれないし、店を閉めなければならないかもしれないリスクを犯しているのだ。そこで、私は1960年の日本のガイドブックを買った。白黒の美しい写真が載っている。私もマスクをしていなかった。

この間の日曜日はマーケットに行って、魚を買うために行列に並んだ。隣に老婦人がいたので私は尋ねた「ごめんなさい、私はあなたに近寄りすぎていますか?」。すると彼女は言った「私たちはもう近寄ることも、触ることもできない。自殺するしかないね」。

PROFILE

林央子
林央子

編集者。1966年生まれ。同時代を生きるアーティストとの対話から紡ぎ出す個人雑誌『here and there』を企画・編集・執筆する。2002年に同誌を創刊し、現在までに今号を含み14冊制作。資生堂『花椿』編集部に所属(1988~2001)の後フリーランスに。自身の琴線にふれたアーティストの活動を、新聞、雑誌、webマガジンなど各種媒体への執筆により継続的にレポートする。2014年の「拡張するファッション」展に続き、東京都写真美術館で行われた「写真とファッション 1990年代からの関係性を探る」展(~7/19)の監修を勤めた。同展にはエレン・フライスも招聘。現在『She is』『まほら』ほかにて連載執筆中。
Parallel Diaries

エレン・フライス

1968年、フランス生まれ。1992年から2000年代初頭にかけて、インディペンデントな編集方針によるファッション・カルチャー誌『Purple』を刊行。その後も個人的な視点にもとづくジャーナリズム誌『HÉLÈNE』『The Purple Journal』を手掛ける。また、1994年の「L’Hiver de L’Amour」をはじめ世界各国の美術館で展覧会を企画。現在はフランス南西部の町サン・タントナン・ノーブル・ヴァルで娘と暮らしながら、写真家としても活躍している。編著に『Les Chroniques Purple』(VACANT、2014年)、著書に『エレンの日記』(林央子訳 アダチプレス 2020年)。東京都写真美術館の「写真とファッション」展では新作スライドショー《Ici-Bas》を発表。

INFORMATION

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
『Purple』『here and there』の編集者が
離れた場所で綴り合う並行日記

vol.1 林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年5月)
vol.2 林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年6月)
vol.3 林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年7月)
vol.4 林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年8月)

林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年8月)

SHARE!

林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年8月)

She isの最新情報は
TwitterやFacebookをフォローして
チェック!

RECOMMENDED

LATEST

MORE

LIMITED ARTICLES

She isのMembersだけが読むことができる限定記事。ログイン後にお読みいただけます。

MEMBERSとは?