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林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年9月~10月)

私たちのすごした季節の感情を映した、並行日記

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
テキスト・撮影:林央子、エレン・フライス 翻訳:金沢みなみ 編集:竹中万季
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2020年10月8日(木)

ナカコ 10月8日(木) 15:30

この間、近所の大きなスーパーに行き、そのスーパーが発行している雑誌がセルフケア特集だったのを見つけて買った。イギリスでは、秋は人々が鬱を予防するためにビタミンDをとり始める季節だ。その特集は、前向きな感情を高めるための20の簡単な対策から始まっていたが、そこで私はコンマリ、近藤麻理恵さんの名前を見つけた。今や世界中に彼女のファンがたくさんいるらしい。

私の周りには、「愛すべき物や人、その思い出の品々」について取り組んでいるアーティストが何人かいる。手づくりのものや服、今は亡き人によって残されたもの、などについて考察すること。その中の一人、アーティストの竹村京さんは、「私たちは日本人として、付喪神への信仰を忘れてならないと思う」と言う。100年も経てば、ものにも魂が宿るのだ。

竹村さんは修復プロジェクトに取り組んでいる。これは10年ほど前、竹村さんがベルリンで新生活を始めたときに、ある日うっかりお気に入りのカップを割ってしまったことから始まったものだ。ものに宿る魂を信じている竹村さんは、そのカップを白いベールに包んで、絹糸で縫い合わせた。ベールは、魂をなだめるためのものだ。竹村さんのこのプロジェクトを知ってから、もう何年も経つ。こちらに来る前に、竹村さんが服の修繕もしていることを知った。私は、以前はよく着たけれど、縁がすり切れてもう着られない絹の白いコートを彼女に託した。これから、その服を竹村さんが修繕してくれるのだ。

エレン 10月8日(木) 21:30

今日は、私の村から20分ほどの小さな町にあるスリフトストアに行った。家具、皿、台所用品、服、おもちゃ、照明器具、あらゆる種類の道具、オフィス用品など、想像できるものすべてがあるような大きなところである。全部が寄付されたものだ。

今日、私は本を3冊買った。このような場所におもしろい本を並べるためには、何百ものほとんど価値もないような本たちを整理する担当者が、本について詳しい人でなければならない。このスリフトストアは、まさにそうだったのだ。私が今日見つけたものは、なかなかすばらしいものだ。

今まで耳にしたことはあっても見たことがなかった、ある詩の雑誌の創刊号。1967年に発行されていて、わたしの友人でもある日本の詩人、村岡久美子の長編詩「時の算術」が載っている。この詩は、Purple Journal #9(2006年冬号)でも私が再掲したことがある。どのようにしてこの雑誌が、南西仏の、この小さな町のスリフトストアにたどり着いたのか、それは謎のままである。

2冊目は、1935年に英国の哲学者ジョン・クーパー・ポウイスが幸せについて書いた本。この本はなんとなくいい感じがする。3冊目は、写真芸術事典のシリーズから出ているルーブル美術館についての本で、1936年の出版だ。エジプトやメソポタミアの彫刻や陶器の、美しい白黒写真が何百枚も載っている。それから、木の持ち手がついた、鮮やかな色の、とても大きな傘を買った。

PROFILE

林央子
林央子

編集者。1966年生まれ。同時代を生きるアーティストとの対話から紡ぎ出す個人雑誌『here and there』を企画・編集・執筆する。2002年に同誌を創刊し、現在までに今号を含み14冊制作。資生堂『花椿』編集部に所属(1988~2001)の後フリーランスに。自身の琴線にふれたアーティストの活動を、新聞、雑誌、webマガジンなど各種媒体への執筆により継続的にレポートする。2014年の「拡張するファッション」展に続き、東京都写真美術館で行われた「写真とファッション 1990年代からの関係性を探る」展(2020)の監修を勤めた。同展にはエレン・フライスも招聘。2021年春には10年ぶりの新著『つくる理由』刊行予定。
Parallel Diaries

エレン・フライス

1968年、フランス生まれ。1992年から2000年代初頭にかけて、インディペンデントな編集方針によるファッション・カルチャー誌『Purple』を刊行。その後も個人的な視点にもとづくジャーナリズム誌『HÉLÈNE』『The Purple Journal』を手掛ける。また、1994年の「L'Hiver de L'Amour」をはじめ世界各国の美術館で展覧会を企画。現在はフランス南西部の町サン・タントナン・ノーブル・ヴァルで娘と暮らしながら、写真家としても活躍している。編著に『Les Chroniques Purple』(VACANT、2014年)、著書に『エレンの日記』(林央子訳 アダチプレス 2020年)。東京都写真美術館の「写真とファッション」展では新作スライドショー《Ici-Bas》を発表。

INFORMATION

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