土曜日の朝、写真家・森栄喜さんのTwitterから冬の展覧会のお知らせ『小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家 Vol.5』展の案内を見つけた。場所は東京都写真美術館。12月1日から。森栄喜、ミヤギフトシ、細倉真弓、河井智子、石野郁和。楽しみだな。スクロールしていくと、雑誌の連載のお仕事が紹介されていた。都内の街角で会った男子高校生の肖像「標榜/東京」(『Quick Japan』)や、もうすぐ7年目という「tokyo boy cam」(『ViVi』)。
夏もまだ来てないのに冬の展示のお知らせ。東京都写真美術館「小さいながらもたしかなこと(仮称)日本の新進作家」展に参加します。近作と新作とパフォーマンスも。同じく12月にKEN NAKAHASHIで新作の個展も。両方ぜひ。 pic.twitter.com/pA38VpC3Kh
— 森 栄喜 (@eikimori_ev) 2018年6月14日
連載の紹介を。雑誌Quick Japanでの連載『標榜/東京』都内の街角で出会った今日の男子高校生達の肖像。「あだ名は?」「投票に行く?」「10年後は何をしていると思う?」など8つの質問とともに。80年代、写真家・橋口譲二さんの日本全国で17歳を撮影した『17歳の地図』に心からの敬意を込めて。 pic.twitter.com/hKnSfNwA8U
— 森 栄喜 (@eikimori_ev) 2018年5月30日
連載の紹介を。雑誌ViViで、もうすぐ7年目に突入する連載「tokyo boy cam」毎回短い撮影時間ですが、素足、素肌、一瞬だけこぼれる素顔を、距離感10cmぐらいの感覚で、静かに、猛烈に撮影しています。写真はちょうど1年前の杉野遥亮さんの回。毎月23日発売です。ぜひ。 pic.twitter.com/OKANC2Q1EN
— 森 栄喜 (@eikimori_ev) 2018年5月21日
アーティストとしての写真作品のほうを知っていた森さんなので、連載のお仕事をこうしてお知らせしてもらえてうれしかった。時折お目にかかることのある森さんは、感情ゆたかな素敵なかたで、その波がチャプチャプはずんで振れるようすも、とても自然にこちらがわまで届けてくれるような人。日本にいると感情をあまり出さない人が多いなかで、こういう人を見ているとすごくうれしくなるし、ほっとするところもある。
Twitterで森さんもふれていたけれど、仕事の撮影となると数々の制約が当たり前のようにあることが想像される。そのなかで森さんや編集のスタッフなど現場にいる人が一生懸命つくっている写真連載なんだろうな、ということも伝わってきた。雑誌の仕事をしているとき、この、まだ会ったことのない読者のためにチームのみんなが一生懸命になっている感覚、というものが私は好きだ。一生懸命読者のことを想像するけれど、仕組みとしては、つくり手が読者に会うことはない、という構造も、なんだかロマンチックで。
そんなことを考えたり、森さんの雰囲気なども思い出したりしていたら、土曜日の夜にはTwitterでまた別の写真に出会った。『WWD JAPAN』のインタビューで、日本人初『LVMHプライズ』を受賞した井野将之さんの記事を読み、そこから彼のデザインするブランド「ダブレット」のシーズンビジュアルを眺めた。ちょっとヤンキーな、あるいはパンキッシュな匂いもあるストリートクローズ。東京の路上、まさにストリートでモデルたちを撮影している躍動感ある写真は、誰が撮ったものなんだろうと気になった。
写真に詳しい知人に聞いてみたら即座に、松岡一哲さんのサイトをおくってくれた。なるほど。服部みれいさんのmm booksから奥様を被写体にした写真集『マリイ』を出されたばかりの松岡さん。連休明けに森岡書店のトークを聞きに行ったけれど、その松岡さんが撮っていたものだと知る。この写真もすごく良いなと思ったのは、撮る人が全力を注いで、撮った写真を観る人に届けようとしているその感じ。
森栄喜さんの連載といい、松岡一哲さんのファッション写真といい、作品集も出している写真家が全力を注いでいて、雑誌のためだったり見知らぬ読者のため、そのブランドのファンのために、今いる東京や日本という場で、写真というものによってイメージをつくっている、というところがなんだか気持がよくてすっとした。かっこいいイメージがあれば、今ここでちょっとつらいことがあってもなんとなく、人生に希望がもてるというものだから。
それは当たり前なのかもしれないけれど、その当たり前が本当に、きっちりと人に届く感じでセンスよくなされていることって、そんなに起こるわけでもない。撮影の現場はなかなか水もので、天気や光やモデルのコンディションなど、それはいろんな条件によってどんなふうにもころんでいくものだからだ。
そんなことをつらつら考えるうちに、この「見知らぬ誰かにつかえてる感じ」は、いろんな人に、貴重で良い仕事をさせてくれるポイントなんじゃないだろうかと思えてきた。もちろん自分も、そういうことをやっていきたい。
この春から、私が興味のあるアーティストに会いに行って話を聞いて、そこから書きまとめていく『つくる理由』という本を書こうとしている(※)。今も並行して何人かの作家のインタビューをさせていただいている。数年前までベルリンに住んでいて、帰国した今は国内外の多数の展覧会に参加している田村友一郎さんというアーティストに先日、話を聞きに行った。
田村さんは大学をでたあと『暮しの手帖』に社員カメラマンとして所属していた時期があった。その後映像を学び、映像や写真をインスタレーションに統合した作品をつくっている。田村さんの作品が好きなのは、観客に語りかけてくる要素がとても多いから。勝手に「デートコース作品」と名付けている。もちろん現代アートらしく難解な要素もはらんでいるけれど、観客を放っておかない感じというか、色々なレベルで語りかけようとしているところが面白い。
「僕は会社員をしていた時期があったので、週末に美術館に行って、そこで体験したものから活力を得て、また月曜日から頑張ろうというふうに、人になにかをもってかえってもらいたいと思っています」(田村友一郎)
森栄喜さんや松岡一哲さんが写真というイメージを人に届けようとする真摯さと、週末の美術館に足を運ぶ観客を想像しながら作品をつくる田村友一郎さんの姿勢には、なにか共通するものがある気がしている。そんなアーティストの活動を尊敬するし、そのようにして世界をつくっていく彼らの魅力の一端を届ける記事を自分も書いていきたい、と思っています。
※DU BOOKSより出版予定。