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気づけば運命だった。きくちゆみこが振り返る、人生の波とその先

気づけば運命だった。きくちゆみこが振り返る、人生の波とその先

運命を感じるのは、いつも過去になってから

2019年1月 特集:ハロー、運命
インタビュー・テキスト:飯嶋藍子 撮影:小島直子 編集:竹中万季
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人生の喜びとか悲しみ、つまり感情に良し悪しって本当はないのかなって。

もしつらい状況にあっても、いまが光のほうへとつながっていると思えたら、それだけで少し希望になります。きくちさんはそんな状況にあるときの感情にこそ、人間らしい、意味がある感情なのではないかと話します。

きくち:人生の喜びとか悲しみ、つまり感情に良し悪しって本当はないのかなって。「なんで生きているんだろ」って考えて生きていた私が、私なりに出した答えは、「みんな感情を感じるために生きているんだ」っていうこと。魂があるとしたら、きっと魂だけのほうが楽だと思うんです。でも、なんでわざわざ体というひとつの場所に魂が縛りつけられているのか考えたときに、たぶんこの形式がないと「私」としての感情を感じられないからで、いまの体といまの魂がセットになっている私として誰かに接することによって感情が生まれているからじゃないかなって。

デカルトは「考える故に我あり」って言ったけど、私は「感じる故に我あり」だと思う。感情っていうのは本当に私だけのもの。もちろんそれが誰かの共感を呼ぶだけではなく、悲しみを与えることもあるかもしれないけど、感情があるっていうのが一番生きている証なんだと思います。そう考えると、過去のすごくつらいことも、その感情を感じるために私はそこにいたんだろうなって思える。でも、やっぱりその瞬間はしんどいから、私はそれを書くことによってうまく解消していたのかもしれないです。

そんなきくちさんの「この道には銀の車しか走らない この世界には金色の人しかいない 最後には軌跡も見えなくなって ただ空気にきらきらが散っていくだけ」という言葉が刺繍された、「いっときでもじゅうぶん、一生ぶんになるストール」。きくちさんはどんな気持ちでこの言葉を書いたのでしょうか。

きくち:いつもひとつのキーワードがぱっと浮かんできて、そこから言葉を書いていくんです。この文は、タクシーを見ていて最初に「銀の車」っていうのが思いつきました。夜に街を歩いていて、空車のタクシーが続いていて、こんなにたくさんの人を受け入れてくれる車がいる、すごいなって思って。なんだかすごく自分が迎えに来てもらえた気がしたんです。東京に住んでいて、いろんな色や形の車にいっぱい囲まれているけど、もともとのボディは全部銀色だということが透けて見える気がして、それがすごく美しい光景として見えたんです。

普段あくせく過ごしていると気づけないんだけど、それがすごく、自分にとって、物事の本質を見るときの気持ちになれた瞬間だった。「この世界には金色の人しかいない」っていうのも、みんな体には違いがあるんだけど、心はきっと金色なんだろうなって。どんなに悪い人がいても、この人も金色なんだよなって思うと、私はすごく楽になる。本当にみんなただこの瞬間に生きていることが金色だって思うんです。

布と同じ色で施された刺繍

「なにかが100%ってすごく力がある気がして(笑)」とコットン100%にこだわったこと、そしてピンク、緑、赤という3色を選んだ理由も教えてくれました。

きくち:手触りがいいですよね。子どものことも思って、素材を選びました。あと、シワになってほしかった。洗った時にバサバサになっていく感じが好きなんです。一回洗ってから使ってもらうといいかもしれません。

色は、オンがシュタイナー教育の保育園に通っているんだけど、シュタイナー教育の人たちって薄いピンクのものを身につけたり、壁を薄いピンクにしていたりするんです。ピンクって命の色なんだって。だから最初に、くすんだ薄いピンクがいいなと思いました。緑は野原のイメージ。だんだん暖かくなっていく季節にいいなって。赤は劇的な感じ。運命っていったら赤だなと思ってこの色にしました。

布と同じ色で施された刺繍

「布って一枚あるだけで本当に心強いと思うんです」ときくちさん。オンちゃんの園にも布がたくさん置いてあって、子どもたちがそれで遊んでいるそうです。

きくち:子どもたちが布で遊んでいるのを見て、このストールでも遊んでほしいなと思いました。頭に巻くのって結構勇気がいるような気もするけど、帽子みたいな気持ちでやってみると楽しくて。あと、両端に結び目をつくって肩にかけると、結び目が重しのようになって崩れにくいし、かわいくていいですよ。いろいろ実験してみてほしいです。布のポテンシャルを感じてくれ! って思います(笑)。

布の端をねじっておでこの上で結ぶことでキュートなアクセントに「髪が短い人は布の中に髪をしまうスタイルもおすすめ」

両端を結んで重しのようにして肩にかけるスタイル。きくちさんはピンクのパンツと合わせてコーディネート

ファンタジックなことを忘れないでほしいです。

ここまで自分の運命を振り返りながらお話ししてくれたきくちさん。最後に、どうやったら幸せな運命をつかめるのか伺いました。

きくち:幸せって瞬間瞬間の喜びやおもしろさだと思うんです。ずっと幸せっていうのはきっとなくて。最近カーソン・マッカラーズの『結婚式のメンバー』を読み返したんですけど、彼女が求めているものってまさに一瞬を一生分にしたいっていうことなんだと思って。フランキーっていう登場人物がある夏、街を歩いていろんな人たちに話しかけるんだけど、その人たちと目と目が合った瞬間に、「説明のつかないコネクションが生まれる、自分は相手のことを心から好きになることができた気がする」みたいなことが書いてあるんです。名前も知らないままなのに。

思い込みでもそういうことを思っていられるような精神状態って、もしかしたらすごく脆いかもしれないし、誰かの一言で台無しになって絶望を感じることもあるかもしれない。でも、自分のなかでそういう空想を持てる心の余裕というか、世界中の人と仲良くなれるんじゃないか、全然知らない隣の人に話しかけてもいいんじゃないかって思えるような心のありようを持っていると、どんなシチュエーションになったとしても、それ以上のことを感じられるようになっていくんじゃないかなって思います。そういうファンタジックなことを忘れないでほしいです。

インタビューの中であがった話に関連する本たち。左上から時計回りに3冊は量子物理学にまつわる本。『遊 1007号(特集:量子流+夢仮説)』、『エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する(著:ブライアン・グリーン)』、『タオ自然学―現代物理学の先端から「東洋の世紀」がはじまる(F・カプラ)』。その次は最近読み返したという『結婚式のメンバー(カーソン・マッカラーズ)』、左下はシュタイナー教育で取り入れられているという『色彩論(ゲーテ)』。

人生のなかで「なんでこんな運命なんだろう」と悲観してしまうこともたくさんあると思います。そんなときこそ、少しでも空想が持てるようになれば、運命というレールがゆるやかに方向を変え、見える景色が美しく変わっていくのかもしれません。

きくちさんの言葉を心に灯して、運命に身を委ねてみてください。怖がらないで大丈夫。きっとその先には鮮やかな感情が光る、あなただけの道が拓かれているはずです。

後編「きくちゆみこが考える、運命をすこし動かすコミュニケーション」 ※She is Members限定記事

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PROFILE

きくちゆみこ
きくちゆみこ

言葉を使った作品制作・展示をしたり、時おり翻訳もします。
「嘘つきたちのための」小さな文芸誌 (unintended.) L I A R S 発行人。

「わたし、現実なんていらない。わたしが欲しいのは魔法なの! そう、魔法よ。わたしがみんなにあげようとしてるのは魔法なのよ。わたしは物事をねじ曲げて伝えるわ。真実なんて語らない。わたしが語りたいのはね、真実であるべきことなのよ!」(テネシー・ウィリアムズ 『欲望という名の電車』)が座右の銘。

INFORMATION

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新作ZINE『SMILE, WHEN OUR EYES MEET 目が合ったのなら、微笑んで欲しいよ』発売中。3月に銀座で開催される『Tokyo Art Book Fair Ginza Edition』にも友人たちと参加予定。

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