夢のなかでの恋は、じつは自分が操作している?
吉澤:夢に出てきた人を「私、この人のこと好きなのかな?」とか思ったりすることがあって。これは本当に気持ちがある場合もあるし、なにか別の理由もあるってことですか?
松田:そうですね。夢の引き出しにはサブリミナルの情報もたくさんあるので、なにかがトリガーになって本人の記憶が引き出された可能性も、あるいは似ている人として引き出されている可能性もありますね。たとえば、テレビで見かけた芸能人のなかのひとりがトリガーになって、似ている人が引き出されることもあります。そこで「好きかも」って思うのは、本当に好きな場合ももちろんあると思うんですけど、夢では様々な要素がミックスされているので、本当に好きかどうかっていうのはわからないですよね。
吉澤:そっかあ、わからないんですね。じゃあ夢に出てきた知らない人って、これから出会う誰かや、どこかですれ違った誰かということではなく、完全なオリジナルは存在しないということなんでしょうか?
松田:ないかどうかを証明するのが難しいんですよね。たとえば吉澤さんが見ている夢をそのまま映像化できれば、第三者が客観的にその情報を分析することができるんだけど。いま工学系の人たちが、夢を映像化できないかっていう試みをしていて。たとえば、夢に出てくる特定の人をイメージしたときの脳波を測っておけば、睡眠中の脳波に同じパターンが出てきたときにその人が出てきたのがわかるので、脳波を用いて夢を解析していこうとしているんです。
吉澤:すごい。映像化されたら検証もできますね。私、夢のなかで恋をした人に名前を聞いてみたら、「アカサタシワラクタです」って教えてくれて。いままで夢で恋をしてきた人物がじつは全部アカサタさんで、姿を変えて登場しているんじゃないかと思っているんです。そう考えると「この人こそ私の運命の人なんじゃないか」と感じて。
松田:おもしろい! それって小説や漫画のなかに出てきた人に憧れるっていうのと似ている感じですか?
吉澤:そうですね。生きている世界が別なので、ぜったいに結ばれないですけど……。でも、夢の世界で自分を待っている人がいて、自分もその人を待っていると思うと、夢のなかでの関係性って成立するのではと思ったんです。
松田:夢の中の世界を生きているんですね。現実には、欠けているところだらけなのが人間なので、お付き合いすればそれぞれの悪いところも見えてきますよね。だから、夢の中ではぜったいに拒否されない安心感があるのかな。夢では自分が自由に操作できますからね。
吉澤:私が操作しているんですか?
松田:うん、アカサタさんが好きだって言ってるのではなく、吉澤さん自身が、アカサタさんが自分のことを好きだという状態をつくっているのかと。
吉澤:えっ!(笑)
松田:(笑)。でも、そういう夢や想像上の関係性が作品に活きるんじゃないですか?
吉澤:そうですね。私は夢の世界と現実の世界、どちらが主軸ともいえないと思っていて。いま生きているうえでは現実世界はもちろん重要なんですけど、夢のなかで現実を大切に思ったことはない。いま自分の意識がある場所によって重要度が変わるとしたら、夢か現実、どちらが大切とは言えないんじゃないかって。だから、夢の世界もひとつの真実なんじゃないかと思っています。
悪夢も美しい夢も見続けるか、すべて忘れるか、どちらがいい?
—良い夢を見続けることができれば、夢の世界が現実にもきっと良い影響を与えてくれますよね。
松田:なぜこういう夢を見たかというトリガーは現実の世界にあるから、良い夢を見ることができれば、現実でも「あのことがあったからこんな夢を見れたのかな」とファンタジックに夢を楽しむことができますよね。逆に、現実の生活に支障をきたすほどの悪夢を見る人はその根源を絶っていく必要がある。吉澤さんは悪夢を見るけどそれを楽しんでいるんですよね? たとえば、大切な夢もぜんぶ思い出せなくなるけど悪夢も見なくてよくなるなら、吉澤さんはどうします?
吉澤:うーん、どっちがいいんだろう。悪夢のあいだに見る美しい夢がすごく大切なものになって、音楽に昇華するということはあって……難しいですね。夢によって人生が左右されてきたので、それがなかったらいまこの仕事をしていないと思うんです。でも、それを手放してもいいと思うくらい悪夢もすごくつらいんですけど……。
松田:一般的に、悪夢を見なくて済むなら夢は見なくていいっていう人のほうが多いんですよ。でも、吉澤さんも悪夢は見たくないと思うんだけど、それを失うとインスパイアされることもなくなってしまう。よく、悪夢を見ると悪いことが起こる予兆なのではないかと思ってしまいますよね。それは違うんですよ。
—つい不安な夢を見ると、夢占いで出てきたシンボルを調べてしまうこともありますが……。
松田:夢占いでは「これが出てくるとこういう意味」というように、シンボル自体に意味づけされていますよね。でも、シンボルに対する捉え方は人それぞれ。そのシンボルがその人にとっていいものなのか、悪いものなのか、どういった意味を持つかがわからないと、分析できないんです。