夢はトラブルやストレスにより良く対処するためのシミュレーション
—夢占いは参考にならなかったとしても、悪夢を見ると悪いことが起こると怯えてしまう人もきっと多いですよね。
松田:そうですよね。でも、悪夢って、自分が抱く将来への不安を再現しているだけで、実際に悪いことが起きることを予兆しているのではないんです。だけど、悪夢を見たことですごく消極的に行動してしまったり自信をなくしてしまうならば、現実に悪影響を与えてしまう。悪夢を見なくするためには、夢は何かを暗示するミステリアスなものではなく、つまらないものだと認識することが最初のプロセスなんです。
たとえば私は、夢を見ると「あれとあれがミックスされてこういう夢になったのね」っていうことが瞬時にわかります。それはそれでおもしろいんだけど、そこに神秘性やクリエイティビティはないんです。悪夢を見なくなることで、現実世界もポジティブになれば、夢もどんどん良くなっていく。良い夢を見られるようになると、最終的には夢を思い出さなくなります。
吉澤:夢を思い出さなくなっちゃうんですか?
松田:そうなんですよ。だから、吉澤さんはそれは困るんじゃないかなと思って。不安な夢や悪夢もあるけれど、だからこそのクリエイティビティというか。吉澤さんは夢の記憶を大事に感じているわけですし、無理に消す必要はないと思います。
—夢がどんどん良くなっていったら思い出さなくなるものなのに、なぜそもそも私たちは夢を見るのですか?
松田:記憶の再処理です。次にやってくるトラブルやストレスにより良く対処するためのシミュレーションであったりもします。なので、懸案事項があればあるほど、そのことに関する夢を見やすくなるんです。たとえば、裁判を抱えている人がいるとしましょう。裁判ってものすごくストレスフルですから、裁判に関する夢ばかりを見る。
でも、現実に裁判が終わったかどうかは別として、自分のなかで裁判に対して一定の結論が出て納得がいったら、ぱたっとその夢は見なくなります。だから、吉澤さんもこのテーマは最近見ないなって夢がある場合には、そのテーマに決着がついているということなんです。
吉澤:たしかに、友達と喧嘩するとか、仲間はずれにされるとか、小学生の時期の夢を大人になってからも見ていたんですけど、自分のなかで少女時代がフリーズドライされたなって感じた時期からあんまり見なくなりましたね。
松田:「フリーズドライ」っておもしろい言い方ですね。完全になくなったというわけじゃなくて、たしかに事実としてはあるけれど解決したってことですよね。すごくつらかったけれど、もはやそれはいまの自分を脅かすものではないとわかったときに、フリーズドライされる。そうするとそのことに関しては思い出さなくなりますよね。
悪夢を見る方はトラウマがフリーズドライされず、生のままフリーズしちゃっている感じなんです。だから、実際にあったのは何年も前のことなのに夢にも生々しく出てきたり、起きているときもフラッシュバックしてしまう。だから吉澤さんのように、自分のなかで整理されて、フリーズドライしてどこかに保存されているっていうのはすごく健康的ですね。
考え方がポジティブになれば、現実の状態が良くなるよりも先に夢が変わっていく
—吉澤さんは、見てみたい夢ってありますか?
吉澤:いろいろな場所を飛んで、地球を回る夢を見たいです。きれいな景色を見てみたいですね。
松田:いいですねえ。空を飛ぶ夢っていうのは世界中の人が見る夢なんですが、気持ち良く飛べているっていうのがポイントです。じつは気持ち良く飛べていない場合もあるんですよ。以前、お会いした方が言っていた夢が印象的で。一生懸命空で自転車を漕いでいるんですけど、一瞬でも足を休めると落ちてしまうという夢だったんです。
それってすごく苦しいですよね。たしかにその方は、その夢の話をしてくれたあとに仕事があまりうまくいかなくなったようでした。夢は予兆はしないけれど、自分のそのときの状態や人生を自分でコントロールできているかの度合いは示してくれるので、飛ぶ夢だとわかりやすいかもしれません。
—つまり、見たい夢を見るためには、現実世界で良い状態で生きていることが大切ということですか?
松田:まさにそういうことです。でも、ごく一部、夢を見ていると自覚して夢を見ながら内容をコントロールできる人もいるんです。「明晰夢」というやつですね。吉澤さんのように夢を自覚できているのであれば、自分で筋書きを変えてしまうのもひとつの手です。
吉澤:夢だってわかってはいるのですが、なかなかコントロールがうまくいかないんですよね。
松田:なるほど。夢を自覚できればコントロールできる可能性が高まりはするのですが、できない人がほとんどなんです。そういった場合は、起きたあとに夢の結末を書き換えるシミュレーションをするといいですよ。これはPTSDの治療でも使われています。
吉澤:すごい! 起きたあとでいいんですか?
松田:「イメージリハーサルセラピー」と呼ばれるもので、精神科医も臨床心理士も使っている方法です。夢っていうのは現実をどう捉えているかを示していて、現実に対する自分の考え方や捉え方がポジティブになれば、現実の状態が良くなるよりも先に夢がポジティブに変わるんです。
夢のなかで助けてくれる人がいたり、自分で問題を解決できたらいちばんいいけれど、これができなくても、起きたあとに最後の筋書きを変えるシミュレーションをするだけで、夢がポジティブに変わり、現実の考え方も前向きになっていくと思います。
夢の中で、これは夢だと気付いて「3.2.1ワープ」と唱えて目を閉じると自由自在に次の夢へ移ることができる。畳と箪笥だらけの部屋から、学校の音楽室へ。楽しくなって次々ワープしていると、能力を使い果して行き着いた先の夢の場面から出られなくなってしまう。 #いつかの夢日記
— えんがわ (@engawakko_) 2019年1月31日
「#いつかの夢日記」で投稿してくれた、夢だと気づき、夢をコントロールしながらワープするえんがわさん。
辛いことがたくさんあって泣きながら歩いているとやさしいおばちゃんがやっている1日1人限定の銭湯に出会った
夢の中ではわたしは何度か利用している設定でおばちゃんは「あら、また来たの?いらっしゃい」って優しく出迎えてくれていっぱい優しくしてくれてご飯も食べさせてくれた#いつかの夢日記— あさ (@irotih2014) 2019年1月31日
夢のなかで助けてくれる人が出てきて、明晰夢のような感じがあると松田先生が挙げたあささんの夢。
夢は心のなかの動きと連動している
吉澤:起きたあとに書き換えてもいいんだったらすぐに実践できそうですね。
松田:できそうでしょう? でも、もしシミュレーションさえ浮かばない場合は、信頼できる家族や友達に話して、どういうふうに結末を変えてみるか案をたくさん出してもらう。そして、そのなかから自分がしっくりくるものを選ぶといいですよ。
吉澤さんは夢日記と現実世界での感情日記を書かれているから、それを対比してみたらいんじゃないかな。気分が良くなるときは夢のほうが先に良くなっていて、気分が悪くなるときは夢が先に悪くなっていると思います。
吉澤:いままでたくさん書いてきているんですけど、まったく別世界の日記として捉えていたので、対比をしたことがありませんでした。
松田:ふたつ世界があって、どちらも大事っておっしゃっていましたもんね。でも、どちらもひとりの自分が持つ世界だから、ものすごく連動しているんですよ。
吉澤:対比してみます。しんどくてどうしようもないときに、すごく救われる夢を見ることがあるんですけど、それは夢が先回りしていて、現実世界のなにかも解決に向かっているということなんでしょうか?
松田:そうですね。先に夢のなかでシミュレーションしているんだと思います。さっきの裁判の話もそうですね。現実には状況が変わっていなくても、自分のなかで決着がつけば、もうその夢は見なくなります。
吉澤:本当に心のなかと連動しているんですね。現実というよりも心のなか。
松田:うん、だから吉澤さんも日記をぜったい対比してみてほしいです。夢と現実は別々じゃないんですよ。その相互交流を見てみるといいと思います。
吉澤:おもしろい。新しい研究が始まりそうです(笑)。