夢からインスパイアされた楽曲をつくったり、夢に出てくる人に恋をしたり、夢の世界を大切にしているシンガーソングライターの吉澤嘉代子さん。
She isでは、忙しい毎日を過ごす女性たちに自分自身を見つめ直す時間として「香りにつつまれる心地よい眠り」を届けたい、という思いから生まれた柔軟剤アロマリッチのキャンペーン「SLEEP WITH MY AROMA」と連動し、ハッシュタグ「#いつかの夢日記」でみなさんがこれまで見てきたとっておきの夢を吉澤嘉代子さんと一緒に募集しました。
前編では「#いつかの夢日記」から吉澤さんに気になった夢を選んでいただきながら、ご自身の夢の世界と現実の世界のありかたを語っていただきましたが、後編では大学時代からずっと夢の研究をしている、東洋大学社会学部社会心理学科教授の松田英子先生をお招きして、吉澤さんからの夢にまつわる疑問に答えていただきました。
悪夢を見る理由や、夢のなかに出てくる人の意味、夢と現実の意外な関係性、香りを用いてできる良い夢を見るための方法など、夢にまつわる知られざる知識についてたっぷりお伺いしました。
職業や性格で変化する、夢の見え方
—そもそも夢というのは、誰もが見るものなのでしょうか?
松田:人間は一晩に3~5つの夢を見ているんです。でも覚えていないんですよね。だいたい起きる直前に見た夢が思い出せるか出せないか。じつはそこにすごく個人差があるんです。
吉澤:私、夢がいくつかにわかれていることを認識していて。ぱっと起きたときに、直前に見ていた夢だけではなく、その前の夢も覚えていたりします。
—なぜ夢を覚えていたり、忘れていたりと差があるんでしょう?
松田:私も夢を覚えていやすい人とそうでない人の差がなぜ生まれるのかに興味があって研究を始めたんです。最初に目をつけたのは、その人の性格。心配性で神経質な人ほどよく夢を覚えていることがわかりました。職種でも差があって、クリエイティブな仕事に携わっている人は夢をよく覚えている人が多いですね。吉澤さんのように夢を作品に生かしている人も多いです。
吉澤:そうだったんですね。私は悪夢を見ることも多くって。
松田:締め切りに追われている職業の人は、悪夢だったり、圧迫された夢を見る人が多いです。調査をしてみると、職種によって夢の形式が違っていておもしろくて。たとえば新聞記者の人は、どこでなにがあってこういう行動をした、みたいな、まるで新聞記事のような形式の夢を見たりする。以前話を聞いた、クイズ番組のプロデューサーの方の夢は、やっぱり夢の中でもクイズ番組に出演して「はい消えたー!」と言っていたりもして。
吉澤:ええ! 夢のなかでもクイズが出されるんですね。それはつらい(笑)。
松田:ねえ(笑)。その人のパーソナリティや関心ごとが夢の内容や覚えているかどうかに影響するということはわかったけれど、もっと具体的に夢を覚えている確率を説明できる変数はなにか考えたときに、ストレスの負荷がかかっているときほど夢を覚えていやすいということがわかりました。
寝ているときも眼球は動いている? ストレスと、眼球の動き、夢の関係性
—だから締め切りに追われている人や、ベストを追い続けながらも完璧がない世界に生きるクリエイターの人たちは、ストレスの負荷が高いから夢を覚えているわけですね。
松田:そうですね。でも、普通の睡眠ではこんなに差があるのに、睡眠実験で夢を見ているタイミングを見計らってその人のことを起こすと、普段夢をよく覚えているかどうかにかかわらず、ほぼ100パーセントに近い確率で夢の内容を報告するんです。そこで、夢を見ているときの急速眼球運動に着目したところ、あまり夢を覚えていない人は眼球があまり動いておらず、覚えている人は眼球がたくさん動いているんですよ。
吉澤:寝ている間も眼球が動いているんだ。
松田:しかも眼球の動きの頻度が多いときほど、不安な夢や悪夢を見ている。ストレスの負荷と、眼球の動き、夢は密接に繋がっているんです。私は臨床心理士でもあるので、悪夢を見ないようにするための研究もしていて、悪夢と不眠に悩む患者さんに対して、薬に頼らない心理療法を研究しています。
吉澤:私もだいたい悪夢が多いし、寝てからずっと夢を見続けている感覚があるので、寝ても疲れがとれている感じがしないんです。
松田:睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の二種類があって、ストーリー性のある夢を見るレム睡眠は、身体はしっかり休めていますが、脳は比較的高い活動レベルにあります。ノンレム睡眠は、深い眠りから浅い眠りまで4段階あってそれぞれ違いがあるのですが、比較的脳をしっかり休めています。睡眠全体の割合でいうと、通常はノンレム睡眠が7~8割くらいを占めますね。吉澤さんは夢を見続けていて、レム睡眠がすごく多いってことだから、あまり脳が休まっていないのかもしれないです。
吉澤:たしかにそうかもしれないです。
記憶の棚に保存された情報が、現実世界のトリガーによって引っ張り出されて夢になる
—吉澤さんの夢には知らない人が出てきたり、昔飼っていた犬が頻繁に登場するそうなんですが、夢に出てくる映像はどこから引き出されているものなんでしょう?
松田:DVDのレンタルショップや図書館を想像してください。私たちが生まれてから体験して蓄積された記憶が、ある程度カテゴリ分けされて記憶の棚に入れられているんです。ロマンス、コメディ、アクションみたいな感じで、中学時代、高校時代、仲の良い友達、会社とかね。たとえば、バンドをやっていた人にはバンドや音楽のコーナーがあるだろうし、どういうカテゴリがあるのかは人によって違うんです。しかもそこにストックされているのは、意識して思い出せるものだけではなく、サブリミナル(閾下知覚)の記憶もすべて残っているんです。
—普段意識していない記憶も夢に出てくる可能性があるということですか?
松田:そうです。今日の夢はどの棚から記憶を引っ張り出そうかなっていう、トリガーが現実の世界にあるんです。たとえば、今日私は吉澤さんにお会いしましたよね。そうすると、たとえばいままで出会ってきた「吉」という字がつく名前の人が引っ張り出されやすくなる。
吉澤:名前の一部などもトリガーになるんですね!
松田:実際に行ったところや、見たり聞いたり触れたりして思い出した記憶などがトリガーになって関連する記憶が出てきたり、そこからさらに別の記憶が連想されたりミックスされたりして、夢がつくられていきます。
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