ロックは私の背中を押してくれた存在だから、ほかの誰もやらなくなったとしても、自分が発信し続けようと思っているんです。(松尾)
ー植物を通じて生活が豊かになるということを小川さんが心から信じているように、Iwayaさんと松尾さんもそれぞれにご自身が選択した仕事への信頼を寄せつつ、新しいものをつくっていこうとされているように思えるのですが、いまご自身が携わっている仕事について、なぜそのような信頼を寄せられているのかを伺ってみたくて。
Iwaya:GLIMさんのライブって本当にすごいんですよ。毎回驚く仕掛けがあって。あとレミさんがMCでいつも泣かせてくるんです。
松尾:ええー(笑)。
Iwaya:自分の中でちょっと揺らいでいた部分について「信じていいんだよ」って後押ししてくれるような言葉が必ずあって。不安になることって誰もがあると思うんですけど、心が揺れたり芯がぶれつつあるときに、そういう言葉をもらえるとすごく心強いなと思います。音楽であったり、植物であったり、励みになるものが何であっても、信じているものを分け与えてもらえると力になりますよね。
松尾:ありがたいです。もともとバンドを始めたきっかけが、「総合芸術ができる」と思ったからなんです。音楽をはじめる前は絵を描いていて、絵画の道に進もうとしていたんですけど、ロックの洗礼を受けてしまい(笑)。だけど進路を選択するタイミングで、音楽以外にもとにかくものをつくることが大好きだったから、何かを捨てるのが嫌で。でもバンドだったら、自分で歌って、曲をつくって、アートワークもやって、衣装を選んで、空間もつくれる。すべてを飲み込んだ表現をロックでやることを、人生の目標として見出したんです。
私が特に好きなのは1960年代後半から70年代前半のロックなんですけど、その時代って、アートやファッションや文学や映画が、すべてロックに取り込まれていて。だからロックって、いろんなものを全部ひっくるめて表現するカルチャーなんだっていう感覚も昔からありました。いま、音楽シーン全体を見たときに、ロックって「ひと昔前のちょっと古いもの」みたいな存在になっていますけど、自分のこれまでを振り返ったときに、ロックは私の背中を押してくれた存在だから、ほかの誰もやらなくなったとしても、自分が発信し続けようと思っているんです。
小川:とても共感しました。僕はこの仕事をはじめる前、インテリアの仕事をしていて、父親の仕事を継ぐつもりはなかったんです。でも、植物をお部屋に取り入れることは、インテリアの仕事と同じように、人間が生きる空間を豊かにするという意味でリンクする部分があると思うようになって、この仕事を始めて。なんていうか、いいことがしたいんですよね(笑)。お気に入りのカップや、机を買うように、お部屋を飾るための道具の一つとして、植物を最後に添えることの手助けをしたいんです。
だから、僕の活動は植物だけがあっても成り立たないですし、何か他のものと組み合わせて表現したいという思いはすごくあります。僕は植物屋ですけど、シルクスクリーンで絵をつくったりもしていて。それはやっぱりやめられないって自分も思っているので、全部やりたいという気持ちもすごくよくわかります。
小川さんは観葉植物を用いた空間の提案も行っている。画像は神宮前にある「Sometimes Store」
植物も音楽もタトゥーも生活にとって必需品じゃないと言ってしまえばそうかもしれないけど、そういうものこそが生活を豊かにするものなんだって。(小川)
ー植物もインテリアもアートも、生活を豊かにするものという意味で共通していますよね。
小川:今日も植物に水やりをしたんですけど、好きな音楽を聴きながら、ホースでお水をあげてぼけーっとする時間って豊かですよね。いま、こんな状況だけど、そういうことが誰かの家でも起きればいいなって思っているんです。僕が販売している植物は食べられないものだし、音楽もタトゥーも生活にとって必需品じゃないと言ってしまえばそうかもしれないけど、そういうものこそが生活を豊かにするものなんだって信じて松尾さんもKahoちゃんもやっているんだと思います。
松尾:そうですね。植物やタトゥーと同じように、ロックは身の回りにあるだけで、生活を彩ってくれる部分があると感じていて。レコードマニアの家庭で育ったので、休日になると父親がレコードプレーヤーとソファを庭に出して、そこでコーヒーやジュースを飲みながら、レコードを聴くんです。そのときの「今日はいい日になりそう」っていう感覚って、音楽によって彩られていたものだと思っています。
松尾さんが集めているレコード。
Iwaya:私は喜怒哀楽がすごく極端なタイプで、しんどいタイミングだとコントロールできないくらいすごく深いところまで落ちてしまうんです。だから、なにか励ましがないとやっていられないと感じる日も多くて。私は腕にタトゥーをいれているんですけど、すごくしんどい時期があったときに、いつ見てもそのタトゥーが自分の一番近くにあることが、支えになってくれて。しんどいタイミングでタトゥーが一緒にいてくれたという経験が、タトゥーシールをつくり続けている理由の一つなんです。
もう一つは、タトゥーシールをつくり続けているといろんな人に届くんですよね。「結婚式でつけました」とか「妊娠期間中に無事生まれてきてくれますようにという思いを込めてつけました」っていう連絡をもらうと、自分のつくったものが人のためになっているんだなと思えて。やっぱり、心のどこかでなにかいいことがしたいっていう気持ちがあって。私が励ましてほしかったとき、タトゥーがそばにあったように、誰かに励ましを届けられる嬉しさがあるから続けられてきたんです。
opnnerではタトゥーシールを送るときの封筒にも一枚ずつクレヨンで絵を描いている
ー「いいことがしたい」という言葉、先ほど小川さんもおっしゃられていましたが、お二人に共通する感覚なんですね。
Iwaya:あやかりました(笑)。あとは、私もやっぱりものづくりが大好きで、こつこつつくっていく中で、「こんなのもおもしろいかも」っていう、自分の可能性が広がる瞬間が特に好きなんですよね。それを誰かに届けたときに、使ってくださるだけで十分に嬉しいんですけど、「この人はまさかこういう形で使ってくれるんだ」っていう意外性もすごくおもしろい。人って本当にそれぞれなんだなっていう面白さを感じます。