ジェーン・スーに聞いた、年齢と女性と社会をめぐるモヤモヤのあれこれ

ジェーン・スーに聞いた、年齢と女性と社会をめぐるモヤモヤのあれこれ

思っていた未来と違ってもいい『これでもいいのだ』

インタビュー・テキスト:野村由芽 撮影:中里虎鉄
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年を重ねるにつれて、とにかく執着筋が衰えるんですよ。

ー「思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ」という言葉や、「私の私による私のためのオバさん宣言」というエッセイが本書にはありました。スーさんは、かつてどういう未来を思い描いていたのですか?

スー:子どもの頃は、それこそ30歳を過ぎたらもう全員オバサンで、20代のうちに結婚して子どもがいて、家も買って車があって……という親が通った道を踏襲するものだと思っていました。なので、40歳を過ぎたらもう子どもの手は離れて家庭も盤石! みたいな感じになっているかと思っていたんですけど、違いましたね。なんだこれは? っていう(笑)。

ースーさん自身も、昔はそうなるだろうなと思っていたし、そうなりたいと思っていたということですか?

スー:「普通」に生きていれば「普通」にそうなると思っていたんですけど、ならなくてびっくりしちゃった。あぁ、そういうのって努力が必要なんだって。

ーなにかに抵抗していまのようになったのではなく、自分のままで生きてきたらこうだったということですよね。言葉が適切かわからないのですが、「これでもいいのだ」という表現から感じられるニュアンスとして、いい意味での「開き直り」の姿勢で捉えていこうというメッセージもあるのかなと。

スー:それは年齢もあるんですけど、年を重ねるにつれて、とにかく執着筋が衰えるんですよ。

ー執着筋?

スー:ものごと全般に執着する筋力が、ものすごく落ちるんです。

ーそうなんですか? 何歳ぐらいから?

スー:個人的には42歳くらいですかね? 体力がガクッと落ちて、もうひと頑張りができなくなるんですけど、それと同時に、ずーっと悩んでいた「あいつが憎い」みたいな気持ちを持ち続けられなくなったりとか。執着する筋肉が衰えたことによって、これでもいいやってなるところもありますね。

ーまわりの友人から「年を重ねると楽になっていいよね」と言われたとして、わたしはもちろんそういう側面もあるなと思う一方で、生きていると自分の大切なものや守りたいものが増えていくのに、体力が落ちたり、病気になったり、結婚式よりお葬式に出席することが増えていったりする実感を経て、生きるにつれ増えていく大切なものをいずれ手放さなければならないことが恐ろしいという感情とどう向き合ったらいいかわかっていないんです。なので、スーさんがおっしゃっている「執着筋がなくなる」という感覚をうかがって、「そうなんだ……!」という驚きがあります。

スー:これからくると思いますよ。いろいろなことを覚えていられなくなったり、怒り続けていられなくなったり。30代のあのヤキモキは体力が有り余っていただけだということが、はっきりわかるようになる出来事もでてくるると思います。

ーそれはスーさん自身もそういう経験があったという?

スー:ありました。すごく葛藤もありましたけど。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎/2014年)みたいな本はもう書けないと思うんですよ。熱々の餡かけを人にぶっかけるような文章はもう書けない。

ー(笑)。

スー:ああいうことはもうできないと思います。

ーそれめちゃくちゃ火傷するやつですね(笑)。

スー:そうそう(笑)。

ナイーブという言葉には、「自分はされるがまま」であるという感覚があると思う。35歳くらいのときに、ナイーブであることを意識的にやめたんです。

ーでも、スーさんの「開き直る」という感覚は、これでなにもかも人生あがった、悩みもなにもない、という感覚ではないですよね。

スー:ないです、ないです。それは全然別の話ですね。

ー40代以降になって生まれた、新しく生まれた喜びや苦しみみたいなものってなんでしょう?

スー:現実的になると、親の介護や自分の老後、病気、保険、貯蓄みたいなそういう、めちゃめちゃストリートな話になってきます(笑)。

ーそれ、ストリートっていうんですね(笑)。

スー:現実ですね(笑)。夢と希望みたいなところからは離れて、もう少しストリートワイズな話になってきますね。

ー以前、スーさんが能町さんと対談されていた際に(能町みね子とジェーン・スーが語る「結婚と恋愛は切り離して考える」)、たしか自分は年齢的に折り返しというか、それこそもうなんでもできるわけじゃないと気づいたというようなお話が挙がっていたと記憶していて。

個人的にも、自分ができることが減っていくとか、たとえばなにかを申し込むとき年齢のプルダウンを選ぶのに自分の年齢が初期設定よりも上に設定されていたりとか(笑)、長く続いていた番組やグループの活動が終わるとか、見てきたものが時代の後ろのほうに通り過ぎていくような、自分の道が終わりに向かっていく感覚みたいなものが寂しかったり怖かったりして、どう受け止めたらいいかまだわからないんです。すみません、かなり個人的なことなのですが……。

スー:ナイーブという言葉には、「自分はされるがまま」であるという感覚があると思う。私は35歳くらいのときに、ナイーブであることを意識的にやめたんです。自分が変わること、世の中が変わることに郷愁を感じ過ぎるとか、そういうことはもうやめましたね。

ーそれはなにかきっかけがあったんですか?

スー:おそらく実家がひっくり返ったっていうのが一番大きくて、ナイーブになっている場合じゃねえ! みたいなのがあったんですけど。あとは、「パッシブ・アグレッシブ」(受動的攻撃性。本人が感じている「怒り」「不平不満」などの否定的な感情を相手にぶつけず、消極的かつ否定的な態度や行動を取ることで、相手を攻撃しようとする心理)でいることで損することって、想像よりずっと多かったから。体感としてわかってきました。私にもパッシブ・アグレッシブな時代がそこそこあったので。

女の人は、受動と能動で言ったら、いまだに受動の側にいるほうが好まれる存在です。受信機としての性能のよさばかりを問われること自体に、わたしは不満を持っていて。

「受動」側の存在だけではないと発信することが、私にとってはすごく大切なんです。期待される女性の属性を受け入れ過ぎていないかと、常に自分に問う。そういうことを書いたりしゃべったりすると「でもそれは、スーさんができる側だからじゃないですか」と言われることもあるんですけど、「じゃあ、あなたは試してみたことある?」と思う。強制したわけでもないのに、せっかく芽生えてきた私の能動性をパッシブ・アグレッシブに攻撃しないでよ、と(笑)。

ー「わたしはできない」という箱のなかから相手を攻撃するという感じというか……。

スー:できる人だけが得をするような社会システムはよろしくないと思います。できない人や、力が弱い人が甚大な損害をこうむるような社会はよくない。それは大前提としてあります。そうじゃなくしていきたいですよね。でも、もう少し自分を信用してもいいんじゃないかと。

ー自分はもっとやれるんじゃないか? というような……?

スー:そうです、そうです。もう少し自分を信じてもいいのではという気がします。

PROFILE

ジェーン・スー
ジェーン・スー

コラムニスト/ラジオ・パーソナリティ/作詞家
東京生まれ、東京育ちの日本人。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月~金11:00~)のパーソナリティを担当。2013年に発売された初の書籍『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)は発売されると同時にたちまちベストセラーとなり、La La TVにてドラマ化された。2014年に発売された2作目の著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』は第31回講談社エッセイ賞を受賞。毎日新聞やAERAなどで数多くの連載を持つ。最新著書『これでもいいのだ』(中央公論新社)が発売中。

INFORMATION

書籍情報
書籍情報
『これでもいいのだ』
著者:ジェーン・スー

2020年1月8日(水)発売
価格:1,540円(税込)
発行:中央公論新社
これでもいいのだ|特設ページ|中央公論新社

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