4月11日に開催された、She is のMembers限定のイベント『吉澤嘉代子と穂村弘の「言葉の夜会」 ~まばたくたびに春の夢~』。シンガーソングライターの吉澤嘉代子さんと歌人の穂村弘さんをゲストにお招きして、トークやMembersの皆さんから公募した夢についての短歌の選評、お悩み相談を実施しました。イベント後半戦には吉澤さんのアコースティックライブや、お二人と参加いただいた方が直接お話しできる特別な交流会も。
そっと瞼を閉じた時に立ち現れる夢のかけらを、丁寧にひろいあげてことほぐような特別な一夜のレポート。今回は夢と言葉にまつわるお二人のトークを中心にお届けします。
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「いろんなことができないから、本や言葉に助けを求めるようになった」(穂村)
まるで甘い夢の中にいるような、ロマンティックな空間が今回のステージ。そこへShe isとzaziquoのオリジナルパジャマをまとった吉澤さんと、穂村さんが登場し、夢と言葉についてのトークが始まりました。
野村(She is):今日は言葉と夢がテーマということで、お二人をお招きしました。今日は「夜会」の雰囲気をつくりたくて、ライブハウスを幻想的な空間にしたててもらいました。
穂村:僕は毎週のようにトークや対談をやっているんですけど、今日はすごく非日常感が強いですね。吉澤さんがパジャマになった瞬間から激しく緊張しています(笑)。それまではわりと、リラックスしていたんですけど。
吉澤:ステージでパジャマを披露するのは初めてですね。実は私、レコーディングの時はいつもパジャマなんです。パジャマが一番リラックスした状態なので。
野村:お二人は言葉の使い方によって、この現実から少し抜け出るような方法を知っている方なんじゃないかなと思っています。ご自身にとって、言葉との関係の始まりはどんなことだったのでしょう?
穂村:僕らの世代だと、子供の時に野球をやらないということが許されなかったんですね。サッカーと野球の二択ですらなくて、野球一択。野球って、うまい人は最初からバッティングも守備も全部うまい。そういう人には言葉がいらないんですよ。
だけど、できないと言葉が必要になるんです。ボールが打てる人に「なんでそんなに上手にできるの?」って聞いても、できる人は言葉を持っていないから答えられないんだよね。僕は、「できない」というところから、すごく言葉に頼るようになったの。「お前は本ばっかり読んでるから、(野球が)できないんだよ」って言われたんだけど、僕は逆だと思っていて。いろんなことができないから、本や言葉に助けを求めるようになったという順番なんです。
吉澤:私もそうですね。子供の頃は野球どころか、人と話すことが上手にできなくて。今でもそうなんですけど(笑)。当時はもう一つの世界がないだろうかと探して探して、それで小説や物語に没頭するようになって。うまく話せない分、言葉への執着が強くなり、自然と夢中になっていった感じです。
「自分を知る一つの手がかりとして夢を大切にしている」(吉澤)
野村:吉澤さんは夢はよく見ますか?
吉澤:そうですね。今日は黒柳徹子さんが出てきました(笑)。先日She isで夢の研究をされている松田英子先生と対談させてもらってから、夢への考え方が変わりました。今までも私にとっては大切なものだったんですけれど、夢というのが自分の記憶を映像としてまとめて見せてくれるものだと知ってからは、自分を知る一つの手がかりとして大切にするようになりました。朝、覚えている限り書き留めておくようにしています。
野村:穂村さんはよく見る夢はありますか?
穂村:飛ぶ夢をよく見るんだけれど、飛んでいるところが地上30cmぐらいのところなんだよね。すごく低くて、歩いている人に踏まれそうになるの(笑)。夢って現実より自由な面もあるけれど、例えば路線図を読んだり切符を買うような、現実の中で簡単にできることができないこともすごくあって、自由とばかりは言えないですよね。
吉澤:むしろ不自由なことも多いですよね。
穂村:トイレを自分で組み立てなきゃだめで、すごい焦るっていうのもあった(笑)。自分で自分に見せているのになんでそんな面倒くさいんだと思うんだけど、でもそれが面白いような気がしますね。
「初めて短歌をつくった時の、強烈な『こんなことをして意味あるのかな感』」。(穂村)
野村:眠る時に見る夢以外にも、「夢を叶える」という時の夢もありますよね。そういう夢とは二人はどう向き合っていらっしゃったんですか?
吉澤:私がシンガーソングライターを仕事にできていることは、自分がこの世で一番なりたかったもの、まさに夢のてっぺんを取れちゃったということなので不思議な感覚なんです。でも、自分ができることだけをやってきたという感じですね。
野村:最初につくった歌って覚えていますか?
吉澤:覚えています。子供の頃の鼻歌のようなものは別にして、初めて一曲つくったのは16歳の時。恋人たちの目線が男女交互に変わっていく物語でした。“木綿のハンカチーフ”みたいに。
穂村:その短歌自体というより、その手ごたえのなさをすごく覚えていますね。トランプみたいなカードを買ってきて、そこに短歌をひとつ書いた時の、強烈な「こんなことをして意味あるのかな感」。
野村:手ごたえを感じられるようになるのはいつからなんでしょう?
穂村:手ごたえのなさって数年ごとに襲ってくるものなんですよね。僕も短歌を何年か続けた後に、こんなことして意味あるのかなと改めて思ったことがあったけど、同じく短歌をやっている人に相談したら、「でもお前、米粒に字を書く人だっているんだぞ。あの方がよっぽど不安だと思うぞ」って言われて(笑)。僕は以前ミック・ジャガーを写真で見て、僕とどこが違うんだろう? と言って友達に爆笑されたことがあるんだけど。ミックと僕とは何か、違うじゃない。全てが。
吉澤&野村:……えっ(笑)!?
穂村:それでも僕と彼の間には中間ゾーンがあるわけですよ。現実と夢の間の、その膨大な中間ゾーンをみんなどうしているのか。優れた表現者に会うたびに何でそうなれたのか問い質していますね。
吉澤:問い質して、何か見えましたか?
穂村:100%の才能の塊を持っている人はいなくて、優れた表現をしている人は90%ぐらいは普通の感覚を持っているんですよ。残りの10%の部分が、表現のための回路になっている人が多いみたい。自分が創造するわけではなくて、向こう側にあるものを、自分を通して外に出す。そういう回路のようなものを掴んだ人がクリエイターになっているイメージですね。
その後、事前にShe is のMembersから募集された夢にまつわる短歌へお二人の選評が。また、お悩み相談コーナーや、お二人の朗読など盛りだくさんなコンテンツを終えて、前半戦は終了。後半戦は、吉澤嘉代子さんのアコースティックライブから始まりました。
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