「ここ」で生きることを想う。 目の前にあるものを観察し、愛で、時にはメンテナンスすることで。あるいは、想像という目に見えない雄大な景色にアクセスすることで。生きる手触りを確認して、重ねていく。いまここで暮らす自分を励まし、いつかのここを耕していこう。
今回は「ここで生きる」ということに紐付いた絵を描くイラストレーターと、その作品をご紹介します。絵や作家自身の暮らしの中に流れる空気にふれることで、あなたがより心地よくおうちで過ごす手がかりに、そして「ここ」の解像度を上げるきっかけになれば幸いです。
グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活動する宮岡瑞樹さん。生き物をモチーフにしたイラストをまとめた作品集『みつけたり、みつかったり』を南京で開催されたアートブックフェアに出品するなど、様々な活動を行なっています。
彼の描くイラストは、室内で有意義に過ごすためのヒントの倉庫です。革靴とケア用品、さっぱりと整頓された台所、数枚のレコード……。日用品や衣類を見つめ直し、長く人生のお供でいてもらうためにメンテナンスをすることや、片付けをして部屋や視界を美しく保つことは、「ここ」と「自分」を大切に扱うことにつながるはず。知らない時代の音楽を聞き、想像上で旅をするなど、ときには遠い土地や時間に目をむけることも素敵な過ごし方です。
身辺のものを簡素に描く宮岡さんに「部屋でのお気に入りの過ごし方や、こだわりはありますか? また、それらを反映した作品で気に入っているものがあれば教えてください。」という質問を投げかけたところ、こんなお返事をいただきました。
父のお下がりの服、古書や中古レコード、株分けした植物など誰かの手から渡ってきた物に惹かれ、自宅ではそれらに囲まれながら過ごしています。
家にいる時間が増えた分、じっくり見回すことも多く「自分より年長者が家の中にこんなにあるんだ!」と驚きながらも楽しい発見ができたりもしました。
何が自分を惹きつけているのかを考えると、以前の持ち主の気配を感じる物たちが、今は自分の生活の一部として時間を共にしているというちょっとした違和感と人の気配から来る安心感なのかなと思っています。
魅力を感じた物・シーンの持つ気配を意識しながら、どうすればシンプルに表現できるかを考えて作品を作っています。
そして手渡された物たちが自分の手から離れる時が来ても、次の誰かに繋いでいけるように大切にしていきたいと思っています。
かつて誰かが愛していたものを譲り受け、今度は自分が愛を注ぐ。そしてそれを独占するのではなく、次の誰かのことも考える。めまぐるしい消費が行われる社会の中で、この感覚や行為を忘れずにいたいものです。人から人へと受け継がれてきたものを慈しみ、そうやって人と繋がりながら、さまざまな「ここ」についての想像力を持つ。そうして得られる生活の安心感は、きっと自分を励ましてくれるはずです。