Instagramを中心にU30世代に向けて政治や社会の情報を発信するNO YOUTH NO JAPANの連載。さまざまな女性たちに政治へのかかわり方を伺うインタビューや、代表の能條桃子さんが政治を語るためのきっかけを綴るコラムをお届け。政治を語るコトバを持つということは、それぞれが自分の想いに気づくということ。政治を語るわたしたちのコトバは、わたしたち一人ひとりが生きたい社会に繋がっていくはず。
2020年、政治とわたしたちの一年を振り返る
「日本はジェンダーギャップ世界121位」。2019年の暮れ、世界経済フォーラムによってジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index)2020が発表されました。日本はこのランキングで総合121位。そして、もっとも低かったのは、144位という政治分野における女性の進出に関しての順位でした。そんなスタートを切った2020年。今年も、様々な分野で変化を求める声や新たな動きがみられ、そんなニュースの数々に一喜一憂した一年でした。
国会議員や企業の管理職など、「女性の指導的な地位における割合」は目標3割に対して1割にとどまる
この一年、家の中にいることが多かった人も、外に出て働かなくてはならなかった人も、今まで以上に政治の動きを気にすることになった年だったのではないでしょうか。わたしたちの生活が政治と密接に結びついていることを改めて実感した今、女性と政治にまつわる動きをNO YOUTH NO JAPANのInstagram投稿とともに振り返ってみたいと思います。今もまだ続くこのコロナ禍の中、女性に関わる政治的な決定は、わたしたちにとってどのように映ったでしょうか。
・日本政府は「2020年までに女性の指導的な地位における割合を30%に」という目標を先送りに(7月)
今年7月、政府は「第5次男女共同参画基本計画(*1)」の作成に向けて、基本的な考え方の素案を出しました。そこでは、今まで掲げられてきた「2020年までに女性の指導的地位における割合を30%にする」という目標を「20年代の可能な限り早期」に変更することが示されました。「指導的地位」とは国会議員や企業の管理職をはじめとする職種です。2003年に掲げられたこの目標ですが、2020年の段階では、そのような地位に就く女性は1割にとどまっています。
今年3月は、NO YOUTH NO JAPANのInstagram投稿でもジェンダー平等について取り上げました。国会議員や管理職など、「指導的地位」とは「決める」場所のこと。10人に1人の女性しか「決める」場所にいられない状態で、わたしたちの声は果たしてしっかりそこに届いているのでしょうか。
*1男女共同参画基本計画とは:男女共同参画基本法第13条に基づき策定された。男女共同参画社会の形成を目指して行われる政府の取り組みの実施状況をチェックしたり、それが社会に及ぼす影響の調査を実施したりする。
望まない妊娠を防ぐ「緊急避妊薬」を医師の処方箋なしで薬局で買えるようにする方針。2021年の導入前に反対意見も
・望まない妊娠を防ぐ緊急避妊薬が、来年にも薬局で購入可能に(10月)
10月には政府が、性交直後に服用し妊娠を防ぐ「緊急避妊薬」が医師の処方箋なしでも薬局で買えるようにする方針を固めました。性交後72時間以内の服用によって、性暴力を含めた望まない妊娠をより多く防ぐことができるようになります。2021年には導入予定でしたが、12月中旬には、日本産婦人科学医会の理事長が弱い立場の人々への悪用や濫用を懸念して反対を表明しています。
NO YOUTH NO JAPANのInstagramでは、10月のニュースに際してストーリーズにて解説を作成しました。ほとんどの場合、望まない妊娠によって社会的・経済的損失を受けるのは女性。産婦人科に行くということへのハードルが高いなか、手軽に緊急避妊薬を薬局で入手できることは当人の女性にとっては大きな安心材料ともなりますが、その「手軽さ」によってまた被害を受ける女性が出てくる可能性も示唆されています。しかし、薬局で買えることは、緊急時の救世主として窮地に立たされる多くの女性を助けられるという事実には変わりありません。そういった意味では、大きく前に進んだ一歩だったのではないでしょうか。
夫婦がそれぞれ結婚前の性を使うことを認める「選択的夫婦別姓」の議論が後退
・選択的夫婦別姓を認める法整備に関して与野党で議論深まるも、見送りに(12月)
今月12月、政権を担う自民党は、次の男女共同参画基本計画に「選択的夫婦別姓(*2)」に関する記載をどれくらい扱うかに関して、党の中で議論を行いました。その結果、「従来の戸籍制度に影響が出る」などの理由により、保守系議員を中心に、制度にまつわる文言を慎重に扱うよう、原案を修正することを要求しました。事実上選択的夫婦別姓の議論は後退したこととなっています。
3月の投稿では、選択的夫婦別姓に関しても取り上げています。これは、女性に限らず、結婚によってどちらかの姓を選ばなくてはならない男女両方に関わるテーマです。ただ現状では、結婚によって夫の姓に変更する女性が9割を超えていて、制度が確率されないことによる弊害は、依然として女性の方が影響が大きいと言えます。
*2選択的夫婦別姓とは:結婚後も、夫婦がそれぞれ結婚前の氏(姓)を使うことを認める制度。現状日本では認められておらず、法的な結婚の手続きの際に、必ず一方がもう一方の姓に変更しなければならないきまりがある。
生理用品無償、アメリカで女性初の副大統領誕生、新型コロナウイルス禍の女性リーダーの活躍。世界の国々で起きた2020年の進歩
世界の国々を見れば、2020年の進歩は沢山見つかります。
例えばスコットランドでは、生理用品が無償になりました。若い女性が生理用品を手に入れるのに苦労する「生理貧困」を背景に、国内の全ての女性が無料配布の対象になりました。生理は世界中のどの国の女性にとっても、人生の長い期間を共にする存在。スコットランドの変化を受けて、日本でも若者が「生理の経済的負担」を理由に署名活動を行うなど新たな動きが見られました。
アメリカでは、カマラ・ハリス氏が女性初の副大統領に当選しました。「最初かもしれないが、最後ではない」。彼女が演説で語ったこの言葉から、未来の政治で女性たちが活躍する情景を思い浮かべた人は少なくないでしょう。更に次期バイデン政権では、彼女のみならず、他にも女性閣僚が多く登用され、広報チームは7人全員が女性だと発表されました。記者会見などで政権の公式見解を伝える役割を担う彼女達の存在が、「珍しい」から「当たり前」だと認識される日は、そう遠くはないかもしれないのです。
そして、今年世界中を騒がせた新型コロナウイルス。世界では女性リーダーの活躍が話題になりました。死者のいない段階からロックダウンを実施し、死亡率を低く維持したのはニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相。子どもを寝かしつけた後の部屋着姿で国民に向けてライブ配信を行い、オンラインでも親しみを持てる距離感で国民に理解と協力を呼びかけました。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、強力な規制と手厚い経済支援で冷静かつ迅速な対応が評価されました。一方で、感情的にクリスマスの外出自粛を呼びかける姿は、国民に驚きを与えました。他にも、北欧諸国や台湾など女性リーダーが活躍を見せた国は多く、長期的な経済損失よりも国民の命を守るという目的に重きを置いた政策が見られました。
変わった社会に適合した政治をつくることができるのは、わたしたち。2021年は、もう一歩前へ。
今回ここで取り上げた女性と政治との関わりはほんの一端です。実際にはもっと多くの女性にまつわる政策が、国会で議論されたり、世間で話題になったりしています。これだけ悲観的に見てしまうと、なかなか進まない日本のジェンダー平等の現実に、思い詰まってしまうかもしれません。しかし、その背景には、女性の社会進出が着実に進んできたという影響があることも忘れてはいけないと思います。
「指導的地位」に女性がまだ少ないことも、裏を返せばそこに登用される女性の候補が増えてきたからこその議論であって、国会や会社にほとんど男性しかいなかった時代とは違う。選択的夫婦別姓制度の議論が行われるのも、結婚する上で自身のキャリアを重視する人が増えてきた結果と捉えることもできます。社会は、政治より一歩先に、着実に前に進んでいるのです。
しかし、その社会の変化が政治に届ききっていない。変わった社会に適合した政治をつくることができるのもまた、わたしたちです。こうなるともう、政治をひとごととは思えなくなりませんか?
日本の女性の社会的地位が未だに低いのは紛れもない事実です。しかし、日本よりも女性活躍が進む他国にも、男尊女卑の歴史はあったはず。小さな変化を少しずつ積み重ねた結果が今日の社会をつくっています。2020年は社会も個人も新たな困難や課題に直面したことの方が多いかもしれませんが、一方で喜ばしい進歩もどこかで確実につくられているのです。社会のほころびを見つければ、悲観的になる時もあります。しかし、まずは進歩を進歩と捉えることから始められるといいのではないでしょうか。社会に対してふと感じたワクワクを、自分のコトバにし、SNSで発信してみるのも、ひとつの手かもしれません。