林央子とエレン・フライスのParallel Diaries(2020年9月~10月)

私たちのすごした季節の感情を映した、並行日記

連載:林央子とエレン・フライスのParallel Diaries
テキスト・撮影:林央子、エレン・フライス 翻訳:金沢みなみ 編集:竹中万季
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2020年10月1日(木)

エレン 10月1日(木) 17:00

今日はモントーバンで病院の予約があった。モントーバンは大きな都市で、わたしの村から50分くらいのところにある。
私は、ここに来るのはあまり好きではない。通りの緊張感や何となくいやな感じ、悲しみのようなものを感じるからだ。軍の町だからか、フランスの、中くらいのサイズのほとんどの町と同じように中心部がさびれていて、市街地にはどこも同じブランド店が並ぶ、巨大なショッピングエリアがあるからだろう。

でも、そんなモントーバンで楽しみにしていることがある。それは、ベトナム料理店でお昼を食べることだ。一人のときも、誰かと一緒のときも、ここはいつも居心地がよく、料理もおいしい。年配のカップルが経営していて、男性が料理をつくり、女性が給仕をする。そして、町で数時間過ごしたあと家に帰ってくると、私はいつも幸せな気持ちで、こんなに美しい村に住むことができるなんて、なんて運がいいのだろうと思うのだ。

ナカコ 10月1日(木) 19:00 ロンドン

今日は朝のうち曇っていたが、時折太陽を見ることができるようになった。朝、バスに乗って息子の学校に行った。ロンドンがロックダウンに入ってから6か月間で、初めてのことだ。学校は授業の開始時刻を遅らせていたので、息子が乗る朝のバスはガラガラで、それはすごくよかった。

息子を見送ったあと、様子を見に市内に出てみた。駅の近くのスーパーに足を踏み入れてみたが、3か月間も行っていなかったので、どこに何があるか、ほとんど忘れてしまっていた。平日の朝だったので、ここでも数人しか見かけなかった。それから、新しいカフェを見つけて、そこでベジタリアンの朝食を食べた。お気に入りのカフェはテイクアウトしかやっていないようだったので、代わりにこの場所を見つけることができてうれしかった。

なぜ人はカフェに行くことが好きなのだろう? 絶対に必要なものではないかもしれないけれど、家の外のどこかで、飲み物や何かと一緒に、一人の時間を過ごせたら、人はいい気分になれるのではないか。こうして一日をスタートしたことで、今日はたくさんのことをこなせた気がする。ここに来る前、私はいやいや日本を発ってきたのだ。でも今日は、ここにいられることが幸せだと感じる。

PROFILE

林央子
林央子

編集者。1966年生まれ。同時代を生きるアーティストとの対話から紡ぎ出す個人雑誌『here and there』を企画・編集・執筆する。2002年に同誌を創刊し、現在までに今号を含み14冊制作。資生堂『花椿』編集部に所属(1988~2001)の後フリーランスに。自身の琴線にふれたアーティストの活動を、新聞、雑誌、webマガジンなど各種媒体への執筆により継続的にレポートする。2014年の「拡張するファッション」展に続き、東京都写真美術館で行われた「写真とファッション 1990年代からの関係性を探る」展(2020)の監修を勤めた。同展にはエレン・フライスも招聘。2021年春には10年ぶりの新著『つくる理由』刊行予定。
Parallel Diaries

エレン・フライス

1968年、フランス生まれ。1992年から2000年代初頭にかけて、インディペンデントな編集方針によるファッション・カルチャー誌『Purple』を刊行。その後も個人的な視点にもとづくジャーナリズム誌『HÉLÈNE』『The Purple Journal』を手掛ける。また、1994年の「L'Hiver de L'Amour」をはじめ世界各国の美術館で展覧会を企画。現在はフランス南西部の町サン・タントナン・ノーブル・ヴァルで娘と暮らしながら、写真家としても活躍している。編著に『Les Chroniques Purple』(VACANT、2014年)、著書に『エレンの日記』(林央子訳 アダチプレス 2020年)。東京都写真美術館の「写真とファッション」展では新作スライドショー《Ici-Bas》を発表。

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