なにかに追われてせかせかした気持ちになってしまうような毎日。そんな日々のなかで少しでもほっとできる自分だけの時間があったら、心がじんわりとゆるまって、ちょっぴり休息できるのかもしれません。
She isでは7・8月の特集「やすみやすみ、やろう」のギフトでお送りするオリジナルプロダクトとして、コラージュアーティストのM!DOR!さんと、ここではないどこかへ心を連れて行ってくれるような「YuRa YuRa Pouch」をつくりました。
いろんなものがデジタル化されて、日々の速度が上がっている今。あえて、時間と手間をかけてつくられるコラージュに魅せられている理由や、その現代の速度とは違った時間軸で作品の世界をつくることについて、そして、ポーチに込めた思いを語ってもらいました。
【後編】コラージュ作家M!DOR!が愛する、アナログや古いモノがくれる奇跡
コラージュだったら絵が描けなくてもつくれるなと思って。
コラージュは、その瞬間の偶然や必然も相まって、素材の配置が決まっていく。コラージュアーティスト、そしてグラフィックデザイナーとして活動しているM!DOR!さん。そもそもなぜコラージュを始めるにいたったのでしょう?
M!DOR!:高校生の時に古本屋さんでロシア・アヴァンギャルド(1910年代から、ソビエト連邦誕生を経て、1930年代初頭まで続いた、ロシア帝国・ソ連邦の芸術運動)についての本を見つけて。その本にすごくかっこいいポスターが載っていて「おっ!!」と思ったんですけど、その手法がコラージュだったんです。「コラージュってなんだろう」? って調べたら、「簡単に言うと切って貼る」と書いてあって。
もともと雑誌や本のビジュアルが好きで、ものづくりに関わりたいと思っていたM!DOR!さん。でも絵を描くのは苦手だし、と悩んでいた最中での出会いでした。
M!DOR!:自分でなにかをつくれる手法はないかなと探していたんですよね。コラージュだったら絵が描けなくてもつくれるなと思って、そのとき読んでいたファッション誌を切り抜いてコラージュを始めたんです。ドイツのハンナ・ヘッヒや岡上淑子さんなどにも影響を受けましたね。
今年1月に東京都庭園美術館で展示されていた岡上淑子さんの個展の盛況ぶりが記憶に残っている人も多いかもしれません。いろんなものがデジタル化し、日々の速度が上がっている今。とってもアナログなコラージュという手法に惹かれる人が増えてきているのはなぜなのでしょう?
M!DOR!:私ももともとはデザイン事務所に就職してデジタルで仕事をしていて。その気分転換としてアナログコラージュをしていたんです。デジタルは、アナログではできないことももちろんできるんですけど、仕事がデジタル作業ばかりだったので気持ちの差もつけたくて。アナログでコラージュする場合に、私は本のページ自体をそのまま切り抜いて素材にするんですよ。
だから、その素材は絶対に一度しか使えない。ページの表と裏の両方にいい素材があったりすることもあるので、どちらを使うか意を決して選んでいます(笑)。アナログコラージュは、その瞬間の偶然や必然も相まって、素材の配置が決まっていく楽しみがある。コピーしたり拡大しちゃうとデジタルでつくるのと変わらないから、「アナログだからこその一点もの」っていうスタイルを貫いています。
五感が全部刺激されることで癒されていく感覚がある。
「ちょっと一手間かけるのが、自分の気持ちを休めることにもつながっています」とM!DOR!さん。一手間かけることでふだんは意識しない感覚を得られるのだそうです。
M!DOR!:もちろん手間をかけないで休む人もいると思うんですけど、私は逆に手間をかけて楽しむほうが、心が休まるんです。たとえば本を読むとき。ページをめくる触感だったり、紙のにおいだったり、五感が全部刺激されることで癒されていく感覚があります。デジタルに匂いはないけど、紙の手触りや匂いから感じる良さが、心を和ませてくれています。
M!DOR!:私がコラージュに使っている紙の素材は、一番古いものだと1700年代くらいの書物から、著作権が切れている1950年代くらいまでのもの。虫や動物、植物の図鑑だったり、あとはファッション誌、科学雑誌……。現代のものと紙質や手触りが違いますし、色合いも今は出せない雰囲気があって魅力的なんです。
M!DOR!さんのコラージュは、時空を超えて現代に残る、別々の場所にいたはずの素材が偶然に結びついた、運命的な作品たちなのです。
M!DOR!:「よく女性の素材を使うよね」って言われるんですけど、それはもともと1920~30年代のアール・ヌーヴォーのデザインに興味を惹かれるし、あの当時の女性の表情もすごく好きだから。その当時の女性の表情ってなんだか憂いがあって。微笑んではいるけれど、ちょっと違和感もありそうな独特の表情が好きです。
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