テレビに出始めたとき、本当の自分じゃない自分だと思われてしまうことや、求められるものを演じなきゃというしんどさがあった。
ゆりしー:そうして作家になるという夢を叶えられて、今はテレビのお仕事もされていますよね。
犬山:本を出したあと、テレビ番組から本を紹介したいということで声がかかって、初めてテレビに出たんです。
ゆりしー:1人でものを書く仕事とテレビでお話しする仕事って結構違いますよね。その部分って最初はどうでした?
犬山:テレビ出始めの頃に「えーん」って1人で泣きながら最寄駅の改札を出たことを覚えてます。「私って本当にこんなこと思ってたっけ」とか「この人のことダメ出ししたいんだっけ」とか思って。
ゆりしー:それは当時「毒舌」みたいなことを期待されていたり……?
犬山:そうですね。あとはデビュー作が『負け美女』というタイトルだったので、自分のことを「負け美女」って自称していると思われるんですよ。私自身は、周りの美女の友人たちが恋愛では超とほほな思いをしてるじゃん! 美女はイージーモードって偏見じゃん! というつもりで書いていたけど、自分のことを美女って言ってる嫌なやつ、と思われて。でもそれをいちいち「誤解なんです!」って言って回るわけにもいかず、今でもそれはついて回っていて。そして当時は人を「勝ち負けで分けることのおかしさ」に気がつけていなくて、まっとうな批判をきちんと理解できていなかったのが大きいと思います。今猛省中なのですが。
本当の自分じゃない自分だと思われてしまうことや、実力不足、求められるものを演じなきゃというしんどさが最初はあって「えーん!」ってなっていたけど、今は本当に自由にやっていて、超素なんですよ。
ゆりしー:その「えーん!」から無理をしない状態になれたのは何かきっかけがあったんですか?
犬山:事務所の社長が話を聞いて味方でいてくれたことが大きかったですね。無理もさせないし、相談に乗ってくれるし。とはいえずっとずっと悩んでいて、楽になれたのは、自分の言いたいことは曲げないっていうことを決めた、ここ3年くらいですね。そんな風に悩んでいたなかでも、なんでテレビに出ていたかっていうと、スーパーサイヤ人の戦いを間近で見るみたいな世界だからなんですよ。
ゆりしー:喋りのプロの方たちの。
犬山:芸人さんとか本当にすごいんですよ。3手先まで読むようなトークの掛け合いの感覚って、お茶の間にいたらなかなかわからないんですよ。あとは、同じ番組に出演している専門家の人に質問し放題なんです。CM中に「それってどういうことなんですか?」とか聞きまくれるのって、めちゃくちゃ面白いじゃないですか。そういう面白さが前提としてあったので、自分は全然できていないんじゃないかという思いはあったけど、続けていました。
体も心も元気じゃないと仕事をしてお金を稼げないし、生きていて楽しくもないので。
ゆりしー:犬山さんは会社員とフリーランス、両方の働き方を経験してみてそれぞれの働き方についてどう思いますか?
犬山:「出社」という行為は向いていなかったですね……! 会社員のときも特集の企画とかを考えさせてくれたので、そういう部分は楽しかったです。まあそれは人手が足りなかったからなんですけど(笑)。
私はすごく意識高くフリーランスを選んだというよりは、フリーランスじゃないと生きていけない性質なんだと思うんです。学生の頃とかも45分間拘束されて授業を聞いてることがしんどくてたまらなかった。小学生の頃から永遠みたいに感じてストレスでした。でも今の仕事をするうえではそういう部分も個性になっているような気がします。
ゆりしー:あともう一つお聞きしたかったのが、犬山さんはテレビに出たり執筆されるお仕事と並行して、児童虐待防止に関わる活動をボランティアで行われてますよね。子供達を守るためという問題意識から始められた活動だと思うのですが、「働く」という話でいうと、犬山さんご自身の中でどういった位置付けの活動になっていますか。
犬山:「こどものいのちはこどものもの」(※)という活動を始めたのはもちろん子供たちのためなんですけど、もうひとつ自分のためでもあって。虐待のニュースを聞くたびに自尊心がゴリゴリと傷つくんですよ。どうしてそんなに傷つくかというと、本来大人が子供を守らなきゃいけないのに、大人である自分が何もしてあげられなかったからで。だからもうやるしかないと思いました。
最初は自分には何もできないと思ったけど、よく考えたら、一応Twitterで何万人かフォロワーさんがいて、友人もいて、メディアで喋ることができるし、取材をしてそれを広めることもできる。そういう自分の特性を活かすことができると気づいたんです。
虐待のニュースを見るのはもちろん今でもすごく辛いんですけど、活動を始めてからは、自分の自尊心が削られて再起不能に陥るような状態にはならなくなってきました。「私なにもしてない」から「私頑張った! 少しは役に立てたかな」って思えるんです。
※犬山紙子さん、坂本美雨さん、福田萌さん、ファンタジスタさくらださん、眞鍋かをりさん、草野絵美さんによる児童虐待を防ぐためのチーム。
ゆりしー:犬山さんにとって、自分の心を守るために大切なお仕事なんですね。
犬山:体も心も元気じゃないと仕事をしてお金を稼げないし、生きていて楽しくもないので。
しをりん:それに今の犬山さんだからこそできる活動ですよね。
犬山:それは嬉しいですねえ。スカウターで股間を見て爆発する漫画を描いてたことを考えると。
未完成:(笑)。
犬山:コメンテーターっていう仕事もすごく揶揄されるんですよ。いろんな職業がある中でも一番と言っていいくらい馬鹿にされる職業なんじゃないかなと思うくらい。わかります、無責任なイメージありますよね。ファクトに沿わないことや差別的なことは話さないなどコメンテーターのリテラシーはもっと求められるべきだと思ってます。でもきちんと調べたことを誠実に伝える方もたくさん見てきました。当たり前のことですが。
児童虐待や女の人の立場が揺らぐような事件があったときに、きちんとした意見を言えるようになっておきたいという目標が見えてから、コメンテーターという仕事を自分らしくやれると思えるようになりました。もちろんわからないことは知ったかぶりしないのも大事。尺が短く、的確に伝えるのはものすごく難しい、それでもきっとできることがあると思っています。虐待をなくすって観点でも。コメンテーターの立場はたくさんの視聴者に訴えかけることができる貴重な立場、必要な情報を共有したりできることはある。今は「コメンテーターって一つに括って揶揄する人たち見ててくれよな!」みたいな気持ちです(笑)。
自分を好きでいるためにも、仕事をしてお金を稼ぐこととか、書きたいことを書いたり、言いたいことを言うことはすごく大切だと思うんです。
ゆりしー:そろそろまとめ的なところに入りたいと思うんですけど、この連載では毎回「働くとは何ぞや」の「何ぞや」の部分に入る言葉をお聞きしていて。犬山さんにとっての「働くとは何ぞや」を教えていただければと。
犬山:私の場合は、真面目な答えになりますけど、「自分を好きになること」かな。「自分を好きになる」って超大事なことだけど、私も最近までわからなかったんですよ。カウンセラーの先生に聞いたら、「毎日自分のよかったところを褒めてから寝てみて」って言われて。それから寝る前に「よっしゃ今日私、夫に怒らなかったぜ」とか「今日原稿2本も書けた、偉い!」とかやってるうちに、不思議と「私最高じゃん!」って思えるようになってきたんですよ。そうやって自分を好きでいるためにも、仕事をしてお金を稼ぐこととか、書きたいことを書いたり、言いたいことを言うことはすごく大切だと思うんです。
しをりん:本当にそうかも。働いてる時間って人生の中で長いから、せっかく働くんだったら楽しく、自分を好きになれることをしたいですよね。
ゆりしー:さっきの「自分の心を守るための仕事」というお話もそうですけど、自分の仕事が自分の心を裏切るような状態にならないことは、自分のためにも他人のためにも大切な気がします。
犬山:だからその仕事をしているときに、「自分はなんてひどい人間なんだろう」って思わない仕事が向いてる仕事なのかもしれないな、と思います。
犬山紙子さんにとって「働く」とは?
「自分を好きになること」 犬山紙子
今回のお店
※普段のビームスジャパンさんはもっと素敵です。
BEAMS JAPAN
住所:東京都新宿区新宿3-32-6 B1F-5F
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