She isでは、GirlfriendsとMembersのみなさま同士の出会いをつくり、対話を重ね、そこからともに創造し、行動していく場所として「Girlfriends CLUB」をはじめます。
初回のGirlfriendsは、小説家の川上未映子さん。渋谷ヒカリエ内の「MADO」にて、この夏刊行された長編小説『夏物語』にまつわるトークショーのほか、参加されたMembersのみなさまと川上さんの交流会や、サイン会が行われました。
人が生まれてくることや生きること、考えること、読むこと。そんな生きることの一切合財にまつわるお話を、双方向にやり取りする中で生まれた豊かで贅沢な時間が、参加された方にとって価値あるものとなったことを願ってやみません。
<もくじ>
p1.女の人にとってタフな問題としてある「妊娠」と「出産」
p2.「未映子さん、子どもを産んだほうがいいですか?」とよく聞かれるのだけれど
p3.ママ友のコミュニティで
p4.本当の意味で、人生に残るキャリア
p5.私たちの人生って、まとめられないものだけで成り立っている
ここで問いかけていることは、私自身がずっと考え続けてきたこと。
野村:今日のイベントに関連して、SNS上で「#夏物語と私」というハッシュタグをつけて、読者のみなさんに感想をつぶやいてもらう企画を行いました。その声を端緒に、お話を伺っていければと思います。まず、感想の中にいくつかあったのが「配偶者と子どもがいらっしゃる未映子さんが、どうして配偶者や性行為を必要としない小説を書いたのか?」という質問です。
川上:小説って、日記とも違うし個人的な手紙やエッセイとも違う。私はいつも自分と遠い存在や、世界を書きたいと思っています。プライベートでは、結婚していて、子どももいますが「そうじゃなかったかもしれない/そうではない」ことを小説として書くのは、そんなに理由がいることではないんですよね。当たり前だけど、自分の人生だけが、すべてではないから。
野村:確かに、以前書かれた長編小説『ヘヴン』(2009年)でも、主人公は14歳の男の子ですよね。
川上:そうです。でも、やっぱり『夏物語』に関しては、読者からこれまでにまったくない反応がありました。『ヘヴン』も、「善とはなにか、悪とはなにか」という哲学的な問題に多くの人が関心を寄せてくださいましたが、そのときの反応とは全然違います。私自身も『ヘヴン』は書いた後に、すぐまた次の場所に行くぞという気持ちになれたんです。
でも、今回の小説は終わらせてくれない。ここで問いかけていることは、私自身がずっと考え続けてきたことで、今も考えていることなんです。読者の方もきっとそうだからこそ、ご自身の人生総出で読んでくださっているのだと感じます。
野村:「人生総出で」というのは、すごくわかる気がします。自分や誰かと、長い対話をしたような読後感がありました。
川上:「#夏物語と私」のハッシュタグでみなさんのいろんな感想を拝読して、深く揺さぶられました。私が書いたものを読んだことで、すごく傷つけられたという人も、裏切られたと思った人もいます。勇気を受け取ってくれたという人もいる。大げさでなく、その人の人生に関わる可能性のあることなんです。そのことを改めて深く思い知りました。
女の人にとってタフな問題としてあるのが妊娠と出産。
野村:『夏物語』では、今の世の中の感覚としては少し特殊な形の妊娠・出産が取り上げられています。そのことについてもいろいろな感想がありました。私たちがShe isを立ち上げた理由も、当たり前とされている女性の人生のレールに対して、ひとつひとつ「なんでだろう?」と思ってしまう気持ちがあったからです。今作にも「この世界に対する問い」があって、どこか共通するものを感じました。
川上:ひとりの女の人の人生をしっかり書こうと思ったんです。それもしんどい子ども時代を生きてきた女の人。今回の主人公・夏子を大阪出身にしたのは、たとえ貧乏でも大阪には独特の笑いみたいなものがあるんですね。『じゃりン子チエ』みたいなね。その泣き笑いとともに女の人が生きていくということをしっかり書こうと思ったら、この小説の中に出てくるようなトピックがいっぱい生まれてきたんです。
私たち女性は、ほとんどの人が思春期のころに生理がきて、ずっと「産む性」だということを言われ続け、意識付けされていますよね。体育ではブルマを履かされているのに、ミニスカートで足を出していたら「冷えるから温かくしなさい」とか言われてさ。「どっちだよ!」みたいな(笑)。
野村:本当そうでした(笑)。
川上:さらに男の人に好かれたり、性的対象としてちやほやされることと、自分の価値がセットで考えられてしまうことが多い。そうじゃなくって、本当はもっと人間として何ができるかという方向で、自分をエンパワーメントして尊重する機会を得るべきですよね。男の子も女の子もそうじゃない人も、人間としてね。そのなかで、やっぱり多くの女の人にとってタフな問題としてあるのが妊娠と出産。親になるのかならないのかという問題があると思います。
野村:切実な問題ですよね。
川上:考えてみたらすごく短くないですか? 自分のことがちょっと見えてきたなぁ、仕事もちょっと手応え感じてきたなぁって思うのが30歳過ぎだとしたら、そこから5、6年くらいのうちに親になるかどうかを選ばないといけない。それに、決めたからといって自分ひとりでできるわけでもなく、出会いや相手の問題がある。よくこんなことができるなっていうくらい、出産というのはハードなことなんですよね。
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