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「やれば変わる」森会長の発言に対する署名を始めた能條桃子が動かされた言葉

行動するようになったきっかけは友人の言葉「やれば変わる」

連載:わたしたちのコトバで、政治を語る。
テキスト:能條桃子(NO YOUTH NO JAPAN) 編集:竹中万季
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Instagramを中心にU30世代に向けて政治や社会の情報を発信するNO YOUTH NO JAPANの連載。さまざまな女性たちに政治へのかかわり方を伺うインタビューや、代表の能條桃子さんが政治を語るためのきっかけを綴るコラムをお届け。政治を語るコトバを持つということは、それぞれが自分の想いに気づくということ。政治を語るわたしたちのコトバは、わたしたち一人ひとりが生きたい社会に繋がっていくはず。

こんにちは。
NO YOUTH NO JAPANの能條桃子です。

2021年2月、当時東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長であった森喜朗氏が、JOC(日本オリンピック委員会)の評議員会の場で「女性が入る会議は時間がかかる」「組織委員会の女性はわきまえている」などの女性蔑視発言をしたという報道がされ、世界中に広まりました。これを受けて私は、これは森氏個人の問題ではなく、森氏の発言を防ぐことができなかった組織自体もこの発言に対する立場を表明し、再発防止に努める必要がある問題ではないかと思い、共同で署名を立ち上げました。署名を開始した2月4日から12日間で、15万筆以上の声を集めることができました。

Change.org「女性蔑視発言「女性入る会議は時間かかる」森喜朗会長の処遇の検討および再発防止を求めます #ジェンダー平等をレガシーに」

これは私が代表を務めるNO YOUTH NO JAPANとは切り離した個人的な活動でした。しかし、政治や社会のことについて「誰かがやってくれるから」と人任せにせず、自分の意見を持って行動する人を増やしたいというNO YOUTH NO JAPANの想いを自ら実践してみた活動だったと思います。

森氏の発言に関する一連の報道からもうすぐ2か月が経ちます。今回は、私がこの活動を通じて見えてきた「声を上げることの重要性」について書いてみようと思います。

「やれば変わるからだよ」デンマークで見た社会変革のスピードの速さ

普段から取材などで「署名活動や団体の代表をしている23歳」と紹介されると、他の人から「自分とはすごくかけ離れている人」と思われることも多いです。しかし私が積極的に活動をするようになったのは最近のことで、それまでは自分がこのような活動をする人になるとは思ってもいませんでした。

政治や社会について「モヤモヤする」「もっとこういう社会に生きたい」という想いを行動に移す直接のきっかけとなったのは、2年前の2019年にデンマークに留学し、たくさんの「声を上げている同世代」と出会ったことでした。留学中、デンマークで41歳の女性首相や21歳の国会議員が誕生したり、気候変動対策やジェンダー、メンタルヘルスに関わる問題が日本より速いスピードで改善したりしている様子を目の当たりにし、心底デンマークが羨ましくなりました。と同時に、その裏には生きたい社会の実現を願い、政治や社会に参加している多くの人々がいることを知りました。

日本で生まれ育ち、周りに政治や社会に対して自分の立場を表明し、声を上げている人があまりいない環境で育った私は、政治や社会に「声を上げること」について、その重要性をなんとなく理解しつつも、自分自身がやるものとは全く思っていませんでした。ジェンダーや経済格差、地域の過疎化などに関心や問題意識はありましたが、自分が何かをしてもあまり意味がないのではとも思っていました。しかし、デンマーク人の友人にそれを伝えると、「私が政治や社会に声を上げること、何か変えたいことがあるときに活動に参加する理由はシンプルで、やれば変わるからだよ」と話してくれました。

私も、「これが変わればいいのに」「もっとこういう社会にしたい」と思ったとき、「自分が動けば変えることができる」と思えるようになりたい、私がなんとなく日本で感じていたおかしいと思ったとしてもどうせ変わらないという「無力感」を変えていきたいと考えるようになりました。

「見過ごすこと」に慣れてしまっていた日本社会を変えるきっかけに

しかし、今回の森氏の発言に対する署名を立ち上げるにあたり、報道を見てすぐに行動に移った訳ではありませんでした。報道を見た当初は「まだこんなことを言う人が国際的なオリンピック・パラリンピック組織委員会の会長をしているのか」と驚き落胆したと同時に、「また問題発言で数日話題になりそうだな」と冷静な感想すら持っていました。

認識が一変したのは、この報道の翌日に発言の撤回・謝罪を趣旨とした森氏の記者会見でした。この発言のどこが問題なのかをまるで理解していないような態度を目にし、周りになぜこの発言が問題とされているか説明してくれる人はいなかったのか、疑問に思いました。

Twitterを見てみると、森氏の辞任を求めた声がたくさん集まりトレンド入りしていた一方で、この発言に対する問題意識は、森氏だけでなく組織委員会の幹部やこの発言をその場で聞いて笑った人たちには届いていないということが記者会見で明らかになりました。同じ問題が再び繰り返されないように、「このような発言を見過ごすことは、東京オリンピックのテーマである『多様性と調和』にも、これからの社会にもふさわしくない」と感じている人の数を可視化し、直接組織委員会などに届けることが重要だと思い、署名の立ち上げを行いました。

結果として森氏はその後会長を辞任することになりました。しかし私たちは署名の中で森氏の「辞任」ではなく、組織委員会などに処遇の検討や再発防止策の策定、女性理事の割合を増やすことを求めていました。このような発言は個人としての責任だけではなく、発言を許容してきた組織の問題であるとともに、ジェンダーギャップの解消がなかなか進まない日本社会の現状を反映したような問題だと考えていたからです。

今回の件をきっかけに、今までにないくらいジェンダーに関する報道が増え、企業や組織、学校でも「自分たちの組織ではどうだろうか」と体制を見直す動きが増えていると聞きます。わたしたちが声を上げたことで、組織委員会の変化だけでなく「見過ごすこと」に慣れてしまっていた日本社会の変化の一助にもなることができたのかなと思っています。

2年前、留学中にデンマーク人の友人が言っていた「声を上げたら変わるから活動をする」という言葉を、私も今は言えるような気がしています。

20代にも存在するジェンダーギャップ。2183年まで待っていられない

突発的なニュースでムーブメントが起きることは多々ありますが、ジェンダーギャップ自体はすぐには解消しません。「ジェンダー平等」という言葉がキャッチコピーになって盛り上がるだけでなく、本質的で劇的な改革が取り組まれていく必要があります。

「ジェンダー不平等は上の世代の話」「今の子どもや若者の世代の意識は変わってきている」と思われがちですが今の20代にもジェンダーギャップがあります。だから私は、ジェンダー平等の問題を単に世代の問題だとは思えないのです。

例えば、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップランキングで日本において一番差が大きいのは政治分野(144位/153カ国)でした。市議会議員の年代別男女割合データを見てみると、市議会議員の20代・30代でも男女で4倍の差があり、年代ごとにこのギャップが埋まっている訳ではないのです(参考:全国市議会議長会総務部・市議会議員の属性に関する調(令和2年7月集計))。

若い世代の議員数が少ないという問題も同時にありますが、ジェンダー平等は待っていればやってくる訳ではなのです。

2020年版世界ジェンダーギャップ報告書では、このままの改善ペースではジェンダー平等ギャップが埋まるのは日本を含む東アジア・太平洋地域では163年後、つまり2183年であると書かれています。改善スピードが遅い日本ではもっと先とも予想できます。

これまで日本でも女性参政権、男女雇用機会均等法、家庭科・技術科と男女共修など、声を上げてきた前の世代の努力によって、ジェンダー平等が一歩ずつ実現してきました。これまで声を上げてきた人たちがいたから、私たちは今の恩恵を享受できています。でも、これまでの改善のスピードでは、私たちの次の世代でも次の次の世代でもジェンダーギャップは存在するということになります。私たちがこれから生きていく社会をもっと生きやすく、希望を持てる場所にするために、これまで以上に取り組まれる必要性を感じています。

どうやったらジェンダー平等が実現するのか。私は今回の森喜朗氏の発言に対する署名活動を通じて、一人ひとりの署名の参加やSNSでの発信、会話の話題にしてみること、今いる自分の職場の環境を見直してみることなどがどれだけ意味のあるものかを実感しました。
「わたしたちが生きたい社会はどんな社会か」と想像し、そのために意思を表明すること、行動すること。多くの人の行動の積み重ねの先に「わたしたちが生きたい社会」はあるのだと思います。

PROFILE

NO YOUTH NO JAPAN
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「参加型デモクラシーをカルチャーに」をビジョンに掲げ、U30世代が政治や社会について知ってスタンスを持って行動するための入り口づくりを行う。U30のための政治や社会の教科書メディアをInstagramなどで運営するほか、イベントや記事の執筆を行っている。

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