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違う場所の同じ日の日記

ささやかな個人史が小さくとも点々と世界に灯り、のこること

テキスト:野村由芽
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日記をつけたい。他の人の日記も読みたい。この日々のなかで、そんなことを思いました。社会全体に突如大きなできごとーー2020年においてそれは未曾有の災難の形をとってーーがやってきたとき、市井の人々の暮らしは「ありふれた日常」から「非日常」に裏返ります。

だけどこの「非日常」である日々にも、ひとりひとりのオリジナルの生活と、その生活を手作りで営み耕していく主体は、それぞれの場所に宿っています。この日々において、わたしたちは何が新鮮で、何に慣れていき、何を失わず、何を手放し、何を手に入れ、何を忘れてしまい、何を忘れずに生きていけるのでしょうか? つぶさに観察し、胸のなかで繰り返し考えては唱え、他者にはたらきかけてみること。「大文字の歴史」ではない、ささやかな個人史が小さくとも点々と世界に灯り、のこること。それらはこれまでの歴史の中でも存在が証明されている、個人がいまをよりよく変え、未来の誰かに寄り添い助けるかもしれない、確かな希望の形のひとつなのだと思います。その手段としての日記を集めたのが「違う場所の同じ日の日記」です。

「ありふれた」というのは「有り触れた」と書く。つまり「ありふれた日常」とは「手触りがある生き方」のことであるとは児童文学作家の村中李衣さんの言葉ですが(『戦争とおはぎとグリーンピース』より)、触ったことのない経験だらけの知らない道をさぐりさぐり進みながら、どうにか日常の手触りを得ようと生きているのがいまなのではないでしょうか。この揺れている日々の景色が、ひとりひとりの部屋の窓をのぞくように、ここに並んだらいいなと思います。

終わりに、日記というごくごく個人的なものを、自分以外の誰かの目にふれることをゆるし、この場所に共有してくださった次の方々に心から感謝します。

穐山茉由さん、安達茉莉子さん、飯田エリカさん、YeYeさん、石山蓮華さん、イトウハルヒさん、伊波英里さん、今橋愛さん、イ・ランさん、植本一子さん、エミリーさん、遠藤麻衣さん、小谷実由さん、大崎清夏さん、かとうさおりさん、楠田ひかりさん、クロダミサトさん、後閑麻里奈さん、小指さん、辛酸なめ子さん、杉田ぱんさん、多屋澄礼さん、手塚よしこさん、つめをぬるひとさん、羽佐田瑶子さん、花田菜々子さん、はましゃかさん、文月悠光さん、堀静香さん、麦島汐美さん、村田倫子さん、ゆりしー(チーム未完成)/松井友里さん、吉野舞さん、和島咲藍さん(随時更新)。

P1…2020年4月4日(土)の日記
P2…2020年4月5日(日)の日記
P3…2020年4月6日(月)の日記
P4…2020年4月7日(火)の日記
P5…2020年4月8日(水)の日記
P6…2020年4月9日(木)の日記
P7…2020年4月10日(金)の日記
P8…2020年4月11日(土)の日記
P9…2020年4月12日(日)の日記
P10…2020年4月19日(日)の日記

2020年4月4日(土)

安達茉莉子さん

とても天気が良い。

Titleさんのウェブショップで注文していた本が届いた。「通販」というより、自分へのプレゼントが届いたような気持ちで包みを開ける。

内藤礼さんの本、花松あゆみさんの作品集。
真っ白な本。『空を見てよかった』。帯も中表紙も前書きもなく、いきなり言葉が始まり、そのままずっと続いていく。
活字しかない絵本のようだとも思った。
展示会場に入っていくときのあの感覚だった。

石山蓮華さん

友人に娘さんが生まれた! うわー! やったー!! おめでとうございます!!! まだ会ったことがないのにその子のことはもう好きだ。早く会いたい。

ひとが一人生まれるというのは、心の中がこんなにうきうきすることなのだ。何だか訳もなく胸の中がくすぐったく、笑い出しそうな涙ぐみそうな。あかるいあかるい春が突然に吹いてきて部屋中に花を咲かせるような気持ち。ああ、会いたいなあ。

イトウハルヒさん

もともとはレッスンに行く日だった。昨今のコロナウイルスの騒ぎで中止になり、当面再開の予定がたたないということで、昨日私の口座には今月のレッスン費が払い戻された。ついでに、行くはずだった演劇のお金も払い戻されて、私の手帳の予定はまっしろになった。

植本一子さん


朝起きて冷凍庫を開けると、まさかの冷凍ご飯ゼロ。パンもゼロ。仕方ないのでご飯を炊くところから。お腹が空いてイライラするけど、作らなければ始まらない。いりこで出汁をとって味噌汁。具には麩、ネギ、わかめ、だし殻のいりこの身。昨日の夕飯の残りの鶏胸肉のピカタ、ひじき、きんぴらと、炊き立ての白ごはんで朝とも昼ともいえない時間に4人で食事。

エミリーさん

今日は高校時代からの仲良しの友人たち6人と、“オンラインティーパーティー”をした。全員が家で部屋着を着て、すっぴんメガネ姿でゲラゲラ笑ったりして、まるで高校生の頃に戻ったみたいだな、と思った。

遠藤麻衣さん

悠さんの展覧会のオープニングに行くために久しぶりに外に出た。外がとても明るくて、散っている桜の花びらが綺麗だった。目と体が喜んでる感じがする。その前で写真を撮って、せっかく撮ったし、インスタにあげたいなと思うんだけど、何度か投稿しようとして結局やめた。オープニングは、飲食なし、入場制限、除菌スプレーとマスクをつけておごそかだった。

大崎清夏さん

朝、ひとけの少ない近所の広いカフェでコーヒーとハンバーガー。陽射しが暖かくて気持ちいい。午後、電話がふたつかかってくる。用件はともかく、人の声を聞けるのが嬉しい。

かとうさおりさん

朝起きてメールチェック。

She is編集部さんから、コロナウイルスと向き合うプロジェクトを立ち上げたとのメールが届いていた。昨晩、SNSで目にしていて改めて彼女たちの行動力や考え方、大切にしているものへの思いに感銘を受けていたところ。

楠田ひかりさん

4月から予定していたロンドンへの留学が中止になり急遽引っ越して早一週間経つけれどまだ床に段ボールが転がっている。毎日家にいるのでちまちま片付けていたら一向に終わる気配なし。意を決して今日は片付けの日だと集中モード。青葉市子『qp』をリピート再生しながら、段ボールの中身をそれぞれの棚や引き出しにしまっていく。この家は、シャワー、洗濯機、キッチンが共用で、部屋ではお湯が出ない。毎朝アイスミントのケトルで湯を沸かし、洗面器にためて顔を洗う、その流れで下着を手洗いする、先に洗濯機にぶち込んでおいたタオルと一緒に乾燥機にかけるまでが日課になりつつある。洗濯物が乾いたらルイボスティー。段ボール終わってなくてもルイボスティー。家にずっといると無限にお茶を飲んでしまう。そうこうしているうちに昼。

クロダミサトさん

家族三人で近所の公園に出かける。杏里には誰もいないときだけ公園で遊んでも良し、お友達が来た場合はすぐに帰ること、と約束をしている。近所にある小さな公園は今まで何度も来ているが人と会ったことがほとんどない。

小指さん

《私の彼は警備員です。しかも、よりによってコロナで大変なこの時期に、都内の病院に配属されました。
彼は正面玄関の警備と、夜間の巡回と受付を任されています。人手不足で、夜間の救急の要請の対応や些細な問い合わせも全て彼が1人で、対応しています。

羽佐田瑶子さん

7時起床。青(1歳1ヶ月)の夜泣きがひどく、身体がしんどい。朝も昼も夜もひとりの時間がないため、ほんとうは5時半に起きて本を読んだり映画を観たりしたいのに難しい。日中、食欲が止まらない。朝食にパン、の後にケーキ。外出していないのに、このままでわたしの身体は大丈夫なのだろうか? と、不安ばかりつのるため、一旦休憩。なかしましほさんのレシピでスコーンをつくる。

堀静香さん

今日は夫の誕生日だ。一緒に過ごすのは、もう9回目になる。9度目の4月4日。毎年このシーズンはプロ野球の開幕戦があって東京にいた頃はふたり、よく横浜スタジアムに行ったものだった。スタジアムのなまぬるい、湿気や熱気のまじった空気。桜はもうわりと散っている。プラスチックカップで飲む泡の多いビール。そんなことを思い出す。
しかしここは東京ではなく、今年はプロ野球も始まらない。そこで、というわけではないが9年目にしてはじめてちょっとしたサプライズをすることにした。

麦島汐美さん

会社は今週から原則的に家での仕事になった。月、火と気持ちが塞ぎ込んでしまって、上司にそのことを正直に伝え、水曜日から金曜日まで有給を取った。家でじっとして、SNSやメディアに流れてくる情報を浴び続けていたところに、sheisさんからメールがあって、日記を書いてみることにした。

ゆりしー(チーム未完成)/松井友里さん

晴天。日中、スーパーに買い物へ行くため、近道だし、気分転換も兼ねて最寄りの公園を通り抜ける。
かなり巨大な公園で、通常であればうってつけのこの季節、時間を見つけて足を運び、人目を避けて雑木林に潜む猫たちを探したり、ゆるゆると歩きながら池の亀や鴨、園内を覆う緑の狭間に咲く花や、道に落ちている得体の知れない果実を楽しんだりするのだけど、今日は、まったく、予想以上に人がいることにたじろいでしまう。普段から、混んでいるところへ行くと「混んでるね」と他人事のように言ってしまうことがあるけど、もちろん自分もその混雑をつくっているうちの一人。ジョギングする人や、駆け回る子どもを、さりげなく避けるように早足で歩く。

和島咲藍さん

右耳をソファに強く押し当てて寝そべりながら、就職活動のことを考える。もともと全然向いていないのだとは思う。みんながしているのと同じタイミングではどうしても動き出せなくて、休学までした。自分と向き合う時間をとり、海外で働いてみたり色んな大人たちとたくさん話したりして、ようやく少し折り合いがついて重い腰を上げたところで、前触れもなく、たちまち国境のない危機が世界を覆ってしまった。

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