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第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。

自分の裁量で何かをすることへの憧れの原体験があった

2018年5月 特集:生活をつくる
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
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私は10年以上前に、大学進学がきっかけで九州から関東へ引っ越した。関東と言っても都内へ出るには1時間弱かかるし、あまり都会に進出した感じはなく、むしろ地元と大差ないような場所だった。駅ビルにあったミスドでカフェオレのおかわり無料という恩恵に預かりながら、友人と閉店まで長話をしていた。

大学4年の時、なんとなく個人経営の店でアルバイトをしてみたいと思うようになり、求人誌ではなく自分の足で歩いて、気になった場所に電話をして求人があるかを聞くという、今思えば結構な道場破りをしていた。そんな時に見つけたのが、女性1人で経営していた某カフェ。大学から数駅離れていたこともあり、知り合いに遭遇しそうな気配はない。周りにはマンションや住宅がぽつぽつと散在し、道路や歩道がやたら広くて、誰も知らないような場所にそれはあった。

店の雰囲気だけでなく、コーヒーやカレーの味、メニューに書かれた手書きのへろっとした文字、暇になると読書をする店主さんの人柄、長すぎも短すぎもしないブログ、トイレの天井にあるパイプに無理くり挟まれていたスプラウトくん(名前が分からず「グリーン 野菜 アメリカ キャラクター」で検索したら一発で出てきた。ネットすごい)のぬいぐるみ、その全てが気になって、時々通うようになった。「店内のBGMは何ですか」と聞けばメモに書いて教えてくれたし、エレグラ(『Electraglide』というフェス)の話をしたこともあった。

大学の外にいる人と音楽の話をできるのが嬉しかった。アルバイト先を探していたはずなのに、私は結局そこで働きたいと申し出ることをしなかった。というかできなかった。内部に土足で入り込むなんて野暮だと思うくらいには、尊敬の思いが強くなってしまった。

ブログで「終了いたします!」という一文であっさり閉店の告知がされたのは、私が大学を卒業して3年経った頃だった。なんてブレがないんだろう。最後にお店のテーブルや皿を販売するということで久しぶりに店を訪れ、皿を購入した後、トイレにいたスプラウトくんのぬいぐるみが欲しいと言ったら譲ってくれた。今は私の部屋のパイプに無理くりはさまれている。

今思えば、自分の裁量で何かをすることへの憧れの原体験がそのカフェにあったのかもしれない。もう閉店しているのに「某」をつけて濁したくなるのは、「それって○○ですか?」というリプが欲しいからではない。自分にとって心地の良いことや環境がどんなものかを考えた時に思い出すような場所が、いつまでも頭の片隅にある人なら分かるんじゃないか。

5月の特集テーマ「生活をつくる」の爪「region」

もう行けないのに、人に教えたくない場所がある。もう行けないから、ではなくて。

使った色

A. She is オリジナルネイル「Hidamari」
5月のギフト「生活をつくる」に同梱
B. 緑
C. 白
D. 青
E. マットトップコート
F. 細筆の白
G. ブルーベリー(資生堂ネイルエナメル ピコ BL603 ぶるーべりー)

B〜Dは100均やコスメストア等で購入できる。
Gは資生堂から販売されているピコシリーズのもの。
深いブルーのネイルによく見ると細かいブルーのラメが入っていて、太陽光に当てるとその輝きがよく分かる。
薄く塗ると青とも深緑とも言えない独特の色をしていて、深海から獲ってきた海藻のようでもある。

塗り方

1. 右手の小指に緑を、左手の薬指に白を塗る。
2 その他の爪に「Hidamari」を塗る。
3. 1の爪を少し乾かした後に上からマットネイルを塗る。
4. 2のうち、右手の親指、左手の人差し指に青で大きく三角に塗る。
5. 青の三角の上に、細筆の白で短い線を描く。
6. 白を塗った爪の上から、細い筆かつまようじを使ってブルーベリー(BL603)で短い線を描く。白の上からマットネイルを塗ると、色の組み合わせ次第では陶器のような質感になり、素朴な雰囲気の爪を描くことができる。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。CDジャケットやイベントフライヤーのデザインを爪に描きそのイベントに出没する「出没記録」、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作、爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、 身体性のあるファンアートとして、DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUME爪」。これら活動を並行しながら年に数回、人に爪を塗る「塗る企画」を TONOFON FESTIVAL2017等の音楽フェスやその他イベントにて実施。

INFORMATION

連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
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第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。

第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。

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