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第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。

そこを非日常とする人と一緒に行けば帰省も旅行になる

2018年7月 特集:旅に出る理由
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
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5月に熊本へ行った。まるで旅行のような書き方だが、これは帰省だ。

私にとって、高校までの18年間を過ごした場所であり、10年以上離れている場所でもある。年に数回帰省することはあっても、「何か熊本で美味しいお店ある?」と聞かれると答えに困ってしまう。好きだったお好み焼き屋は潰れてしまったし、当時の高校生が通う店といえば近所にやたらと点在しているファミレスだけだ。

私にとっては過去に「日常」だった地元。しかし、この時同行した彼は地元が関東のため、熊本に行くことは「非日常」であり、それは帰省ではなく旅行だった。

素朴な疑問だが、観光地の周辺に住む住民は、観光スポットに足繁く通うのか。「そんなしょっちゅうは行かないよ」という人が多いんじゃないだろうか。大仏の周辺に住む人は、夢の国の近辺に住む人はどうだろうか。いや、夢の国は行くかもな。

何はともあれ、私は彼を連れて帰省したわけだが、彼は彼でどうしても行きたい場所があった。阿蘇の大観峰だ。映画『ユリイカ』のラストシーンのロケ地である。役所広司と宮崎あおいが共演しており、彼の一番好きな映画らしい。途中で流れるジム・オルークの楽曲や、ラストシーンの話を何度も聞かされた。

「大観峰についたら俺がラストシーンの宮崎あおいをやるから、役所広司やって」と言われた。今の聞いたか。私が役所広司だそうだ。いざ到着すると、5月とはいえ山頂だから、とにかく寒い。小雨も降っていて風が冷たかった。大観峰の石碑がある場所まで、るんるんで歩く宮崎あおいと、震える役所広司。

私も大観峰は「小さい頃に行ったかもしれないけど、もしかしたら初めてかもしれない」くらいの記憶しかなくて、実際その地に立ってみると、そんじょそこらの山とは違っていた。昔のWindowsのデスクトップを彷彿とさせる草原の緑色のビビッドさ。

文字にすると陳腐にしか書けなくて難しいけど、これは私にとっても「非日常」かもなーなんて思っていたその時だ。突然彼が叫んだ。「○○(私の名前)! 帰ろう!」それは『ユリイカ』のラストシーンで役所広司が叫ぶセリフだ。あれ、結局君が役所広司をやるのか。

私は「さむいさむい、車に戻ろう」と言ってその場を後にした。もちろん、宮崎あおいにそんなセリフはない。

自分にとっては日常を過ごした場所であっても、地元の滅多に行かない観光地に「そこを非日常とする人」と一緒に行くことによって、帰省が旅行になる。あの景色だけでも、だいぶ非日常だと思っていたが、映画の再現をさせられたのも、なかなか非日常じゃないか。彼は満足げだった。「天気が良い時にリベンジしよう」とも言っていた。次こそ、私が役所広司かしら。

7月の特集テーマ「旅に出る理由」の爪「pop」

いつの日か、喫茶店で飲んだ炭酸。カラフルな寒天ゼリーを爪に閉じ込めた代わりに、解放したい何か。

使った色

A. She is オリジナルネイル「Night trip navy」
(7月のギフト「旅に出る理由」に同梱)
B. ラメ入りのネイル (今回は2月のギフトに同梱されていた「Ultra love」を使用)
C. マットトップコート
D.
E. ビビッドな水色
F. 少し透ける緑
G.

C~Fは100均やコスメストア等で購入できる。
D,E,Fは寒天ゼリーに近い、ハッキリとした色を選ぶと可愛い。

塗り方

1. 右の親指・小指と左の中指以外を「Night trip navy」で塗る。
2. 1の上からラメ入りネイルで、間隔広めのドットを描く。
3. 右の小指を白で塗る。
4. 右の親指にマットトップコートを塗り、上から赤や水色、緑で小さい点を描いていく。
5. 中指に赤や水色、緑で大きめの四角をランダムに描いていき、十分に乾燥させた上からマットトップコートを塗る。

4と5の赤や水色、緑は四角を描くように意識して描くとソーダに入った寒天ゼリーのように見える。
4はマットの上に色を、5は色の上からマットを塗るとそれぞれ違った発色をするので楽しい。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。CDジャケットやイベントフライヤーのデザインを爪に描きそのイベントに出没する「出没記録」、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作、爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、 身体性のあるファンアートとして、DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUME爪」。これら活動を並行しながら年に数回、人に爪を塗る「塗る企画」を TONOFON FESTIVAL2017等の音楽フェスやその他イベントにて実施。

INFORMATION

連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
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第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。

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