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第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。

テレビのミュートばりの静かな動きをしていた彼との夜

2018年4月 特集:ほのあかるいエロ
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
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その夜、私は大学の先輩の結婚式二次会に参加していた。当時付き合い始めて間もない彼がいて、二次会が終わったら皆の輪から抜けて、別の場所で待つ彼と合流することにしていた。前々から「どこか泊まりにでもいきますか」と初お泊まりを企てていたのだ。

結婚式二次会の後だから、もちろん正装。「おめかししてるんで」とふざけてLINEを送った。

二次会が終わり、皆の輪から少しずつ離れて彼と合流し、ホテルへ。既にチェックインを済ませていたようで、部屋には彼の荷物があった。冷蔵庫に買ったものを入れようとした時、そこには当時私がマイブームでよく食べていた煮卵が入っていた。女の子が好きそうなスイーツなどではなく、煮卵。事前にコンビニで買って冷蔵庫に入れているところを想像した。喜ぶ私も私だ。

その後、事を済ませて就寝。明け方くらいだろうか、彼がトイレへ行こうとしてベッドから抜けた。音を立てないよう、スローモーションの映像ばりの動きでトイレのドアを閉めている。まるでテレビのリモコンのミュートボタンを間違えて押してしまった時のようだった。映像は動いているのに音が全くしなくてびっくりするあれだ。

愛かよ。そう思いながら私はまた眠りについた。そのミュートに私が気付いていたことを未だに彼は知らない。

私はこの夜の行為そのものよりも、彼女を起こさないように気を配ったり、好きな食べ物をこっそり用意したりなど、前後の出来事が未だに印象に残っている。少し違うかもしれないが、たなかみさきさんの「セックスとは帰るまでがプレイ」に便乗してしまうと、セックスとは合流するところからプレイが始まっているのかもしれない。

夜にもいろいろあって、ちゃんと付き合っている人と真摯に向き合う夜もあれば、付き合っていない人との「楽しかった、また会いたいとは思わないけど」みたいな夜や、そのときは遊びとも本気とも違う、一言で表現出来るほどチープで簡単なものではなかったけれど、後になれば「でも確かにあれはチープだったけどな」と言ってTwitterを触ればものの5秒ですぐに忘れるような夜もある。

どれも、行為の前後込みで完成されるものであり、「始まっている」と思った時からそれは始まっているのだ。

来月、このミュート彼を父に会わせることになっている。父は、私のTwitterを時々見ている。この記事も見るかもしれない。見たら複雑だろうか。

これが推薦書の役目を果たす可能性もあるが、そもそも公共の場を推薦書にしていること自体がチープかもしれんな、と我に返る深夜1時。
こういう夜もある。

4月の特集テーマ「ほのあかるいエロ」の爪「cheap」

抱かれた話を文字にすると「全くもってチープな話ですよ」というスタンスで書きがちなのは、
「つまらないものですが」と言いがちなジャパニーズスタイルのそれと似ている。

使った色

A. She is オリジナルネイル「Fever pink」
4月のギフト「ほのあかるいエロ」に同梱
B. 白
C. ゴールド
D. 赤
E. 暗めのパープル

B~Dは100均やコスメストア等で購入できる。
Eで今回使用したのはSKINFOODという化粧品メーカーの「Nail vita VI 408」。
暗めのパープルの中に赤と青の2色のラメが入っていて面白い。

塗り方

1. 親指と薬指に白、人差し指と中指にFever pink、小指に暗めのパープルを塗る。
2. 中指に白で丸を描く。乾いたら上から赤で点々を描く。
3. 親指にFever pinkでくびれた曲線を爪の根元から先に向けて描き、くびれた側を塗りつぶす。
4. Fever pinkで爪の縦3/4~半分くらいの領域を、縦に弧を描くにように塗る。
5. 親指と薬指にゴールドと赤で点を描く。
  点はゴールドで複数、赤でワンポイントだけ描くのがおすすめ。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。CDジャケットやイベントフライヤーのデザインを爪に描きそのイベントに出没する「出没記録」、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作、爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、 身体性のあるファンアートとして、DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUME爪」。これら活動を並行しながら年に数回、人に爪を塗る「塗る企画」を TONOFON FESTIVAL2017等の音楽フェスやその他イベントにて実施。

INFORMATION

連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
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第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。

第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。

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第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。

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