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第十四回:爪作家と名乗る理由。

「ネイリスト」には相応しくない、その理由

2019年1月 特集:ハロー、運命
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
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私は自分のプロフィールに「爪作家」という肩書きを書いている。別に肩書きなんて何でも良いし、今だに「爪作家です」と声に出すのが小っ恥ずかしくて、言えた試しがない。そもそもこの「つめをぬるひと」という名前だけで、だいたい何をしているかを分かってもらえることが多いので、尚更、肩書きなんて必要なかった。

しかし、その代わりに「ネイリストさんですか」と頻繁に聞かれることが多くなった。無理もないが、本当によく聞かれる。つけ爪を作ったり、人の爪を塗る職業を、ネイリストというのかよく分からないが、私の技量はとてもプロには敵わないし、そう名乗るのはプロの方に失礼だと思っている。

そもそも、私が自分のことをそう呼ぶに相応しくないと思っているのは、ある出来事によるものがとても大きい。

活動当初は好きな音楽のCDジャケットやイベントのフライヤーのデザインを爪に描くことが多く、つけ爪制作や、人の爪を塗るということを始めたのはもう少し先のことだった。その「好きな音楽のCDジャケットを爪に描く」ということのきっかけは、Metronomyというイギリスのアーティストに爪を見せに行ったことだった。

私はMetronomyの大ファンだ。以前、クリスマスシーズンの記憶がほぼなくなるくらいに冬が繁忙期だった職業に就いていた私は、激務中の激務である12月の通勤時に、Metronomyの軽やかなのに明るすぎないエレクトロポップや、お茶目なMVに助けられていた。

仕事を辞めてからも聴き続けていたMetronomyが、2014年の『SUMMER SONIC』で来日。しかもサイン会まであるということを知った私は、それまで簡単な模様を描いていただけだった爪にMetronomyのCDジャケットを描いて彼らに見せてみようと思い立った。その時描いたのは『The English Riviera 』というアルバムで、代表曲でもある“The Bay”が収録されている。この曲に何度助けられただろう……と楽曲に思いを馳せながら、爪を描いてサイン会に参加した(こう書くとなんか重い)。

Metronomy『The English Riviera』の爪

Tシャツを購入して列に並び、最初に見せたサックス・キーボードのOscar Cashに「おー、アメイジング!」と言われた。その後メンバー全員に見せ、最後にヴォーカルのJoseph MountがTシャツに「Your nails are amazing」と書いてくれた。

一瞬の出来事だったが、本当に嬉しかった。こんな嬉しいことがあるか。頑張って爪を描いて良かったな。そうだ、爪を描いて良かったと思うようになった最初の瞬間はおそらくこれだった。描き甲斐みたいなものをそこに見出してしまったのかもしれない。

この出来事を境に、いろいろなライブイベントでフライヤーやCDジャケットのデザインを爪に描くようになり、時にはアーティスト本人に見せることもあった。最近はそういったことをしなくなったが、このことから派生したのが、DOMMUNEの配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」である。

DOMMUNE爪を含む、2018年に描いてきた爪の中から好きな爪をTwitterのリプライで募る『輝く!爪大賞2018』

これらのことを思うと、ネイリストという肩書きはさすがに違和感しかない。しかし頻繁に聞かれる「ネイリストさんですか?」という質問。ウェブで取り上げていただく際に求められる肩書き。

「つめをぬるひと」という名前は、分かりやすいけど分からないという不思議な名前だ。ネイリストとして働いているわけではないです、ということが分かれば良いやと思い、一番近い言葉を私なりに無理矢理捻り出した結果が「爪作家」だが、分かりやすくなったかどうかは正直自信がない。特に変える理由もないので、現在もプロフィールはそのままにしている。このよく分からない肩書きと名前は、一般的な爪を塗るという行為からほんの少し脱線した結果である。

1月の特集テーマ「ハロー、運命」の爪「recoat」

運命を「線」ではなく「平面の重なり」として解釈することの発見。

使った色

A. She is オリジナルネイル「Aurora Power」
1月のギフト「ハロー、運命」に同梱)
B. グレー
C. モスグリーン
D.
E. 濃いピンク
F.

塗り方

1. 右薬指にモスグリーン、右小指に黒、左小指に濃いピンクを塗る。
2. 残りの爪にグレーを塗る。
3. 完全に乾いてから、全ての爪に「Aurora Power」を塗る。
4. 両親指にモスグリーン、黒、濃いピンクを使って正方形を描く。
5. 白で小さい点を好きな位置に入れる。

今回の「Aurora Power」は単体で使用するのも綺麗だが、何かの色に重ねて使用すると、全く違う色に変わる。
重ね塗りの注意点としては、あまり乾いていない状態で濃い色の上に使用すると滲みやすいので、完全に乾いてから重ね塗りをしたほうが良い。

今回は「重なり」をテーマに制作した。運命というと、誰かとの繋がりや、運命の糸など、線でイメージすることが多いが、自分の行いを積み重ねた結果が何かに繋がったり、人と人が出会うことで新しいことが見えたりと、なにか平面の重なりのようなもの、という解釈で見るのも面白いのではないかと思い、重ね塗りで色が変化する様子や、正方形の重なりをモチーフにした。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。CDジャケットやイベントフライヤーのデザインを爪に描きそのイベントに出没する「出没記録」、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作、爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、 身体性のあるファンアートとして、DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUME爪」。これら活動を並行しながら年に数回、人に爪を塗る「塗る企画」を TONOFON FESTIVAL2017等の音楽フェスやその他イベントにて実施。

INFORMATION

連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
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第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。

第十四回:爪作家と名乗る理由。

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