She isの更新は停止しました。新たにリニューアルしたメディア「CINRA」をよろしくお願いいたします。 ※この画面を閉じることで、過去コンテンツは引き続きご覧いただけます。

第二十一回:根拠のないおまじない。

根拠のないおまじないから救済されたものの続きは優しい

2020年1・2月 特集:これからのルール
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
  • SHARE

小さい頃、「守らなくても困らないルール」を自分に課して、無駄に追い込むことがよくあった。今から友達との会話で特定のワードを3回言わないとよくないことが起こる、とか熱湯に一瞬だけ指を入れることができたら明日の発表会は成功するとか。

この漠然としたルールは、なんの根拠もないただのおまじないのようなものだ。逆にそのルールを守ったほうがよくないことが起こりそうだけど、それでも思いついたら最後まで実行しないと気が済まない。そんな気持ちに突然見舞われる、ということが小学生の頃までたびたびあった。

よく考えたら今でも、似たようなものはうんざりするほど私たちに課されようとしている。何歳までに結婚しないといけない。誰からも好かれないといけない。別に守らなくても困らないルール。これは、昔自分に課していたよく分からないルールと大差なく、根拠のないおまじないのようなもので、別に守らなかったからといって「よくないこと」は起こらない。

家にあるお菓子は、買った順に食べる。または賞味期限が早いものから食べる。これは当たり前のことだと思っていたけど、人から「え! 食べたいものから食べたらいいのに!」とびっくりされたことがあった。守らなくても困らないルールとは少し違うけど、この歳になって「食べたいものから食べていい」と言われることはあまりないので、心は弾んだ。

以前会社勤務だった頃、昼休みに会社の人とお喋りをしていて、始業時間をほんの少し過ぎてしまったことがあった。慌てて席に戻ろうとした私に、その人は「1、2分くらいだったら別にいいのでは」と言った。本当は昼休みが終わる前に席に戻るのが常識なのかもしれないし、何事も程度の問題だと思うけど、仕事に支障が出ない範囲ならば、ルールに縛られすぎる必要はないのかもな、と思わせる台詞だった。

自分に課すルールの中で、守らなくても困らないものに分類されるものは、もしかしたらあまり自分ではルールと思っていなくて、気づかない間に気持ちが縛られている場合がほとんどなのかもしれない。そしてそういうルールから解いてくれるのは、たいてい他者がきっかけだったりする。そんなきっかけを自分が受け取ったり、時には誰かに与えたりすることは、ちょっとした救済だと思う。

1・2月の特集テーマ「これからのルール」の爪「liberation」

根拠のないおまじないから救済されたものの続きは優しい

使った色

A. She is オリジナルネイル「Milky way」
1月のギフト「これからのルール」に同梱)
B. ベージュ
C.
D. ワインレッド
(今回はNAILSINCのMarylebone Courtを使用)
E. 細筆の金
F. ラメの入ったネイル

1. 右手の親指にベージュ、薬指に赤を塗り、細筆の金で線と点のモチーフを描く。
2. 左手の中指の下半分に「Milky way」を厚めに塗り、上半分をワインレッドで厚めに塗る。
3. 2の上下の境目を筆で乱す。あまり色を混ぜすぎないようにする。
4. 残りの爪を「Milky way」で塗り、右の親指の縦半分にラメのネイルで塗る。

秋冬にカフェオレ爪という、コーヒーとミルクが混ざる直前を模したつけ爪を作っていて、その爪はこの2,3の方法で作っている。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。CDジャケットやイベントフライヤーのデザインを爪に描きそのイベントに出没する「出没記録」、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作、爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、 身体性のあるファンアートとして、DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUME爪」。これら活動を並行しながら年に数回、人に爪を塗る「塗る企画」を TONOFON FESTIVAL2017等の音楽フェスやその他イベントにて実施。

INFORMATION

連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
She isのオリジナルネイルを使って生まれた爪のレシピとエッセイを毎月お届け

第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。

第二十一回:根拠のないおまじない。

SHARE!

第二十一回:根拠のないおまじない。

She isの最新情報は
TwitterやFacebookをフォローして
チェック!

RECOMMENDED

LATEST

MORE

LIMITED ARTICLES

She isのMembersだけが読むことができる限定記事。ログイン後にお読みいただけます。

MEMBERSとは?