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第二十六回:成長を祝うおせち。

私だけの祝日は、ハレとケの境界線を自分で決める

2021年1・2月 特集:それぞれの祝福を
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
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私は「料理を大人から教わる」という経験があまり多くない。特に高校生の時は家事をほぼ自分でしていたので、大学から一人暮らしをした時に「家事ってこんなに大変なんだ」と気づくのではなく、「一人分の家事ってこんなに楽なんだ!」と感動したのを覚えている。

ただ、一人暮らしの料理というのは自分が食べたいものを食べるから、栄養も見栄えも気にせず、モザイクをかけたら茶色しか使わなくて済むご飯ばかり食べていた。数年前に夫と住み始めてから気づいたことは、私は料理を「ただしていた」だけで、上手なわけではなかったということだ。

夫は小学生の頃に「料理の鉄人」ブームで「俺は周富徳になる!」と言っていたらしく、その頃からお母さんに料理を教わっていた。今でも料理をすることが好きで私よりも上手いので、一緒に住み始めた当初は、私が作ったものにやんわりと指摘が入った。今まで私の中で常識だと思っていたことがたくさん覆されたし、使うと美味しくなる調味料の知識も増えた。

そうした指摘や知識を、覚えたり、忘れたり、また思い出したりしているうちに突入した2020年。家にいる時間が増え、今まで作ったことのないものや、時間をかけて作るものに挑戦することも増えた。

特に料理欲を刺激されたのは、YouTubeのVlog。生活音の多い動画が好きで、物音だけがするモーニングルーティーンや、淡々と料理をしている動画を、夕方頃から作業用BGMとして流すことで、炊事へのモチベーションを高めてから夜ご飯を作るという習慣がついた。

この頃の私は、千切りに癒されていた。これまでの人生で「千切りがしたい」なんて思うことがあっただろうか、と思うと少し感慨深いが、千切りをしていると仕事のことやSNSの情報から離れられるし、無心になれる。火が通るのも早い。

先日のお正月は、人生で初めておせちを作った。最初は「なんか作ってみようかな」くらいのふんわりとした思いつきだったけど、日頃から貴重なご意見を頂戴する夫を感嘆させてみたくなったし、料理ができるようになった自分の“成長”を可視化してお祝いしたいとも思った。

作ったといっても、黒豆と数の子は出来合いだし、重箱の調達が間に合わず、結局おせちプレートということにして皿に盛り付けた。こんなに重箱需要のありそうな時期でも、あまり重箱を置いている店がなくてびっくりしたが、「まあそんなに何個も買うものじゃないからな」と無理やり自分を説き伏せ、海老や高野豆腐を煮て、芋きんとんや紅白なますも作って、蒲鉾の飾り切りにも挑戦した。

料理が上手な人からしたら難しいことではないのかもしれないけど、私にとっては成長なのだ。

おせちは新しく迎える年の健康や幸せを願うものなのかもしれないけれど、今回のおせちは、頑張った一年の成長を祝うおせちだったのかもしれない。

1・2月の特集テーマ「それぞれの祝福を」の爪「Praise」

私だけの祝日は、ハレとケの境界線を自分で決める

使った色

A.淡い黄色
B.
C.
D.ベージュ
(今回はマットのベージュ「OSAJI アップリフトネイルカラー 103 余韻」を使用)
E.
F.オレンジ
G.ミントグリーン
H.シルバーラメ

塗り方

1.右手の親指・中指、左手の中指・小指を淡い黄色で塗り、紺で波線のモチーフを描く。
2.右手の人差し指、左手の薬指を紺で塗る。
3.右手の薬指・小指、左手の親指・人差し指を赤で塗り、ベージュで波線のモチーフを描く。
4.右手の親指と、左手の人差し指に、オレンジ・ミントグリーン・シルバーラメで小さい点を描く。
5.右手の小指と、左手の中指に白で点を描く。
6.右手の人差し指に、白で細く線を5本描く。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪を制作・販売するほか、TONOFON FESTIVAL 2017などの音楽フェスやイベントで来場者に爪を塗る「爪塗り企画」や、ウェブでのコラム連載、ライブ&ストリーミングスタジオ”DOMMUNE”の配信内容を爪に描く「今日のDOMMUNE爪」など、爪を塗っている人らしからぬことを、あくまでも爪でやるということに重きをおいて活動。2020年12月に書籍「爪を塗る ー無敵になれる気がする時間ー」を刊行。

INFORMATION

つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
She isの特集をもとに生まれた爪のレシピとエッセイを毎月お届け

第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。
第二十五回:公にしなくてもいいという親心。
第二十六回:成長を祝うおせち。

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