第二十五回:公にしなくてもいいという親心。

「自分らしさ」は必ずしも振りかざさなくてはいけないものでもない

2020年9・10月 特集:自分らしく?
連載:つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
テキスト・撮影:つめをぬるひと 編集:竹中万季
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つけ爪を作って販売をしていると、ものを作っている人やその作品を知る機会が増えていき、SNSでは日々更新されていく多くの作品や、その人の思いを目にする。

そんな中、数か月前に見かけたのが、イラストの無断使用についての投稿だ。あるイラストレーターの作品が、全く知らない人のグッズに無断使用され、許可なく販売されているという注意喚起の内容だった。複数のイラストレーターが被害にあっていることが分かり、その投稿はあっという間に拡散され、グッズは販売停止。無断使用をした本人のSNSのアカウントは消えていた。

私はイラストを描く人ではないけれど、似たような経験があり、今でも「これはつめさんに寄せているのではないか」という、お客様からの心配のお声と報告をいただくことはたまにある。そのことを思い出した私は、単純にそのイラストの無断使用をした本人の、人となりのようなものが気になった。

こういう時、SNSに多くあがる意見が、「そういうことをして楽しいんですかね?」「虚しくならないんだろうか」というもの。私がその時思ったのは、いわゆる「クリエイター」という職業はそこまでしてなりたいものなのだろうか? ということだった。

そこまでするということは、憧れや、そうなりたいという願望があるからなんだと思うけど(あくまで憶測なので違う理由があるのかもしれないけど)、なにかを作って発表するということは、「自分らしさ」が矢面に立つということでもある。

そして日々なにかを作っている人は、決して日頃から順風満帆というわけではなく、割とまあまあのペースで苦悩や葛藤を抱え、常に悩みと渋々同居しながら作品を生む人が大半な気がしている。

「自分らしさ」なんて問われても私は即答できない。多くの人がそうなんじゃないかと思う。即答できないものを形にして公にしようとしているのだから、悩みや葛藤が生じるのは自然なことかもしれない。SNSには出さない人でも、実際に会うと、正解の見えない苦悩を抱えていたり、何かと引き換えにしながら作品を生み出したりしている現状を目の当たりにすることもある。

さきほど書いた「虚しくならないんだろうか」というのは、そういう苦悩や葛藤を知らずに、上澄みのおいしいところだけを味わうことに意義はあるのかということだと思う。

誤解のないように言っておくと、クリエイターだって大変なんだぞ! と言いたいわけではない。個人的には、表面上は「わりと楽してます」と振る舞いながら、影で努力するのが美徳だと思っているし、自分の苦悩を表に出すことも好きではない。

でも、いろいろな話や意見を目にして、日々「自分らしさ」を問いながら、気を揉んでいる人が大勢いることを知ると、無断使用をしたその人に、そこまでしてこのクリエイターという沼に足を踏みいれたいのかな、それとも沼だということを知らないだけなのかしら、とある意味親心のように想いを馳せてしまうのだ。

糾弾がしたくてこんなことを書いているわけではないし、これから何かを始めようとする人を止めたいわけでもない。ものを作ることの醍醐味は苦悩以上のものがあるからこそ、私もこの仕事をしているのかもしれないけれど、それと同時に「自分らしさって必ずしも人類全員が公にしないといけないものなの? もっと自分や身近な人の間で見守るだけじゃだめなの?」という思いがある。

誰かに見てもらいたいという思いは悪いものではないけれど、クリエイターであることはステータスでもなんでもないし、「自分らしさ」は必ずしも振りかざさなくてはいけないものでもない。

「自分らしさを大事に!」と大声で言わなくても、気付いたらその人から滲み出ていて、それを身近な人のあいだで近所の猫をなでるように「今日もいい感じね~」と伝えあうような「自分らしさ」もあっていいはず(前回の地域猫の記事をまだ引きずっている。猫はかわいい)。

こんなふうに猫猫言ってるから私は「自分らしさ」を即答できないのかもしれないけど、それじゃだめなのかな。「自分らしさ」は大袈裟に誇示するのではなく、手元で可愛がるくらいがちょうどいいかもしれないのにね。

9・10月の特集テーマ「自分らしさ?」の爪「Personality」

輝く光も、さりげない光も、どちらも眩しくて愛くるしい。

使った色

A. ミントグリーン
B. ラメの入った黒
(今回は「OSAJI アップリフトネイルカラー doukutsu」を使用)
C. ショッキングピンク
D. グレー
E. ゴールド
F. 粒子の細かいラメ
(今回は「NAILHOLIC SV029」を使用)
G. ホログラムの大きめなラメ
(今回は「資生堂ネイルエナメルPICO 05 ゆびわ」を使用)
H. 細い白筆

塗り方

1. 右手の親指にラメの入った黒を、左手の小指にショッキングピンクを塗る。
2. 右手の人差し指と、左手の薬指にグレーを塗り、残りの6本の爪にミントグリーンを塗る。
3. グレーの爪2本の右上あたりと、両手の中指のミントグリーンの爪の左上あたりにゴールドでラインを入れる。
グレーとミントグリーンの爪をそれぞれ近づけると、ゴールドが隣り合うようになるはず。
4. 右手の親指の上部に、粒子の細かいラメで楕円を、左手の親指の下部にホログラムの大きめなラメで楕円を描く。
この楕円は、綺麗な楕円でなくても、だいたいの形で十分可愛い。特に左手のホログラムのラメで描く楕円は、ネイルポリッシュの液体が透明であれば、そんなに綺麗に楕円を描かなくても、それなりに綺麗に見えるので、そんなに構えて描かなくてもいい。
5. 白い細筆で、4.で描いた楕円に集中線のような線を描く。

今回は、今月のテーマのキービジュアルでもある、いとうひでみさんのイラストに描かれた、手の中に宿るものについてのアンサーのような爪にした。

PROFILE

つめをぬるひと
つめをぬるひと

爪作家。CDジャケットやイベントフライヤーのデザインを爪に描きそのイベントに出没する「出没記録」、「身につけるためであり 身につけるためでない 気張らない爪」というコンセプトで爪にも部屋にも飾れるつけ爪の制作、爪を「体の部位で唯一、手軽に描写・書き換えの出来る表現媒体」と定義し、 身体性のあるファンアートとして、DOMMUNEの配信内容を描く「今日のDOMMUME爪」。これら活動を並行しながら年に数回、人に爪を塗る「塗る企画」を TONOFON FESTIVAL2017等の音楽フェスやその他イベントにて実施。

INFORMATION

つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
つめをぬるひととつくる自分のために塗る爪
She isの特集をもとに生まれた爪のレシピとエッセイを毎月お届け

第一回:彼は「自分なんて」を一切言わない。
第ニ回:コンプレックスの有効活用。
第三回:ターニングポイントはボーナストラック。
第四回:変わることと隠すことは紙一重。
第五回:「始まっている」と思った時から、それは始まっている。
第六回:誰も行けないのに、誰にも言いたくない店の話。
第七回:過去の手紙と、SNSをやっていない友人。
第八回:帰省という日常と、旅行という非日常。
第九回:朝5時、蒸し暑い夏の幕張。
第十回:物欲と金銭状況の均衡。
第十一回:拠点を変えてみるという選択。
第十二回:全力で応えるのは敵意ではなく好意でありたい。
第十三回:競技よりも色濃い、発掘された石の記憶。
第十四回:爪作家と名乗る理由。
第十五回:配色という名の遊び。
第十六回:夢のような夜明け。
第十七回:苗字が変わることで救われる人もいる。
第十八回:自分に課した楽しみでさえも逸してみる休日。
第十九回:服の影に見惚れたこと。
第二十回:体の操縦。
第二十一回:根拠のないおまじない。
第二十二回:なんてことない場所でも楽しいと思えることを誇ろう。
第二十三回:自分に合うという感覚を大事にする。
第二十四回:ダミ声の猫。
第二十五回:公にしなくてもいいという親心。

第二十五回:公にしなくてもいいという親心。

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